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巨額資金が流れ込む米中EV市場

ダイムラーもゴア元米副大統領も投資


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2018年11月号からの転載)

 米EVベンチャー、テスラのイーロン・マスクCEOは8月7日、ツイッターで「テスラを私企業(非公開)化することを考えている。株式を1株420ドルで買い取る予定で、資金は確保済み」とつぶやいた。
 420ドルでの買い取りが約束されたテスラ株は、買い注文を集め上場以来の値上がりとなり、同月7日の終値は前日終値(341.99ドル)より11%高い379.57ドルとなった。
 テスラは赤字が続き、資金調達が不透明になっていたことから、証券アナリストの一部からは「破綻近し」の見方も出ていた。そのため、同社株は株式市場最大の空売り銘柄になっていたが、ツイートを受けて手仕舞う投資家も多く、空売り残高は急減した。
 ツイート内容が事実かどうか市場でも疑う声が出ていたが、マスクCEOは同月13日、サウジアラビアの公的ファンドと資金交渉を行っており、話がまとまると思ったのでツイートしたと釈明した。見通しの段階で「資金は確保」と表現したことになり、これが適切だったかどうか議論を呼ぶことになった。
 その後、米証券取引委員会(SEC)や米司法省がテスラの調査に着手したことが明らかになった。「何人も、証券売買に関連し重要事項の虚偽を述べてはならない」との米証券取引法「10b-5」に抵触している疑いがあるためとみられる。テスラは、司法省からの要請に応じ自主的に書類を提出したが、それ以上の調査対象などはないと発表している。
 しかし、SECは9月27日、マスクCEOがテスラを私企業化することに関し虚偽の発信を行ったとして、提訴に踏み切った。その後和解したが、マスクCEOの役割は制限されることになる。
 中国は現在、EVの販売台数、累積台数とも世界一となっており、ニューヨーク株式市場に上場を果たす中国EVベンチャーも登場している。米国では、非上場のEVバスメーカがダイムラー、BMW、アル・ゴア元米副大統領が関与するファンドなどから資金を集め、注目されている。EV市場に巨額の資金が流れ込み、競争は増々激化しそうだ。

中国市場に登場した新星

 2017年のEV(ハイブリッド車を含む)の世界販売台数は115万台で、うち50%強は中国で販売された。世界のEV累積台数は300万台を超えたが、中国はその40%を占めている()。産業振興と大気汚染対策に力を入れる中国の中央、地方政府がEV導入拡大を後押ししており、同国のEV市場は急成長している()。


表 主要国のEV 累積台数と販売台数
※プラグインハイブリッド車を含む
出所:国際エネルギー機関


図 世界と中国のEV 累積台数の推移
※プラグインハイブリッド車を含む
出所:国際エネルギー機関

 そんな中、中国国営の自動車メーカーJAC(江淮汽车、安徽省)の協力を得たEVベンチャー、ニオ(Nio)が今年6月、合肥市のJAC工場で製造される航続距離220マイル(350㎞)の新型SUV(EV)「ES8」を売り出した。来年には小型SUV「ES6」も売り出す予定だ。
 中国市場でのES8の販売価格は約7万ドル(約780万円)、テスラ「モデルX」の中国での販売価格13万5000ドル(約1500万円)のほぼ半額だ。将来、ニオは米国市場にも進出する予定だ。
 ニオは9月12日、ニューヨーク株式市場に米国預託証券の形で上場し、約10億ドルを調達した。同社株(売り出し価格6.6ドル)は翌13日に11.6ドルまで上昇したが、その後、米中貿易摩擦激化の懸念を受けて下落し、同月25日は7.70ドルとなっている。
 米サンフランシスコ湾岸に本社を置く非上場企業のフラシス・エナジーは、リチウムイオン電池のメーカーだが、工場が中国国内に2カ所あるため、中国企業と業界では認識されているようだ。今年操業を始めた江蘇省鎮江市の工場は、年産能力2000万kWhの巨大工場とされている。さらに、中国国営の自動車メーカーBAICと共同で、北京にバッテリー工場を建設する計画を発表している。
 今年初め、フラシス・エナジーは7億9000万ドルの資金調達を行ったとされるが、9月には10億ドル超の資金調達を行ったと発表した。同社は、欧州に新工場を建設し、2021年に操業を始める予定としている。中国と欧州のEV市場拡大を前提にした工場建設だ。

EVバス企業も資金調達

 米カリフォルニア州バーミンゲームに本社を置くEVバスメーカーのプロテラは、サウス・カロライナ州の第1工場に続き、ロサンジェルスに第2工場を建設するため、昨年1月、1億4000万ドルをGMベンチャー、エジソンエナジーなどのベンチャーキャピタルから調達した。昨年6月には、5500万ドルをBMWのベンチャー部門やアル・ゴア元米副大統領が関与するジェネレーション・インベストメント・マネージメントから調達した。
 プロテラは今年9月、ダイムラーなどから1億5500万ドルを調達するとともに、同社の大型車の電動化を検討することで合意した。その第一歩として、北米のスクールバス市場向けにダイムラーバスの電動化を検討することになった。
 プロテラは、バッテリー、可動部分を内製化しており、バッテリーの性能が優れていることで知られている。同社の40フィートバスに搭載されている最も容量の大きいバッテリーは660kWhで、走行性能は公称350マイル(約563㎞)、実走行でも218~327マイル(約350~526㎞)とされる。充電時間は2.4時間だ。
 同社はこれまでに、米国とカナダの40州の90公共交通機関などに675台のバスを納入している。
 ダイムラーは、日本でも三菱ふそうトラック・バスを傘下に持つなど、トラック販売では世界最大手。2017年のトラック販売台数は47万700台に達している。両社が協力関係を結んだことにより、EVバス分野で、中国BYD(比亜迪)に並ぶ企業が誕生したことになる。
 テスラも昨年、EVトラックの販売を発表した。すでに予約を受け付け、ウォルマート、ペプシ、DHLなど多くの企業が前金を支払い予約済みだ。バッテリーの能力は、充電時間30分で400マイル走行可能という驚異的なものとなっている。引き渡しは来年からの予定だが、バッテリー性能と航続距離からすれば、考えられないほどの低価格で販売している。一部メディアは、トラックの引き渡しが実際に行われるかどうか疑問としている。
 プロテラがダイムラートラックとの協力体制を構築したことから、今後はトラックでもプロテラのバッテリーを採用したダイムラー製EVトラックが登場する可能性が出てきた。
 EVバス、EVトラックでは米国と中国の企業が先行している。トラック、バスのバッテリー市場規模はかなり大きいと思われるので、この分野での出遅れは、乗用車用バッテリー市場での出遅れにつながる可能性もありそうだ。日本企業もそろそろ乗り出す時期かもしれない



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