脱原発、「エネルギー転換」に踏み切ったドイツ。その長期計画


読売新聞編集委員


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 周知の通り、ドイツは福島第1原発事故をきっかけに、2022年までの脱原発スケジュールを法制化した。総発電量に再生可能エネルギー(以下再エネ)が占める割合を2050年に少なくとも80%にする計画も合わせ、「エネルギー転換」(ドイツ語でEnergiewende、エナギーヴェンデと読む)と呼ばれる壮大なプロジェクトが開始された。
 日本という遠い他国の事故をきっかけに、これほどまで急激に、国の根幹に関わるエネルギー政策の変更を行った国は世界でもドイツだけである。そこに、ドイツならではの特殊な事情があると考えるのが自然だろう。
 すでに当サイトでは、こうしたドイツの現状に関して、研究所理事・主席研究員の竹内純子氏による「ドイツの電力事情」というすぐれた紹介がなされている。
 私はエネルギー問題の専門家ではない。ただ、ベルリン特派員時代に、エネルギー問題だけでなく政治、経済、文化とドイツ全般にわたる現場取材を重ね、いわば土地勘はある。ドイツメディアの報道や研究機関の報告書などを読み解くだけのドイツ語能力も有している。私が読者の知見に何らかの貢献できるとすれば、やや広い視野からドイツのエネルギー問題の現状を分析し、提供することと考えている。
 ドイツでの取材体験は2015年9月に出版された『ドイツリスク「夢見る政治」が引き起こす混乱』(光文社)にまとめた。そのうち2章を日本の原発事故に対するドイツ国内の反応やエネルギー転換の現状に当てている。
 その時点での最新の情報を盛り込んだつもりだが、約2年の時間が経過し、この稿を執筆するに当たって最新の情報を、ドイツでの報道や研究機関の報告書を頼りに一渡り探った。改めて確認したのは、当初から指摘されたエネルギー転換が孕む問題点や障害が解決されていない現状である。
 確かに再エネの導入は進んでいる。総電気使用量に再エネが占める割合は2016年、31.7%に達した。しかし、第1に固定価格買い取り制度(FIT)により消費者に転嫁される賦課金高騰、そしてそれを主因とする家庭用の電気料金値上げは続いている。2014年の再エネ法の改正により、買い取り価格の抑制、ダイレクトマーケティング導入がなされ、2015年の電気料金はやや下がった。しかし、16年は微増となり、上昇はおおよそ2020~25年まで続くとの予測が多い。
 第2に電気の安定供給が困難になっている。連邦ネット庁の報告書は、南部バイエルン州のグラ-フェンラインフェルト原発の廃炉(2015年6月)で事態は悪化した、と報告している。ドイツ、オーストリア、イタリアのガス発電所などを予備発電所に指定し、冬場、電力が不足したときに投入することにより危機を回避した。
 第3に温室効果ガス(CO2)排出が一向に減らない。2015年は前年比0.7%、16年は前年比0.9%の増加だった。このままでは2020年までに、1990年比40%の温室効果ガス削減目標の達成はおぼつかなくなっている。
 こうした、問題点を中心に、私の現地での取材体験も織り込みながら、次回以降筆を進めていきたい。
 その際、私が強調したいのは、エネルギー転換は、ドイツの歴史的、文化的背景への理解なしに、単に経済合理性の観点からだけでは説明できない。言い換えれば、エネルギー問題だけに視野を限定しては理解できない、ということである。根底にあるいわば「ドイツ的なもの」への考察も進められればと考えている。

総電気使用量に占める再生可能エネルギーの割合(出典:ドイツ連邦環境庁)総電気使用量に占める再生可能エネルギーの割合(出典:ドイツ連邦環境庁)
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