エネ環境政策の“変化”捉える

書評:有馬 純 著「トランプ・リスク―米国第一主義と地球温暖化」


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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電気新聞からの転載:2018年1月5日付)

 トランプ政権の誕生は、時代の転換点であったと言っても過言ではないだろう。二大政党制を採る米国では、新政権の誕生とともに前政権の政策否定が始まることは常としても、我々が当たり前だと思っていた国際秩序がいとも簡単にひっくり返される様を目の当たりにして、この政権とどう向き合うべきか、この政権を誕生させた米国とどう付き合うべきか頭を抱えた方も少なくなかっただろう。

 本書はトランプ政権の下で米国のエネルギー・環境政策がどう変わるのかについての展望がまとめられている。著者自身による米国の温暖化交渉担当者らへのインタビューに加え、政権関係者のコメントなどを丹念に拾うことで、米国のエネルギー・環境政策の方向性があぶりだされている。エビデンスが多く示され、読み物というより事典のようでもある。政権誕生からほぼ1年でこれだけのボリュームをまとめることは、長年温暖化国際交渉に携わってきた著者でなければできない業であろう。

 私自身がCOP(気候変動枠組み条約締約国会議)に参加する中で感じているのは、政府間交渉によって気候変動対策を進める時代は終わったということである。政府間交渉はいわば誘導灯のような役割を果たす一方、金融や投資を含めビジネスそのものが低炭素社会への移行を促す力として強まりつつある。米国がパリ協定離脱という選択をしても、他国がそれに追従する流れにならなかったのは、パリ協定が各国の自主性を尊重する枠組みであることが第一の理由だろうが、そもそも国連の下での政府間交渉の意義が変化しつつあることも背景として指摘したい。こうした状況において、米国の政策変更がパリ協定に与える影響は限定的であるかもしれない。

 しかし、パリ協定の実効性を担保するためには、米国が協定に復帰することを求め続けねばならない。米国の存在感が低下する中で、日本政府は、いずれ米国がパリ協定に復帰できるよう一線を守った交渉を担うことが求められる。また、日米が技術開発におけるアライアンスを組んでいく可能性、圧倒的なエネルギー強者となった米国と我が国の産業競争力への影響など、トランプ政権のエネルギー・環境政策の動向が我が国の政府、産業界にとって注視すべきテーマであることは疑う余地がない。この分野の第一人者である著者の『地球温暖化交渉の真実』『精神論抜きの地球温暖化対策』とあわせ、一読頂きたい良書である。

※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず


「トランプ・リスク――米国第一主義と地球温暖化」
著:有馬 純(出版社:エネルギーフォーラム)
ISBN-10: 4885554837
ISBN-13: 978-4885554834



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