燃料電池駆動の列車(2)


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 前回のコラムで述べたように、ドイツでアルストム社の燃料電池駆動列車が実用的に使われ始めたことから、日本ではどこまで技術開発が進んでいるかを知るため鉄道総研から具体的な成果について教えて貰った。同総研が燃料電池駆動列車技術の開発に着手したのは2001年。基礎的な開発の後、2004年からの第2フェーズで、100kWの燃料電池で1両編成の列車を走らせてデータの収集を行っている。筆者が実際に乗せてもらって走行を経験したのはこの頃のことだろう。燃料電池を補う蓄電池を搭載していなかったこともあって、照明、空調などの補機類には、架線からパンタグラフで取り込んだ電力を使用していたようだ。

 2007年から2008年迄の第3フェーズに入り、燃料電池と蓄電池をハイブリッドにした駆動試験を行うようになった。燃料電池出力の制御だけでは、円滑に加速、減速させるのが難しかったのだろう。最終段階に入った現在では、2両編成列車の駆動はほぼ蓄電池で行い、それを充電する役割を燃料電池が担う形となり、燃料電池はほぼフラットな出力で利用する形となっている。さらには、蓄電池だけでなく、燃料電池とそれに燃料を供給する高圧水素タンクも、現在広く使われている1,500V系の電車の床下に取り付けることが出来るように工夫されているから、新たな車両開発の必要性は小さくなるだろう。2019年中に所内走行試験を開始する目標となっている。実用化の一歩手前まで来ていると言って良かろう。


鉄道総合技術研究所の許可を得て転載した
ハイブリッド試験車の写真

 この試験用燃料電池列車に使われている燃料電池は、残念ながら海外製のものだが、固体高分子電解質型だから日本の製品に置き換えることも出来るはずだ。リチウムイオン電池も国内には性能が優れたものも多い。この燃料電池列車を商品化して無電化路線で走らせれば、電化に必要な架線延長のコストが不要となり、さらには、ディーゼル駆動の列車からの地球温暖化ガスであるCO2排出量をゼロ近くまで下げることが出来る。また、燃料電池からはディーゼルエンジンのような騒音が発生しないために、これを利用する乗客の快適性は大きく向上する。

 次の課題は燃料である水素をどのように調達するかだろう。水素は合成化学事業や製鉄業で大量に作られており、流通システムも出来ているから調達自体は可能だ。しかし、その水素の製造過程で化石燃料が使われるのが問題となる。風力発電・太陽光発電からの電力で水を電気分解して水素を作る事業が始まっているから、その方式を使えば、変動する再生可能エネルギー(VRE)で作ったCO2フリーの水素で列車を走らせることができ、かつ、水素貯蔵設備を蓄電装置として運用することもできることから、VREによる送電系統の不安定化も抑制できる。世界的には高いとされる日本の鉄道の電化率は、全体で見れば67%ほどだが、応用の対象は量的に見るとまだ大きいだろう(鉄道電化率については、http://deadsection.image.coocan.jp/dead_sec/electrify.htm)。

 燃料電池列車の実用化には、当然のことながら、車両製造事業者に技術移転が行われなくてはならない。その意味で、前稿で述べた車輌製造事業を傘下に持つJR東日本とトヨタが事業連携するということは、大きな受け皿が出来ているとも言える。他の車両メーカーも関心を持つはずだ。次に考えるべきは、商品化が出来たときにどこから燃料電池列車の運用を始めるかだが、それについては次稿で述べてみたい。