原子力発電への再評価?


ジャーナリスト

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 ドイツの公共放送ARDが、昨年12月29日夜のニュース番組「ターゲステーメン(Tagesthemen)」で、同年末に廃棄される直前のフィリップスブルク原発を取り上げていた。


画像提供:PIXTA

 周知のように、ドイツは2022年末までに原発を全廃することを法制化しており、すでに2015年、2017年にそれぞれ1基が廃棄され、2019年末の廃棄が予定されていたのが、このドイツ南部バーデン・ビュルテンベルク州にあるフィリップスブルク原発だった。さらに2021年、2022年末までにそれぞれ3基が廃棄され、ドイツから原子力エネルギーはなくなる。
 ARDのニュースは、同原発前に原発反対派が集まり廃棄を祝う集会を行ったことを、現地から伝えていた。反対派の代表はテレビのインタビューに「エネルギー転換は進んでいる。今では多くの若者が気候変動は重要だとデモをしている」と語り、反原発運動が大きな成果を上げたことを強調していた。
 ここまでだったら、予想の範囲内のニュースなのだが、私にとってとても意外だったのは、同じ原発前で行われた原発賛成派の集会も報じられたことである。集会では、地球温暖化に苦しむ地球のシンボルであろうシロクマのぬいぐるみや、「Kernenergie?Ja、Bitte」(原子力エネルギー?イェス、プリーズ)というスローガンが入った旗が並んでいる。
 「Atomkraft?Nein Danke」(原発?ノー、サンキュー)という反原発派が掲げる旗のスローガンをもじったもので、日本の反原発派もデモの際に掲げているから、笑顔の真っ赤な太陽が真ん中に描かれた旗を想起する人も多いだろう。
 原発前に集まっていた賛成派はNuklearia(ヌークレアリア)という団体で、ビョルン・ペータース氏という人が「温室効果ガスを出さない発電所を廃棄するのはばかげている。フィリップスブルク原発は廃棄されたが、残りの原発、特に2022年末に廃棄されることになる3基の原発については、まだ存続の可能性があるかもしれない」などとインタビューに答えていた。

 サイトによると、Nukleariaは、もともとソーシャルメディアの活用などを掲げ2000年代後半に勢いがあった「海賊党」の党内グループとして始まったが、同党からは独立して2013年10月にドルトムントで発足した社団法人である。
 サイトの内容を要約すると、国民に原子力エネルギーの情報は不十分にしか行き渡っておらず、多くは間違った情報や神話である。活動の目標は原理力や放射線についての専門的な知識を伝えることであり、最終的には原子力法を改正し、ドイツで原発の建設や稼働を可能にすることである――などと記されている。
 恥ずかしながら、私はこの団体のことは知らなかった。ただ、自分の不明を棚上げにして言えば、これまでこうした原発賛成派の団体をドイツの主要メディアで取り上げることはほとんどなかったのではないか。

 もう一つ、昨年末に「脱原発は誤りだったか?」という記事が、ドイツを代表する週刊誌「シュピーゲル」(電子版)に掲載された。同誌のヨナス・シャイブレ記者による記事である。

 記事を簡単に要約すれば

 ドイツでこれほど全会一致というのは珍しいのだが、脱原発法案は、福島第1原発後の下院で、党派を超えて圧倒的多数で可決された。しかし、8年がたって、突然「やはり原発が必要なのか」という問いが再び現れた。経済をよくするといった理由ではなく、気候温暖化から地球を救うという理由である。
 チェルノブイリや福島といった原発事故によって地域が住めなくなる危険性、放射性廃棄物の危険性は以前と同じである。ただ、それと同時に、地球温暖化が統御不能になり、飢餓、洪水、森林火災、戦争などのリスクが生まれた。そして再生可能エネルギーは、気候変動抑制に関するパリ協定遵守に必要なほど早くは普及しない。

 この記事は各政党の政治家や経済人の発言を幅広く取り上げているが、原発推進を公言するのは、政党では右派ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」だけで、その他では、保守系のキリスト教民主同盟(CDU)、自由民主党(FDP)の一部議員、産業界の一部にとどまることも記している。
 確かに2011年の脱原発決定の時、ドイツ・ベルリンに特派員として、あのころの熱に浮かされたような反原発の空気を取材した私としては、ドイツが原発の稼働期間延長に踏み切るとは想像しがたい。ドイツの反原発とは要は経済合理性や危険に対する評価から合理的に導き出されたものではなく、ドイツの歴史、文化に根ざした一つの国民的信念、イデオロギーと見るからだ。
 ただ、ドイツの主要メディアに、原発使用の継続を求める意見がぼちぼち取り上げられるようになったことは注目に値する。ドイツ世論の変化を反映しているのかも知れない。
 ARDによると2020年、ドイツの電気料金は引き続き上昇するという。温室効果ガス削減量もほぼ横ばい状態である。原発廃棄を続ければ、この傾向が助長されることは明らかだろう。さらにヨーロッパでもフィンランドなどは原発新設の方針を掲げている。
 電気料金の上昇、電気供給の不安定化、温室効果ガスの削減動向、国際社会の動向によっては、ドイツ国内でも原発全廃の見直し議論が台頭する可能性もなくはない。2021年末の3基廃棄を巡る状況がどうなるのか、注視したい。