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ブルーカーボンとは


国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所 沿岸環境研究グループ長


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 「ブルーカーボン」という言葉は、まだ世にあまり知られていないと思われる。それもそのはず、この「ブルーカーボン」という言葉は、2009年に国連環境計画(UNEP)がはじめて作り出した言葉なのだから。

 海洋生物によって大気中の二酸化炭素が取り込まれ、海域で貯留された炭素のことを、UNEPはブルーカーボンと名付けた1)。生物の作用によって貯留された炭素のことは、もともとこれまで「グリーンカーボン」と呼ばれていた(私自身、15年前まではそのことさえも知らなかったが...)。グリーンカーボンのうち、海域で貯留される炭素をブルーカーボン、そして森林など陸域で貯留される炭素をグリーンカーボンと、区別して呼ぶようになった。

ブルーカーボンのポテンシャル

 海域が炭素貯蔵庫として特に重要なのは、海底泥中に貯留されたブルーカーボンが長期間(数千年程度)分解されずに貯留される点である.これは、海底泥内が基本的に無酸素状態にあり、バクテリアによる有機物の分解が抑制されるためである。

 海底には年間1.9億~ 2.4億トンの炭素が新たに埋没し貯留されると推定されている1、2)。驚きなのは、海洋全体の面積の1%にも満たない浅海域(海底まで光が届くエリア)が、貯留される炭素全体の約73~79%を占めているとされている点である(図1)1、2)


図1 地球全体の炭素の流れ.浅海域の海底泥への炭素貯留速度は、陸棚や外洋域よりずっと速い.文献2)を改変

 陸や海は、地球における炭素の主要な貯蔵庫となっているとともに、大気中の二酸化炭素の主要な吸収源にもなっている(図1)。とりわけ亜熱帯の陸と海の境界に発達するマングローブ林では、単位面積あたりの二酸化炭素の吸収速度が速い(図2)。マングローブのほか、浅海域では、塩性湿地、海草藻場、海藻藻場といった生態系による吸収速度が速い。


図2 浅海域による二酸化炭素吸収速度の比較.文献2)を改変

 国内に目を向けると、 もっとも二酸化炭素を吸収しているのは海藻藻場であり、続いて海草藻場、マングローブ、干潟の順となっている(図3)3)


図3 国内の浅海域による二酸化炭素吸収速度.文献3)をもとに作成

ブルーカーボンがなぜ今注目されるのか

 ブルーカーボンに関する科学的な知見は、近年顕著に増加している。一方、気候変動の緩和技術やネガティブエミッション技術(NETs)としての評価も最近始まっている4、5)。NETsは大気中の二酸化炭素を除去する技術のことであり、森林管理、土壌管理、湿地・沿岸域(ブルーカーボン生態系)再生といった自然ベースの技術や、直接大気中の二酸化炭素を捕捉し貯留するといった工業ベースの技術が提案されている(図4)。NETsを自然ベースと工業ベースの技術に分けて比較してみると、以下のような長所短所がある。

(1)
社会実装への障壁
自然ベースの技術は、社会実装への障壁が小さく、持続可能といった長所がある.工業ベースの技術は、コスト、エネルギー消費、環境負荷など、社会実装には解決すべき課題がある
(2)
コベネフィット(相乗便益)
自然ベースの技術は、気候変動の緩和だけでなく、さまざまなコベネフィット(食料供給、水質浄化、観光レク、防災減災などの生態系サービス)も期待できる
(3)
不確実性と低効率
自然ベースの技術は、自然そのものを用いるため、工業ベースの技術より不確実性が高く、効率が低いといった短所がある.例えば、二酸化炭素吸収速度が遅い

図4 様々なネガティブエミッション技術(NETs)の比較.文献4)を改変.
ブルーカーボンは「湿地・沿岸域の再生」として整理されている。

 最近報告され始めたブルーカーボンの評価は、自然ベースの技術の特徴を反映したものとなっている。例えば図2によると、ブルーカーボンのNETs としての評価は、長所・短所や技術ポテンシャルを総合的に判断し、最良の部類となっている。

 あるいは、全米科学技術医学アカデミーのレポートでは5)、以下の評価となっている。

(1)
ブルーカーボンは他のNETsよりも二酸化炭素除去ポテンシャルが低い(全球レベルで1.3億トンCO2/年程度)
(2)
ブルーカーボンへの投資はそもそも他の生態系サービスや気候変動への適応をターゲットとしたものが多いため、NETsとしての追加的なコストは低い(0~20米ドル/トンCO2
(3)
今後、海面上昇や気候変動、沿岸域管理が、ブルーカーボンによる二酸化炭素吸収速度に与えるインパクトについて、さらに理解を深める必要がある

<参考文献>

1)
Nellemann, C., et al.: Blue Carbon. A Rapid Response Assessment. United Nations Environmental Programme, GRID-Arendal, Birkeland Trykkeri AS, Birkeland (2009)
2)
Kuwae, T. and Hori, M. (eds) Blue Carbon in Shallow Coastal Ecosystems: Carbon Dynamics, Policy, and Implementation. Springer Singapore, 373 p. (2019)
3)
桑江朝比呂ほか:土木学会論文集B2-75(海岸工学)、印刷中
4)
Innovation for Cool Earth Forum (ICEF): Direct Air Capture of Carbon Dioxide, ICEF Roadmap, 39 p. (2018)
5)
National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine: Negative Emissions Technologies and Reliable Sequestration: A Research Agenda. Washington, DC: The National Academies Press, 495 p. (2019)


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