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「脱炭素ビジネス」どこかで見た風景-世界はどこに向かうのか(その1)

ー中国の失敗と米国の市場から学ぶエネルギー政策ー


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


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市場に任せる米国

 米国のエネルギー選択は、中央政府が強権的に脱石炭を強いる中国とは正反対に、今のところ市場任せだ。前オバマ政権では脱石炭の政策が検討され実施が迫っていたが、トランプ政権では反故にされた。トランプ政権は、石炭火力に補助金を導入する政策を連邦エネルギー規制委員会に導入するように働きかけている。その結果は、1月中には分かる筈だ。オバマ政権、トランプ政権の政策は共に市場とは相容れない政策だが、今までは市場がエネルギー選択を決めていた。その結果、10年間で石炭消費は大きく落ち込んだ。
 米国で石炭火力が減少したのは、価格競争力のあるシェールガスが市場原理で台頭したからに他ならない。1990年代から2000年代前半にかけ米国の発電量の約50%は石炭火力からだった。価格競争力のある石炭を、図-4が示すように、東部、中西部、西部に持つ米国では、多くの地区において石炭火力が最も価格競争力を持つことになった。オバマ前大統領は温暖化対策として石炭火力を減少させようとしたが、政策実行前に、電力部門では石炭から価格が下落した天然ガスへの切り替えが起こり、石炭火力の発電量比率は50%から30%に減少した。図-5の石炭と天然ガスの価格推移が石炭離れの理由だ。粉砕などの前処理と燃焼後の灰処理が必要な石炭の価格は、カロリー当たり天然ガスの7割以下が必要と米国ではされている。

 2016年には、図⁻6が示す通り、米国発電市場の歴史において初めて天然ガス火力の発電量が石炭火力を上回ったが、その後天然ガス価格の値上がりがあり、2017年前半には石炭が僅かながら天然ガスの発電量を上回った。ただ、石炭の発電量に回復の動きは見られない。石炭火力の発電量の減少により、米国のエネルギー起源二酸化炭素排出量も減少している。2000年に21億5600万トンあった石炭からの排出量は、2016年には13億5400万トンまで落ち込み、米国の全排出量も58億6700万トン51億8700万トンに減少している。

エネルギー選択の考え

 中国の強権的脱石炭政策は、大気汚染、環境問題だけを考えなされたものだった。その結果、学校、職場、家庭で暖房ができない事態が発生した。供給、価格という視点を欠いた政策を導入した結果だった。暖房ができなければ、中国北部では大きな問題が発生するのは当たり前だ。環境以前に「生活」の視点を持ち、エネルギー供給を先ず中国政府は考えるべきだった。
 米国では、市場がエネルギーの選択肢を決めた。価格競争力がその決め手であり、石炭の消費量と二酸化炭素排出量は減少した。二酸化炭素排出量が減少したのは、相対的価格競争力を石炭が失った偶然がもたらした結果と言える。
 さて、日本が考えるべき点は、環境、温暖化問題だけでないことは中国の例からも明らかだろう。安定供給は、まず考えるべき視点だ。環境が改善しても暖房ができない家庭、操業ができない工場が出てくることになり、エネルギー供給に制限が生じれば、持続可能ではなくなる。
 米国の例から価格も重要な要素であることが分かる。市場が選択するエネルギーには、価格競争力が必要だ。米国では自国産のシェールガスが最も価格競争力を持った。日本で最も価格競争力があるのは、石炭だ。これは、いつの時代でも変わらない。前処理、灰処理コストを考えても日本では石炭が最も価格競争力のあるエネルギーだ。
 石炭は、これからも多くの国で選択されることになる。それは、環境問題だけではなく、安定的かつ競争力のあるエネルギーが家庭、産業で必要とされるからだ。2000万人の貧困層を抱え、国民の6割弱が「生活が苦しい」(図-7)と答える日本も環境問題だけ考えられる状況にはない。エネルギー政策には多面的思考が必要だ。環境NPOの声を伝えたNHKは、これらの問題をどう考えているのだろうか。



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