容量メカニズムの必要性と必然性


Policy study group for electric power industry reform


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 IEAが2016年3月に発表したレポート『電力市場のリパワリング:低炭素電力システムへの移行期における市場設計と規制』(IEA(2016))は、再生可能エネルギーの大量導入で先行する欧米の電力システムにおける課題を分析し、低炭素電力システムへの転換に不可欠な電力市場のリパワリング(再構築)の必要性を論じた有益なレポートである。同レポートは、長期投資を確保し、電力供給の信頼度を高めるセーフティネットとして、容量メカニズムの有効性を説いている。

 容量メカニズムは、電力改革研究会による過去の論考でも、繰り返し取り上げてきたテーマである。過去の論考では、主に次のことを紹介した。

電力システム改革、すなわち、電気事業に市場原理を導入する帰結として、電力市場(kWh市場)の価格は限界費用により形成されるようになる。
その結果、発電設備は固定費回収が難しくなり(ミッシングマネー問題)、電源のアデカシー確保注1)に問題が生じ得る。
上記の処方箋として、容量メカニズムが各国で導入あるいは導入が検討されている。
容量メカニズムとは、電気の供給力(kW)を維持していることを経済的な価値(以下「kW価値」と呼ぶ)と定義して、発電量(kWh)とは無関係に、その対価が支払われる仕組みである。

 容量メカニズムについては、理論経済学者を中心に、容量メカニズムの導入は必要なく、kWh市場の需給調整機能を十分に発揮させればアデカシーは確保できる、との論もある。それに対する筆者の考えも、過去の論考の中で明らかにしてきたが、本論では、改めて容量メカニズムの必要性、そして、低炭素電力システムに転換していくトレンドの中での必然性を整理してみたい。過去の論考と重複する部分もあるが、伝統的な公共経済学の議論に触れるなど新たなアプローチも試みている。

限界費用価格形成原理と二部料金

 電気料金等の公共料金を、限界費用に基づいて設定すべきとの議論は、昔からあった。これは、限界費用価格形成原理と呼ばれ、ホテリング(1938)の論文が有名である。限界費用に基づいて料金を設定すれば、社会的厚生は最大になる。他方、電気事業は費用逓減産業注2)なので、電気事業者は必ず赤字になる。その赤字をどう補てんして、事業の持続性を確保するかという議論である。当時の時代背景から、地域独占を前提とした議論となっているが、市場導入を前提としても応用できる議論である。

 限界費用価格形成と固定費回収の関係を図1で説明する。図1は費用逓減産業における価格決定方法を表現したもので、MCは限界費用曲線、ACは平均費用曲線である。費用逓減産業なので、常にAC>MCになる。需要曲線がDのとき、平均費用で価格を設定すると、価格はP1、供給量はQ1で、収支は均衡するが、社会的厚生は最善ではない。限界費用で価格を設定すると、価格はP2、供給量はQ2で、社会的厚生は最大化するが、企業はオレンジの長方形の面積に相当する赤字を抱えるので、持続性がない。

図1 費用逓減産業における料金設定

図1 費用逓減産業における料金設定
出所:筆者作成

 これについて、ホテリング(1938)は、オレンジの長方形に相当する補助金を企業に与えてでも、限界費用による価格形成を貫くべきと主張した。これに対して、植草(1991)は、補助金の原資となる巨額の税収確保の困難さ、補助対象の企業の経営が放漫となるリスク、政治と企業の癒着が発生するリスク等から現実的でないと指摘した。植草(1991)は加えて、オレンジの長方形の相当額を、基本料金として需要家から徴収する二部料金制が、社会的厚生の面では、ホテリング(1938)が主張する限界費用価格形成よりも劣るが、平均費用価格形成よりは優れており、「収支均衡を条件として、社会的厚生を最大化するもの」と指摘している。

 容量メカニズムにおけるkW価値の価格を基本料金と考えると、容量メカニズムの仕組みは、二部料金制と良く似ていることがわかる。

容量メカニズム不要論

 では、容量メカニズム不要論では、どのような形で固定費が回収されるのか。電力の需給が特にタイトな時間帯(最大需要発生時が代表的)に、電源の限界費用を大きく超えるkWh市場価格が発現すること(プライススパイク)により、電源が固定費回収に十分な利益を得る、というものである。

 これを図2で説明する。

図2 プライススパイクによる固定費回収

図2 プライススパイクによる固定費回収
出所:筆者作成

 ここでは、需給がひっ迫し、電源を最大限稼働させて、Q3まで供給したが、需要に供給が追いついていない。そのため、需要の削減をいくつかの需要家に要請している状況になる。その結果、供給量はその上限であるQ3、価格はMCを大きく上回るP3で需給が均衡している。需要を削減した需要家は、予定していた電力使用をあきらめることによって、P3の対価を得ている注3)

 また、平均費用曲線ACは、図1よりもかなり上の位置にある。これは、1年分の固定費を1年に数時間しか発生しないプライススパイクにより回収することを表現したものである。言い換えれば、このような状況が1年に何時間か発生しないと、電源は維持できないことになる。

 また、図2の場合、価格P3で均衡している点よりも、ACは上にあるので、これでも固定費が回収できないことを示している。では、どうすれば、固定費が回収できるか。供給量をQ4まで減らして(つまり、Q3-Q4に相当する供給設備を廃棄して)、価格をP4までさらに上げれば回収できる。つまり、容量メカニズム不要論にしたがえば、図2は、「プライススパイクが発生しているが、供給設備は過多である」状況を示すことになる注4)

固定費回収に関する3つの選択肢とその比較

 以上から、限界費用価格形成の下での固定費回収策としては、以下の3つの選択肢が考えられる。考えられる得失も併記する。

オプションa:ACとMCの差分を、税金により補てん(ホテリング(1938)による)

  • 社会的厚生を最大化する。
  • ただし、補助金の原資となる税金が、社会的厚生を減少させる可能性がある。そのため、ホテリング(1938)は原資となる税は、物品税でなく、所得税、相続税、地価税等の死荷重を伴わない税がよいとしている。
  • 固定費回収の確実性は高い。
  • 税金による補てんという新たな非効率を生む可能性がある。

オプションb:プライススパイク発現時に回収注5)

  • 社会的厚生を最大化する。
  • プライススパイクが発現するかどうかは、気象条件、経済状況等にも依存し、固定費回収に不確実性がある(そもそも発生するか、発現したとしても固定費回収可能な価格水準あるいは発生頻度となるか)。このリスクを投資家が受容するかどうかが課題となる。
  • 需給がひっ迫した時に、予定していた電気の使用をあきらめてくれる需要家を、確保する必要がある。

オプションc:ACとMCの差分を、容量メカニズムのkW価値として回収(植草(1991)による二部料金制に類似)

  • 社会的厚生最大化の点では、オプションa、オプションbに劣後するが、セカンドベストではある。
  • 固定費回収の確実性は、オプションbより高い。
  • 制度設計が未成熟なところがある。

 3つを比較した場合、オプションaは、社会的厚生を最大化し、固定費回収も確実な案であるが、税金による補てんは非効率を生む可能性が高く、社会的にも受容されないであろう。オプションbとオプションcについては、社会的厚生の最大化と固定費回収の確実性の点で一長一短であるが、電気の商品特性として、電源のアデカシーが損なわれたときの機会損失が非常に大きい点を考慮すべきであろう注6)

IEA『電力市場のリパワリング』では?

 これについて、IEA(2016)は、次のように指摘している。

 信頼度基準が努力目標であり、政策立案者が高い価格と低い信頼度を限られた期間(例えば、数年)にわたって受け入れられる場合には、供給不足時価格を持つkWhのみ市場で十分である可能性が高い。
 しかし、もしその信頼度基準が、常に必須の資源のアデカシーの最低値として定義される場合には、容量メカニズムが必要になる。

 日本を含む各国において、「政策立案者が高い価格と低い信頼度を限られた期間(例えば、数年)にわたって受け入れられる」可能性は低いであろう。また、信頼度基準は、多くの国で、「常に必須の資源のアデカシーの最低値注7)」として定義されていると思われる。つまり、IEA(2016)に則れば、容量メカニズムは必要と解される。

容量メカニズムは「つなぎ」?

 また、容量メカニズムは、kWh市場が適切な電源投資のインセンティブを発するようになるまでの「つなぎ」であり、いずれ廃止するもの、との論もある注8)。これについては、二点指摘したい。

 第一に、容量メカニズムは市場を歪めるものとは言い切れないのではないか。この論の背景には、容量メカニズムは市場を歪めるものという考えがあると推察される。実際、上のオプションcの説明でも、社会的厚生最大化の点ではセカンドベストであると書いた。しかし、「供給力(kW)を維持している主体は、電力システムの安定という価値を生んでいる。この価値は、限界費用で価格が形成されるkWh市場では対価が支払われない外部経済である。kWに価格をつけることことは、この外部経済を内部化することにより、社会的厚生を改善している。」との解釈もとり得るのではないか。

 第二に、低炭素電力システムへの転換という世界的なトレンドの中では、容量メカニズムはつなぎとは言えないのではないか。再生可能エネルギーの主力である、太陽光発電、風力発電の特徴は、燃料費が不要であることと、自然変動性があることである。前者は、これら電源がkWhを限界費用ゼロで提供できることを意味し、後者は、kW価値はほとんど提供できないことを意味する。

 これらが大量に市場に参入すると、電力市場はどうなるか。kWh市場は、限界費用ゼロの電気が市場に潤沢に流れ込むので、価格が下がる(究極的にはゼロになる)。他方で、kW価値は稀少になり、価値が高まる。市場とは一般的に稀少なものを取引するものであるから、低炭素電力システムにおいては、kW価値こそ電力市場で取引する価値の主役になるだろう。容量メカニズムは一時的なつなぎの制度ではなく、むしろ導入が必然と思われるのである

注1)
安定した電力供給(供給信頼度)の概念は,アデカシー(adequacy)とセキュリティ(security)に大別される。アデカシーは、需要家が要求する電力を発電・送電する能力が、設備の計画外停止および運用上の制約を考慮した上で充足されている度合いを示す概念で、静的信頼度とも呼ばれる。一方、セキュリティは、事故などに対してその影響の波及・拡大を抑制する能力のことで、動的信頼度とも呼ばれる。
注2)
総費用に占める固定費の割合が非常に大きく、生産量が増加するほど平均費用が減少する特性を持つ産業のこと。鉄道・電力・通信等が該当。
注3)
この場合、P3は、需要を削減した需要家が、kWhの使用をあきらめることによる機会損失を補い得る水準である必要がある。例えば、産業用需要家がkWhの使用を減らして製品を減産すれば、その製品を販売して利益を得る機会を逸することになる。P3がこの逸失利益に相当する額以上でないと、当該需要家は需要を削減するインセンティブがない。
注4)
P3>ACとなることも当然あり得る。このときは、電源を保有する企業が過剰な利益を得ていることになる。
注5)
ここでは、市場参加者の入札行動によりプライススパイクが発現することを前提としているが、市場参加者の行動の不確実性を回避するため、あらかじめ定めたルール(システム全体の予備力が一定基準以下に減少する等)に基づいて、「需給がタイトな時における電気の希少性(Scarcity)」を反映した高い価格を人為的に発生させる仕組みもある。運転予備力需要曲線(Operating Reserve Demand Curve:ORDC)と呼ばれ、米国テキサス州等で導入事例がある。詳しくは、電力改革研究会(2015)を参照。
注6)
電気の需要が供給を上回ると、増分需要に対する供給ができなくなるだけでなく、システム全体が停電、すなわち市場自体が崩壊してしまう。
注7)
厳密に言うと、アデカシーの最低値を満たすコストが極端に高い場合(例:停電の社会的コストを上回る)を除く。
注8)
例えば、Eurelectric(2011)。kWh市場が適切な電源投資のインセンティブを発せられないのは、政治的配慮から価格に上限が課される等によって市場が歪んでいるためであり、これらの歪みを除去して純粋に市場原理が機能するようにすれば、kWh市場だけでもアデカシーの確保は可能、としている。

【参考文献】

執筆:東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所 チーフエコノミスト 戸田 直樹
※ 本稿に述べられている見解は、執筆者個人のものであり、執筆者が所属する団体のものではない。



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