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秋田県湯沢市地熱発電所視察記


日本・東京商工会議所 産業政策第二部 主任調査役


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 2018年9月、日本商工会議所は、東京商工会議所と合同で「地熱発電所視察会」を開催し、秋田県湯沢市に建設中の山葵沢地熱発電所と操業24年の上の岱地熱発電所を視察した。
 日本の地熱は、資源量としてはアメリカ、インドネシアに次いで世界第3位、2,350万kWあるが導入量は少ない。火山や地熱地域の分布から、地熱発電所は東北と九州に集中しており、発電設備容量の合計は約52万kW、発電電力量は2,007GWh(2017年度;(2018/7発行JOGMEC「地熱」資料より))である。政府は、本年7月に公表した「第5次エネルギー基本計画」において、再生可能エネルギーについて、2030年に実現を目指すエネルギーミックス水準(電源構成比率)で22~24%とし、長期的には主力電源とすることを盛込んだ。一方、現在導入されている再生可能エネルギーは日本全体で7.8%、内、水力(約51%(2017年3月;資源エネルギー庁資料より試算))、太陽光(約42%)がほとんどで、風力(約4%)、バイオマス(約3%)、地熱(約0.6%)は僅かである。2030年の計画でも、順に約40%、31%、8%、18%、4%である。中でも地熱は、現状も計画も非常に少ない。
 そもそも地熱発電は、火山の「マグマの熱」を利用して発電を行うが、①マグマ溜まり、②雨や河川水の供給:マグマ溜まりの熱による高温の蒸気や熱水があること、③キャップロック:高温の蒸気や熱水を閉じ込めておく蓋の役割、④地熱貯留層:キャップロックを使って高温の蒸気や熱水を貯めておける地層、の4つの条件がそろっている必要がある。プレートが新しく生まれる大西洋中央海嶺上に位置するアイスランドでは地熱が地表面に近く浅い所にあるのに対し、日本はプレートが海溝へ沈み込んでいく場所であるため、マグマ溜まりが地中の深くに位置していることも、地熱開発を困難にしている要因の一つなのだという。
 山葵沢地熱発電所(以下、「山葵沢」)は、国内第5番目の規模、出力42,000kWであり、2019年の運転開始に向けて建設の最盛期を迎えている。一方、上の岱地熱発電所(以下、「上の岱」)は、出力28,800kWと山葵沢に比べれば規模は小さいが、設備構成は同じなので、上の岱を見ることで山葵沢の稼働後の様子も想像できる。

「発電所はどこ?!」

 山間の森の中の道をバスで走っていると、「ここから山葵沢発電所です」と、いつの間にか発電所敷地内に入っている。地球の力を用いる地熱発電所は規模が壮大で、山葵沢は、生産基地から還元基地まで、標高約900mの山中(範囲:約2.5km×1km)に標高差約65m、面積約15万m2にわたり広がっている。更に、生産井、還元井共に掘削長は1,500~2,000mに及び、また、発電に使い終わった熱水を還元井に戻すための輸送管は延長約2kmに及ぶ。一方、地熱発電の燃料は地中奥深くにあるマグマに暖められた蒸気と熱水。LNGや原油などの原料を保管するタンク群などのストックヤードが無く、他の資源を使う発電所やプラントのイメージとは大分違う。
 輸送管のために自然豊かな山を大きく切り開いた様子はあまりなく、森林の境界、道路(県道や林道)に沿うように敷設されている所が多い。また、輸送管は、熱による伸縮を吸収ためのU字型加工部も含め、熱水が自重で輸送されるように下り勾配に設置されている。生産基地近くの上流部は急峻な地形で、森の中に設置されたジャンプ台の様である。更に山道を進むと、ようやく開かれた生産基地に到着する。タービンや変圧器は雪から守るために勾配のある屋根のかかった建屋の中に納められており、外からは発電所であることが分からない。屋外に設置されたセルが並ぶ特徴ある冷却塔や発電所裏手にある生産基地を見て、初めて地熱発電所であることが分かる。

山葵沢・輸送管:道路に沿うように敷設されている

山葵沢・輸送管:道路に沿うように敷設されている

山葵沢・輸送管:熱による伸縮を吸収させるU字部

山葵沢・輸送管:熱による伸縮を吸収させるU字部

山葵沢・冷却塔:多セル型

山葵沢・冷却塔:多セル型

山葵沢・生産基地:配管奥に生産井がある

山葵沢・生産基地:配管奥に生産井がある

 上の岱は栗駒国定公園に隣接した約1km四方のエリアに、自然景観に大変配慮して建てられている。観光名所である川原毛地獄を横目に狭く曲がりくねった山道を走って行くと、山の中腹の深い森の合間に狼煙のような白い湯気が見えてくる。上の岱の生産井や冷却塔から上がっている湯気なのだが、道路からは一切建屋や設備が見えない。しばらく行くと突然、「温泉?!」、道の奥に小洒落た2階建ての山小屋風の建物とログハウスが現れる。正面の山小屋風が発電所本館、左はPR館、右側のお土産物屋さんと思われた平屋建てが事務所である。PR館の裏手の一段上がった所に冷却塔が設置されているが、小型多セル型で高さが抑制されているため、PR館前の道路からはあまり見えない。

上の岱・アプローチ:正面・発電所本館、左手・PR館

上の岱・アプローチ:正面・発電所本館、左手・PR館

上の岱・冷却塔:PR館側からは余り見えない

上の岱・冷却塔:PR館側からは余り見えない

「自然との共存だ!」

 地熱発電所では、自然の力をできるだけ無駄がないように使い、使い終わったら自然に還す。従って、井戸は生産と還元が常にセットで、取り出した量は戻さなければならない。山葵沢の生産基地では、生産井から蒸気と熱水を取り出し、気水分離器により蒸気と熱水を分離、熱水は気化器で気化させてからタービンに送ること(ダブルフラッシュ方式)により効率を向上させている。発電に使用した熱水は約80℃まで温度が低下し、還元井で自重により地下深くに戻され、長い年月をかけて再び生産井から取り出す。まさに天然の巨大ボイラーである。
 上の岱も山葵沢と同様に生産井で蒸気と熱水を分離し、熱水は還元井で地中に戻される。蒸気温度は地中では凡そ300℃、タービン入口では約160℃、0.54kPaである。ある火力発電所のタービン入口の蒸気の例では約600℃、20mPa強、温度も圧力も桁が違う。タービン効率は必ずしも高くないが、燃料ストックの必要がなく、燃料の購入費も不要である。そして、使わない、使い終えた資源(熱水)を地中に戻すことは、太陽光や風力とも異なる地熱の特徴である。

上の岱・生産井:勢いよく蒸気を噴き上げる様

上の岱・生産井:勢いよく蒸気を噴き上げる様

上の岱・還元井:生産性で分離した・使い終えた熱水を地中に戻す

上の岱・還元井:生産性で分離した・使い終えた熱水を地中に戻す

 山葵沢では、敷地造成を始めてみると巨石がゴロゴロと多数出現するなど予想外の事が起こったが、巨石も自然の恵み、小割にして、できるだけ工事に再利用された。また、敷地内には、天然記念物に指定されているサンショウウオが生息する池があったり、貴重な動植物がいたりする。架台や基礎の杭打ちは池を避ける様に位置を変更、希少鳥類は生息・繁殖状況を確認しながら営巣に配慮、そして、希少植物は工事用地外に移植した上で生育状況の確認も行った。また、輸送管が道路を横断する際はカルバートを設置し地下を通すなど、できるだけ自然を壊さない工夫が施されている。山葵沢も上の岱も秋田県南東部の山中に位置し、冬期は深い雪に覆われる。特に山葵沢発電所付近の道路は自力で雪掻きをする必要があり、また、輸送管には雪がなだれ込まない様に防止柵を設ける必要もある。これも、自然相手の開発であることを実感できる点だ。

山葵沢:一部顔をだした巨石

山葵沢:一部顔をだした巨石

山葵沢・輸送管:道路横断部ではカルバートを設置し道路下を通している

山葵沢・輸送管:道路横断部ではカルバートを設置し道路下を通している

「時間はかかるが…」

 岩手県八幡平市の松川地熱発電所が国内で初めて操業を開始したのが1966年。オイルショックを契機として一次エネルギーの多様化のために国策により地熱開発が促進されてきたが、99年以降は新規建設が久しくなかった。2003年にRPS(Renewable Portfolio Standard)制度が導入されるが、大型の蒸気(フラッシュ)発電は対象外であったため、インセンティブが働かず導入が進まなかったという。それが、2011年の東日本大震災の教訓を経て、固定価格買取制度(FIT)が開始され、地熱資源開発促進のための規制緩和が進められて地熱発電への期待が高まっている。山葵沢地熱発電所は、大規模な地熱発電所としては23年振りとなる大型開発プロジェクト。地熱発電開発は止まったままなのではなく、開発に時間がかかっているだけのようだ。
 一般的に地熱資源開発には15年程度を要すると言われている。山葵沢の例で、建設着工から運転開始(2019年5月予定)までに丸4年だが、地熱調査・事業化検討を推進するために、電源開発(株)、三菱マテリアル(株)、三菱ガス化学(株)の三社が出資して湯沢地熱発電株式会社(以下、「湯沢地熱」)が設立されたのは2010年4月。更に遡ること1993~96年(事業開始予定の23~26年前)にNEDOにより調査井が3本掘られ、地熱開発促進調査(環境影響調査:1980~2009年まで全国67ヵ所で行われた)が行われているので、単純計算で所要12年。上の岱も、東北電力(株)と同和鉱業(株)が1981年に共同調査を開始してから営業運転開始までに13年。送電網への接続にも時間を要したという。
 山葵沢では、生産井が新規に6杭掘削されているが、地熱貯留層に向けて斜め(たこ足状)に掘削するもので、地表面からは見えない地下を2km近く計測器を駆使して掘り進め、ターゲットポイントから僅か50mの範囲内に到達させるという。折角掘っても、勢いよく蒸気を噴出する井戸がある一方で、なかなか計算通りには蒸気を噴出させることができない井戸もあるそうで、エンジニアの腕の見せ所だが、泣かせ所でもある。上の岱は山葵沢から直線距離で4km弱だが、川原毛地獄と同エリアに位置し、面白いことに地質・水質が異なるらしく、山葵沢では硫黄臭はしなかったのだが、上の岱では川原毛地獄と同様に硫黄臭がする。表からは分からない地中構造の違いを肌で感じることができる。
 火力発電では、タービン用蒸気には純水を使用しているが、地熱発電では噴出蒸気をそのまま使っている。そのため、タービンの羽根の材質をチタン等に変え、予備のタービンを用意している。また、上の岱では、生産井から取り出した熱水を一旦枡に入れてスケール化し易い物質を自然沈殿させ、上澄みのみ発電所に送っている。
 山葵沢では、配管に光ケーブルや熱センサーを付け、遠隔監視、遠隔操作ができる様にしている。上の岱も、特に冬期は湯沢市内にある事務所から遠方監視するなど、少人数で運転管理している。

 地熱発電は、特に日本では地中深くに地熱貯留層があるため、資源が賦存することは分かっていても開発~建設に時間を要し、より費用もかかる。今回実際に現場を視察してみて、国の支援も活用した企業の努力、技術の進歩、規制緩和、地元とのコミュニケーションの促進等を通じ、これらの課題は克服されつつある一方で、自然との共存等、まだまだ困難も残っていると感じた。しかし、地熱は火力ほどには出力は大きくないが、太陽光や風力に比べて発電の安定性や調整力がある。エネルギーの多様化のために、再生可能エネルギーの選択肢を増やすためにも地熱発電は必要だ。イノベーションとも相まって、今以上に増えることを期待したい。