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地球温暖化は生物多様性を増す

書評:クリス・D・トマス 著、上原 ゆうこ 訳『なぜわれわれは外来生物を受け入れる必要があるのか』


キヤノングローバル戦略研究所/IPCC第6次評価報告統括代表執筆者(イノベーションとテクノロジー)


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電気新聞からの転載:2019年4月26日付)

 目から鱗の、生態学の新常識。

 誰がこの本を書いているかが重要である。著者のクリス・トマスは、地球温暖化によって種の絶滅が起きる可能性について、英国の学術誌ネイチャーに2004年に論文を発表した、生態学研究の第一人者だ。

 トマスの研究の枠組みと主張は後続の研究者によって継承され、14年の地球温暖化問題に関する国連の諮問機関である気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の環境影響評価報告書でも大きく取り上げられた。

 ところが、トマス自身の考え方は、今では大きく変わっている。地球温暖化で種の多様性はむしろ増すのだ。考え方は至って明快。地球温暖化で予測されていることは、温かくなり、またそのため海洋からの蒸発量が増えて降水量が増し、湿度が地球全体としては高くなることだ。温かくて湿度が高くなれば、種の多様性は増す。これは、極地よりも温帯の方が、更には温帯よりも熱帯のジャングルの方が種の多様性が高いことから、直感的に理解できる。

 もちろん、地球温暖化によって絶滅する種もいる。例えば、生息地が限られている高山植物だ。地球の温度が上昇すると、現在高山植物が生えているところに、他の植物が生えるようになって、絶滅してしまうリスクがある。

 だがここで、プラスの面にも目を向けよ、とトマスは言う。高山植物以外の植物にとっては、生息域が増えるチャンスである。温暖で湿度が増した地球では、そのような植物が活発に繁殖し、進化し、交雑し、生物多様性を増してゆく。

 そして高山植物は、人の手でどこか住みやすい涼しい場所に移してやるとよい、とトマスは続ける。生態系とは、何度も氷河期の洗練を浴びて形成された、じつにしたたかなもので、気候の変化に合わせて自らも変化することは異常事態などではなく、むしろ常態だ。

 それに人類は、狩猟採集・農業・移住・貿易などを通じて、世界中の生態系をかき回してきた。このせいで大型動物の種が失われ大絶滅が起きているのは事実だ。けれども、むしろこのかく乱で生物多様性は増した。どの場所でも、ほぼ例外なく、侵入した種の方が、絶滅した種よりも多かった。種は世界を移動しながら進化してきた。ならば外来種を毛嫌いすることもないではないか。


※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず

「なぜわれわれは外来生物を受け入れる必要があるのか」
クリス・D・トマス 著、上原 ゆうこ 訳(出版社:原書房)
ISBN-10: 4562055936
ISBN-13: 978-4562055937



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