COP22参戦記(その2)

ー成果の乏しいCOP22と、COPの役割の変質ー


国際環境経済研究所理事・主席研究員


 11月18日(金)深夜、COP22は閉幕した。
 会期前に「期待値のコントロールが必要」と言われるほど、具体的な議論の進展に乏しいだろうと考えられていたことは、前回の参戦記で述べた通りである。パリ協定の詳細なルール(以下、ルールブックと呼ぶ)について、来年2月に各国の削減目標の評価やレビューのやり方について、各国が国連にその意向を提出すること、ルールブックは今後2年間をかけて2018年までに策定することなど、今後の作業計画について合意できたことが今回のCOPの成果とされている。
 正直に言えば、それだけのことに合意を得るのにここまで時間がかかるものだろうかと感じる。「日当で給料をもらっている交渉官が会期を引き延ばしているらしい」という、笑い話にもならないうわさが会場でささやかれるほど、生産性の低い会議であったことは事実であろう。

 その理由を考えてみたい。
 交渉関係者のムード自体は、決して対立的なものでも後ろ向きなものでもなかった。パリ協定採択という大仕事を成し遂げたCOP21の後であり、しかもその時に想定されなかったスピードで発効に至ったため、高揚した前向きな空気が漂っていたことは、会場にいたどなたもが感じたのではないだろうか。
 しかし、踏み込んだ議論はほとんど聞かれなかった理由はまず、パリ協定の詳細ルール(以下、ルールブック)に委ねられた内容は、合意が難しいがゆえに先送りされた項目も多いことが挙げられるだろう。議論を始めれば必ず各国の意見が鋭く対立しまとめることが難しいので、そうした具体的な議論は避けたいという意図が働く。
 パリ協定は2020年以降の枠組みであり、ルールブックは今の段階で確定させなければならないという時間的制約もない。具体的には第1回のパリ協定締約国会合(CMA)までに策定することとされていたものである。

産業界の連携による実質的な削減貢献や適応策への支援の議論の方が、先に進み始めているようにも感じた。各国産業団体の関係者(Major Economies Forum on Energy and Climate)によるサイドイベント。

産業界の連携による実質的な削減貢献や適応策への支援の議論の方が、先に進み始めているようにも感じた。各国産業団体の関係者(Major Economies Forum on Energy and Climate)によるサイドイベント。

 なお、今回のCOP22で第1回パリ協定締約国会合(CMA1)が開催されたため、ルールブックの策定が間に合わなかったことは問題にならないのかと不思議に思う方もおられるかもしれない。テクニカルなことではあるが補足をすれば、そもそもパリ協定のルールブックの議論をする場は、気候変動枠組み条約の下に設けられた「パリ協定に関する特別作業部会(APA)」という会議体と定められている。パリ協定に関するルールなのだから、その締約国会合(CMA)で議論されると考えられがちであるが、CMAは「パリ協定が発効したらその直後のCOPと併せて開催」と定められていた。発効には数年かかると想定されており、気候変動枠組み条約締約国がすべて参加するAPAにおいてルールブックの内容を議論し、草案を作成、パリ協定発効後開催されるCMA1でそれを採択することとされていたのである。異例の速さでパリ協定が発効したため、COP22とあわせてCMA1は開催せざるを得ないが、採択するような草案もできていないので開催してすぐにサスペンド(中断)し、再来年のCOP24までにルールブックを策定、CMA1をその時に再開することとなったのである。
 このように時間的なプレッシャーも働きづらい状況で、内容的にはハードルの高い議論にチャレンジすることにはなりづらい。目の前に迫った定期テストがあれば必死で勉強もするが、数年後の大学入試に向けてであればなかなか机に座る気になれないのと同様である。結果、COP22はこれまで筆者が参加した中で最も緩んだ雰囲気となり、今後の作業計画への合意という成果を残すにとどまったのであろう。

各国の国旗がはためく会場入り口

各国の国旗がはためく会場入り口

 その上に加わったのが「トランプ・ショック」である。気候変動を真っ向から否定するトランプ氏が米国という世界第二位の排出国のリーダーになることが決定した。前回のCOP22ホスト国であるフランス・オランド大統領や、来年のCOP23で議長を務めることが決まったフィジーの代表団などが口をそろえて米国の貢献を促し、それに応えるように米国のケリー国務長官は「既に潮流はできている」という前向きな発言をし、長期戦略も発表して、会場の関係者に歓迎された。しかし冷静に考えればその長期戦略が余命2か月であることは明らかだ。会場の関係者は精神安定剤を求めるかのように、米国は方針転換しない、パリ協定に大きな打撃にはならない、という言葉を得ることに腐心していたように筆者には見える。

 しかし、これはCOP22という会議が置かれた状況からの考察に過ぎない。より根本的な背景として、国連気候変動交渉の変化・変質を踏まえる必要があるだろう。
 パリ協定は、各国が自国で決定する目標を提出し、その目標達成のための努力をすることが制度の根幹である。各国がその責任に応じた最大限の努力をし、さらに高い目標にチャレンジしていくことを促すために、目標の評価やレビューのやり方などの運用ルールが議論されるわけだが、その運用ルールが策定されれば、後は国家間の交渉に委ねなければならない事項は基本的には無くなる。
 COPは今後、各国の取り組みに関するレビューやストックテークが行われる場としての機能や、non-state actor (地方自治体・都市、産業界、NGO等)の取り組みの発表やマッチングの場としての機能を期待されることになり、交渉の場ではなくなっていくだろう。
 もちろん、現在の各国の削減目標を足し合わせてもパリ協定が目指す「2℃目標」には及ばないと想定されることや、途上国に対する資金支援の確保など、多様な課題についての議論は続くだろう。しかし、各国の温暖化対策は国際交渉で決まるものではなく、国内政策となったのであり、交渉でそれを解決しようとすれば、大きな衝突を招く。中国が主張するように、それは「パリ協定の再交渉」になってしまうからだ。
 COPは静かにその役割を変化させつつあり、COP22はその第一歩であったのかもしれない。そんなことを感じたCOP最終日であった。

モロッコの夜空を明るく照らすスーパームーン

モロッコの夜空を明るく照らすスーパームーン

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