CCSは温暖化対策の切り札になるか?

ー苫小牧CCS(二酸化炭素の回収、貯留技術)事業を見学してー


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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 先日、国際環境経済研究所のメンバーによる北海道の環境・エネルギー関連事業の設備見学に参加させていただいた。その際、苫小牧で行われているCCS実証プロジェクトの現場も訪問する機会を得たので、ここにご紹介させていただくと共に、CCS事業の現状や課題を簡単に整理したい。

 CCSという言葉に馴染みのない方も多いだろう。火力発電所や製油所、製鉄所など大規模工場から排出されるCO2(Carbon dioxide)を大気中に放出する前に捉えて(Capture)、地中に貯留する(Storage)技術のことだ。確かに、化石燃料を燃やすことで発生するCO2を地下に埋めてしまうことができれば、エネルギーの利用と温暖化対策の両立が可能になる。
 IEA(国際エネルギー機関)の見通し(IEA“Energy Technology Perspective 2017”注1))では、2060年までの累積CO2削減量の14%を担うことが期待されており、わが国でも、公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)の調査によれば、国内に1461億トン、すなわちわが国のCO2排出量の約100年分に相当する貯留可能量が確認された注2)と聞けば、実用化への期待も高まるというものだろう。

 しかし諸外国のプロジェクトを見ても、事はそう甘くもなさそうだ。理由は主にコストである。例えば、米国のミシシッピー州で建設中のKemper発電所は当初、褐炭をガス化するIGCC発電を行ったうえで、CO2については分離・回収して移送し、メキシコ湾海底の石油採掘の増進回収法(EOR;Enhanced Oil Recovery、後段参照)に活用する方針であった。しかし工費は当初計画の数倍に膨らみ、工期も大きく遅延した。結局、IGCCとCCSプロジェクトは破棄され、現在普通の天然ガス火力として利用されると報道がされている注3)
 一部CCSに利用されるCO2の油田への注入はもともと、生産の減退してきた油田において、水やガスの圧入を行い、生産量を確保するという採取法の一つで、それをCCSからのCO2で行えば一石二鳥であると考えられた。増進回収法(Enhanced Oil Recovery; EOR)と呼ばれるように、CO2を圧入することで油田の貯留層に圧力をかけ、原油の回収率を向上させるという訳だ。原油や天然ガスは、貯留層と呼ばれる地層の岩石・土砂の隙間にしみ込んでおり、当初は地下の圧力だけで井戸から自噴して来るが、油田が減衰してくると圧力が下がり回収率が落ちる。そこで、水やガスを圧入して、噴出圧力を上げるのが、EORであり、通常の回収では、回収率は地下の資源量の25~40%に留まるところを、EORを使うと、50~60%まで回収率を上げることが出来るとされる。
 しかし原油価格の下落もあり、EORであってもコスト回収が困難になっている。「CO2回収を行う発電所が CO2回収を行わない 類似の基準発電所と比較して発電所出力の MWh あたりの燃料所要が、24~42%増加する」注4)という報告もあるほど、CCSにおいては発電された電気のかなりの部分がCCSのために使用されてしまうことも大きい。
 CCSはコスト的に難しいという認識が広がり、次に期待が寄せられたのがCCU(Carbon dioxide Capture and Use)である。分離・回収したCO2を単に地中に貯留するのではなく、有効活用しようというアイディアであるが、CCUも主にコスト面等多くの課題に直面している。

 しかし、パリ協定に掲げられた2℃目標を達成するのであれば、CCSが重要な技術であることも確かだ。実際にどれほどの貯留が、どの程度のコストで可能なのか、安全性に問題はないのかなどを検証する必要がある。
 わが国では、2008年から4年間をかけて全国115か所の候補地点から絞り込みが行われ、北海道苫小牧で実証事業を行うことが2011年2月に決定した。そもそもCCSの実証事業を行うには、大規模なCO2供給源が必要となるが、ここは出光興産株式会社の製油所からCO2が供給される。CCS実証事業は、2008年に電力会社や石油元売り会社など24社の出資(現在は35社)により設立された、日本CCS調査株式会社が経済産業省より委託を受け実施している。
 2012年から、地上設備の設計・建設やCO2を圧入するための坑井(井戸)の掘削が行われ、2016年4月6日からCO2の圧入を開始、本年9月29日までに累計76,514.4トンが地下に貯留されたという。なお、こうした情報は全て開示されていて、いつでも確認できる注5)ので、ぜひ一度HPを確認してみていただきたい。
 実際に訪れてみると、小さな化学プラントという印象だ。陸上設備のメインは、写真中央右寄りの3つのタワーである。ここでは「2段吸収法」という手法を採用することによって、通常型の約1/3~1/2のエネルギーでCO2の分離・回収が可能だという。

写真1)地上設備概観(筆者撮影)

写真1)地上設備概観(筆者撮影)

 驚いたのは圧入井の静かさだ。ここから垂直深度1,188m、水平偏距3,058m、掘削長3,650mという日本最長クラスの偏距井にCO2を送り込むその入り口であり、筆者らが訪れた時にも毎時20トン強のCO2が地中に圧入されていたが、全くの無音・無振動であった。CO2を地層に圧入するというからには、さぞかし抵抗が強く騒音や振動があるだろうとイメージしていたのであるが、稼働しているかどうかと疑ってしまうほど静かな状況であった。実際に訪問してみなければわからないことも多いものだと実感する。

写真2)圧入井。小さな倉庫程度の建物の中にバルブだらけの設備がある。ここが地下約1000mにCO2を圧入する入り口(筆者撮影)

写真2)圧入井。小さな倉庫程度の建物の中にバルブだらけの設備がある。
ここが地下約1000mにCO2を圧入する入り口
(筆者撮影)

 苫小牧にはCO2を貯める「貯留層」として適切だと思われる地層が2つあったので、深度の違う2つの井戸が掘られたという。現在は、深度約1000mの萌別層への圧入が進められているが、貯留性能が期待ほど見込めない深度約2400mの滝ノ上層の圧入試験も来年には実施する予定だという。

CCS実証試験全体図 出典)日本CCS調査株式会社HPCCS実証試験全体図
出典)日本CCS調査株式会社HP注6)
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 この苫小牧の実証事業の目的の大きな一つは、CCSが安全かつ安心できるシステムであることを実証することにあるという。日本で今後どの程度CCSが活用できるかは、技術が安全かつ安心できるシステムであることが国民に理解されるかどうかに大きく左右されるからだ。地震が起きても、貯留したCO2が漏れ出るなどの影響がないこと、また、CO2の圧入によって地震が引き起こされることはないことなどについて、モニタリングを重ねてデータを開示していくことが求められている。そのため、非常に微細な振動も検知できるようモニタリングが行われている。
 気になるのはコストだ。世界的にはCCSの多くのプロジェクトがコストの課題をクリアできずに苦しんでいると先述した通り、実用化していくにはコストの低減が課題となる。ここではまだ実証事業の段階であるため、厳密な計算はされていないが、前述のRITEによると1トン当たり7300円程度が必要と試算されている。
 削減コストの妥当性をどう考えるかは難しいところであるが、削減費用の安価な対策から進めていくべきであることは論を俟たない。
 わが国の再生可能エネルギーによるCO2削減コストは非常に高価にとどまってしまっているが(全量固定価格買取制度の下で導入されている再生可能エネルギーによるCO2削減コストと比較すれば、同制度による 2016年3月までの累計買取総額は3.3兆円、累計買取電力量955億kwhである。FITによって削減された系統電力の排出係数を0.5kg/kwh、回避可能費用を10円/kwhと仮定するとCO2の削減費用がトン当たり約50,000円/t-CO2程度となる注7))、現在のCCSの削減コストよりも安価な技術も多く、現時点での優先度は高いとは言い難い。そのため政府は2020年から2030年にかけて技術開発を進め大幅なコストダウンを図ることを期待している注8)

 CCS技術が実用化するには、こうした技術開発によるコストダウンの進展、安全性を確認し国民から理解を得ること等多くの課題をクリアする必要があるが、そのためにも技術実証を進める意義は大きい。北の大地で行われている実証事業に多くの関心が寄せられている。

注1)
http://www.iea.org/etp/
注2)
http://www.rite.or.jp/Japanese/project/tityu/fuzon.html
注3)
https://www.greentechmedia.com/articles/read/carbon-capture-suffers-a-huge-setback-as-kemper-plant-suspends-work#gs.KWVdJqs
注4)
二酸化炭素回収・貯留に関する IPCC 特別報告書(日本語版) P147(新規石炭火力の場合)
http://www.globalccsinstitute.com/sites/www.globalccsinstitute.com/files/publications/114681/carbon-dioxide-capture-and-storage-report-japanese.pdf
注5)
http://www.jccs-tomakomai-monitoring.com/JCCS/index.php/top/
注6)
http://www.japanccs.com/business/demonstration/whole.php
注7)
21世紀政策研究所「カーボンプライシングに関する諸論点」P46
http://www.21ppi.org/pdf/thesis/170906.pdf
注8)
経済産業省資料「わが国のCCS政策について」
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy/suiso_nenryodenchi/co2free/pdf/006_02_00.pdf

<参考資料>
経済産業省 地球環境連携・技術室「CCSの現状について」
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sangi/ccs_kondankai/pdf/001_03_00.pdf



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