カリフォルニア州政府に助けられるテスラ

太陽光パネル設置強制化は“恵みの雨”?


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


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「月刊ビジネスアイ エネコ」2018年7月号からの転載)

 日本でかつて、財界首脳が国土交通大臣を訪ね、新築住宅に住宅のエネルギー基準を強制的に適用してほしいと陳情したことがある。住宅の省エネ基準を定めるのはともかく、強制的な適用は市場経済には馴染まないと大臣から回答があったと聞いた。時は流れ、省エネ、温暖化対策のためなら、強制的な手法も許される時代になったようだ。
 米カリフォルニア州のエネルギー委員会は5月9日、建物エネルギー効率規格の2019年改正版に、断熱効果、換気、事務所の照明基準と合わせて居住用住宅に太陽光パネル設置を義務化することを全会一致で盛り込んだ。目的は住宅のエネルギー消費削減だが、最大の狙いは温室効果ガス排出量の削減にあるとされている。
 同州では2020年1月1日以降、新築あるいは大規模改築が行われる3階建て以下のすべての居住用住宅に太陽光パネル設置が義務化される。
 また、蓄電池を設置する住宅には、パネルの設備能力が軽減される措置も導入された。太陽光の発電量が多くなり送電網に負担がかかるのを避けるため、蓄電池設置を促す策だ。
 新制度により太陽光パネルの売り上げが増えるとの予測が出ており、電気自動車(EV)メーカーのテスラ社の経営も助けることになりそうだ。同社は蓄電池も製造しているし、太陽光パネルを製造する関連企業を買収し、太陽光パネルも製造、販売している。全米の太陽光パネル設置容量5300万kWの40%弱を占める同州で太陽光パネル設置が義務化され、蓄電池導入が促されれば、テスラ社のパネルや蓄電池も売れることになりそうだ(表1)。


表1 米国上位3州の太陽光パネル導入量
出所:米太陽エネルギー産業協会(SEIA)

 一方で、規格改正の悪影響を受ける業界もありそうだ。電力業界は、太陽光の導入拡大で送電線網への負荷が増えるため、送電線の整備費用が必要になり、すでにその費用を電気料金で回収する動きが出ている。もっとも大きな影響を受けるのは、ガス会社とみられている。米国ではセントラルヒーティングの暖房に天然ガスを利用している家庭が多く、同州も例外ではない。
 州政府は、温室効果ガス排出量を削減するには天然ガスの使用量を削減することが重要と考えているようで、電源の低炭素化と合わせて電化の推進も視野に入れているようだ。一部の環境団体からは、天然ガス消費削減を次回の建物エネルギー効率規格改正(3年ごとに改正)に盛り込むべきとの意見もある。

カリフォルニア州に助けられるテスラ

 量産EV「モデル3」の生産が遅れていることから、テスラ社は赤字が続いている。通年で黒字化したことが一度もない同社だが、四半期決算では黒字化したことがある。2016年第3四半期に黒字化したが、これはカリフォルニア州の制度によるものだった。
 同州では、EVなど走行時に二酸化炭素を排出しない車(ゼロ・エミッション・ビークル=ZEV)の販売を義務化している。大手自動車メーカー各社は毎年義務を持っており、達成できない場合は義務量以上の台数を販売した他社から、過達分をクレジットとして購入することが必要になる。常に超過達成しているのはEV専業メーカーのテスラ社だ。
 2016年度第3四半期の同社の純利益は2200万ドル(約24億円)だったが、ZEVクレジットの売り上げが1億3900万ドルもあった。クレジットの原価はゼロに近いはずなので、クレジットの売り上げがなかったら赤字だったということだ。
 2017年第4四半期、2018年第1四半期の赤字額は、それぞれ7億7100万ドル、7億8500万ドルだったのに対し、クレジットの売り上げは、1億7900万ドル、5000万ドルだった。
 同社の本社はカリフォルニア州サンフランシスコベイ・エリアのパロアルトにあり、同じベイ・エリアのフリーモントに米ゼネラルモーラーズ(GM)とトヨタ自動車の合弁工場を買収した自動車組み立て工場を持っている。
 今度はエネルギー事業でも助けられそうだ。同社の2018年第1四半期の蓄電池販売は37万3000kWhだった。これには南オーストラリア州の送電系統に設置した12万9000kWhが含まれている。太陽光パネルの販売量は7万6000kW。合計の売上高は4億1000万ドルだ。
 エネルギー事業の利益率が低下していることから、パネル販売ルートを整理するなどして収益率改善に努め、営業利益率は前四半期の5.5%から8.5%に改善した。ただし、2017年第1四半期の29.1%と比べると大きく落ち込んでいる。パネル設置義務化が発表された直後、同社の株価は2%上昇した。

カリフォルニア州制度の概要

 カリフォルニア州は2008年、2020年までに新築住宅の純エネルギー消費をゼロにし、商用ビルも2030年までにゼロにする目標を設定した。今回の太陽光パネル設置義務化により、2020年代の前半に新築住宅の目標は達成されると考えられている。
 同州エネルギー委員会によると、2020年に建設される一戸建ては11万7000棟、3階建て以下の共同住宅は4万7000棟と予想されている。適用外の日陰になる建物のほか、パネル設置を避けるため建築を早める物件が出てくることから、2020年の対象は両方合わせて約13万棟と予想している。
 同州は気候条件によって16の地区に分けられ、設置する設備の大きさは地区ごとに定められる。州内の住居用太陽光パネルの設置規模は平均5.6kW(2016年)だが、義務化される設備は平均3kW、費用は9500ドルである。30年償却を前提に月当たり40ドルを負担することになるが、電気料金の節約額は80ドルになるとエネルギー委員会は想定している。
 この新制度には多くの批判がある。同州は適切な価格の住宅が不足している問題に直面しており、住宅価格の値上げがあると住宅不足が深刻化する可能性がある。同州の家庭用電気料金は表2の通りで、エネルギー資源に恵まれないニューイングランド地区、ハワイ州、アラスカ州を除くと全米で電気料金がもっとも高い。


表2 米国西部諸州の家庭用電気料金
出所:米エネルギー情報局(EIA)

 小規模太陽光の導入促進により送電線整備などが必要になり、電気料金の上昇が予想される。再生可能エネルギーの比率を増やすのであれば、相対的に低費用となる大規模な事業用設備にすべきとの声がある。
 新制度により送電線整備費用は増加するが、太陽光パネルを設置した家庭の電気料金負担は減ることになり、太陽光パネルを設置していない家庭の送電線整備などの費用負担が増加する。地域電力のサザン・カリフォルニア・エジソンは、送電線の近代化費用に今後3年間で40億ドルが必要として料金値上げ申請を州公共事業委員会に提出している。
 新制度の実施には州建物規格委員会の承認が必要になるが、同委員会は新制度支持を表明している。導入はほぼ確実だが、電気料金の今後の推移などに他州も注目することになるだろう。



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