MENUMENU

第5回 自動車業界は、統合的な対策で低炭素化を追求する[前編]

日本自動車工業会 環境委員会 運輸政策対応WG主査/トヨタ自動車 先端技術開発カンパニー 環境部 プロフェッショナル・パートナー 茂木 和久氏、日本自動車工業会 環境統括部調査役 大須賀 竜治氏


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授


印刷用ページ

 日本自動車工業会は、乗用車、トラック、バス、二輪車など国内において自動車を生産するメーカーを会員として1967年に設立され、自動車メーカー14社によって構成されている。日本の自動車産業の健全な発達を図り、日本経済の発展と国民生活の向上に寄与することを目的に活動している。自動車業界のグローバル・バリュー・チェーン(GVC)について伺った。

日本自動車工業会 運輸政策対応WG主査 茂木和久氏

日本自動車工業会 運輸政策対応WG主査 茂木和久氏

同会 環境統括部調査役 大須賀 竜治氏

同会 環境統括部調査役 大須賀 竜治氏

―――自動車業界の取り組む温暖化対策は統合的な対策と伺っています。具体的な対策の柱について教えてください。

茂木氏:われわれの温暖化対策として、4つの柱があり、それをまとめて統合的対策と言っています。1つ目の柱は「燃費消費効率の良い自動車」です。燃費の改善や各種次世代自動車を投入していく計画です。政府には免税や減税など支援していただいています。次世代自動車の中でも電動車(xEV)が今後のCO2排出削減のキーとなります。
 2つ目の柱は「効率的な利用」です。エコドライブの実践と物流の運送・積載効率の向上があります。
 3つ目の柱は「交通流の改善」。渋滞は余分なエネルギーとCO2の排出になりますので、ETC(料金自動収受)やITS(インテリジェント・トランスポート・システム)など、道路の環境や信号も含めて政府にはインフラ整備をお願いしております。
 4つ目の柱は、「燃料の多様化」です。一時期バイオ燃料の開発・実証が国内でも盛んでしたが、それほど普及していません。今後普及を図っていくことも大事でしょう。また電気自動車の充電設備の設置も増やしていく。さらに燃料電池自動車の燃料として水素の供給も必要です。
 これらの4本の柱は、自動車メーカー、利用者、政府、燃料供給者が参加し努力を行うことで、より効果的に大きな削減が可能になります。

*電動車(xEV):HEV(ハイブリッド車)、EV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、FCEV(燃料電池自動車)

―――統合的な対策の下で、グローバル・バリュー・チェーン(GVC)を推進されるわけですね。

茂木氏:そうです。例えば、海外特にASEAN地域において日本メーカーは新車を多く購入していただいています。これらの国に自動車の燃費向上もありますが、やはり渋滞もひどいですので道路の整備やエコドライブの必要性について、各国を回って話をしています。ASEAN各国も温暖化対策に動き出していますので、日本の経験を参考にしてもらうような活動もしています。

―――ASEAN諸国、そして中国市場への注目も高いのではないでしょうか。

茂木氏:中国は世界一の自動車大国になっています。電気自動車(EV)を国策として推進しており、EVの販売台数も世界一です。日本の自動車メーカー各社は、中国市場に積極的に攻勢をかけている状況です。

―――日本の自動車メーカーにとって、EVなどの電動車(xEV)を中国市場に販売・展開していくのは、経済的な成長とともに、グローバルな観点から温暖化対策にもなりますね。

茂木氏:そうですね。しかし、中国は石炭火力の全発電量に占める割合が高いため、系統電力から充電するEVより、普通のハイブリッド車のほうがCO2は少ないという現実もあります。将来中国の戦略がどうなるのかは注視する必要があると思います。

―――次に、『自動車の環境技術と国際貢献』についてお伺いできますか。

茂木氏:まず、国内の次世代自動車の普及実績ですが、現在の販売台数は約160万台です。自動車販売台数の約36.4%となっており、省エネに大きく寄与することが期待されます。新車販売台数に占める次世代自動車の割合は、右上がりに増えています。(図1

*次世代自動車:ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車、CNG車、クリーンディーゼル車

(図1)出典:日本自動車工業会

(図1)出典:日本自動車工業会

 次世代自動車の国内販売台数の推移の表を見ていただくと、ハイブリッド車の割合が突出して多い状況です。(図2

(図2)出典:日本自動車工業会

(図2)出典:日本自動車工業会

―――プラグイン・ハイブリッド(PHEV)やEVのシェアは国内では小さいですね。

茂木氏:現在、日本政府としてはPHEVやEVの普及を推進しており、じわじわ増えてはいますが、微妙に停滞しているところもあります。シェアで1%ぐらいしかないので、まだこれからです。

―――乗用車の燃費基準の達成状況はどうですか。

茂木氏:燃費基準の達成状況としては、 2000年以前から徐々に上がってきて、2009年辺りからハイブリッド車の販売が伸び、アイドリングストップ装置やCVT(無段変速機)の導入が進んだことで、新車の平均燃費が大きく向上し、2020年度基準をすでに達成しています。2030年度基準が最近決まりましたので、これからは、それに向けて削減の努力をしていかなければなりません。

(図3)乗用車の燃費基準と達成状況 出典:日本自動車工業会

(図3)乗用車の燃費基準と達成状況 出典:日本自動車工業会

―――さらに2030年度基準は高くなっているわけですね。

茂木氏:はい、非常に高くなっています。ここで、燃費の値の前に、2030年度基準では試験の走行モードが変わっていることをお伝えしておきます。現在の日本では燃費の測定は「JC08モード」が採用されていますが、新基準では「WLTCモード」に切り替わります。WLTC(Worldwide-harmonized Light vehicles Test Cycle)は、世界的に調和された自動車の試験方法であり、国連の場で決められた世界共通の試験法なので、この認証を受けたらWLTCモードを採用している国のどこでも販売することができます。

大須賀氏:政府が2019年6月にまとめた新車販売に関する新たな燃費規制案に、2030年度の燃費の目標が示されました。新車販売の平均燃費として、WLTCモードでガソリン1リットル当たりの走行距離を25.4キロメートルに設定しています。2016年度実績に対しては、走行モードでの燃費違いを換算すると32.4%の改善を求めるものです。
 現行規制では2020年度に1リットル当たり20.3キロメートルで、2009年度実績比で24.1%改善が目標でした。

―――この基準を達成するのはかなり厳しいのでしょうか。

茂木氏:はい。電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)は現在1%程度ぐらいしか売れていませんが、新車のうちEVとPHEVの新車販売台数を合わせて20%と想定して、目標値を作っています。

―――2030年の燃費目標を達成するために、必要な要素は?

茂木氏:まずEVとPHEVのコストが下がらないと買っていただけません。バッテリーの画期的コストダウンが前提になります。今の状態だと、まだそれが見えていない状況です。
 EVとPHEVの販売シェアが1%の状況で政府から補助がありますが、これが20%になっても、総額はたぶん増えないと思います。現状の20分の1の補助となると、実質ゼロになります。つまり補助なしで、実現しなければならない目標になると思います。

大須賀氏:目標達成のために、補助金支援は期待できない一方、EVの利用価値にインセンティブをつけるという施策はあると思います。例えば、海外ではEVやPHEVは優先レーンで走行ができる、高速道路料金を割引くなどの支援策があります。新車販売のうちEVとPHEVを20%にする目標は簡単には実現できないため、政府関係者とも協議をしたいと考えています。

―――次世代自動車のグローバルな普及とCO2削減貢献についてお聞かせください。

茂木氏:欧州、米国、中国がほとんどですが、世界における燃費改善によるCO2削減量の実績を当会でまとめています。(図4)海外で販売された電動自動車が2016年までの使用段階で貢献したCO2排出削減量の実績は、2000年から2016年の累積で3390万トンになります。電動車の普及拡大が進んでいる状況で、累積の削減貢献量は二次曲線的に増加しています。長期的に大幅な削減が期待できます。

(図4) 出典:日本自動車工業会

計算条件 次世代車とガソリン車・ディーゼル車の燃費差
各国の年間走行距離、車両寿命、実燃費換算は各国政府(EPA等)や大学の公表値
(図4) 出典:日本自動車工業会

―――ハイブリッド車を中心に普及が進んでいますね。

大須賀氏:ハイブリッド車は2000年頃から導入され、国内におけるハイブリッド車新車販売は30数%と伸びていますが、海外はまだそこまでの水準ではありません。われわれは、ハイブリッド車の伸びしろがまだ海外ではあると考えています。EVの伸びしろもあると見込んでいますので、グローバルにCO2排出削減に貢献できると思います。
 現在、ハイブリッド車の販売割合が高いのは米国、次いで欧州で、中国でもハイブリッド車の販売が増えつつある状況です。

―――中国以外のアジア市場はどうですか?

茂木氏:普通のガソリン車やディーゼル車の販売が主流です。

―――今後、中国以外のアジア市場において電動車が伸びる可能性はありますか。

大須賀氏:そうですね。今後、アジア市場でも伸びしろがあると思います。

茂木氏:アジアでも経済発展しているインドネシアやタイ、マレーシアは「EVを推進したい」と温暖化対策計画の策定をしていますが、最近では「現実的にはまずハイブリッド車の導入を」と言っています。
 本格的にEVの導入拡大を図るとなると、自国内のインフラ整備やEVの補助金支援など、やるべき施策がいろいろあります。これらの国では、電動車の減税措置は実施していますが、政府が補助金を出して推進する施策までは至っていません。

大須賀氏:そうしたこともあり、新興国に対して、当会が温暖化対策の政策面での誘導も含めて、統合的アプローチ活動を行っています。

茂木氏:インドネシア政府との対話やバンコクモーターショーでのセミナー等、これまでに累積でタイに9回、インドネシアに5回、マレーシアに4回、フィリピンやベトナム、インドに各1回現地での統合的アプローチ活動を実施しています。

後編に続く〉



GVCを通じたCO2削減貢献企業の新たな温暖化対策の記事一覧