ウォーレン・バフェット vs 太陽光発電事業者
太陽光発電設備保有の需要家に有利な制度へ疑問
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「月刊ビジネスアイ エネコ」2016年7月号からの転載)
世界有数の投資家であるウォーレン・バフェット氏の名前は、株式投資に興味がある人はもちろん、株式投資に関心がない人でも聞いたことがあるだろう。彼が筆頭株主の投資会社バークシャー・ハサウェイは、米経済誌フォーブスの世界の企業ランキング(2015年版)では、市場価値3548億ドル(39兆円)とされている。上位企業は、アップル、グーグル、エクソン-モービルの3社しかない。世界4位の規模だ。
バークシャー・ハサウェイは、アメックス、ウェルスファーゴなどの金融、保険分野に大きな投資を行っていることで知られているが、エネルギー分野にも大きな投資を行っている。かつては、ペトロチャイナ、エクソンモービルに投資し、株式売却により利益を得た。今でも米石油精製・石油製品会社フリップス66などに投資している。風力、太陽光などの事業にも投資しており、150億ドル(1兆6500億円)の投資計画をさらに2倍に拡大する予定と、バフェット氏自身が発表している。
バフェット氏の投資哲学は、ゴールド(金)には投資しない姿勢に現れている。ゴールドは保有していれば価値が上昇することもあるが、何かを生み出すわけではない。一方、企業は投資から毎年収益を生み出す。土地は、収穫物を生み出す。何かを生み出すものに投資しなければいけない、とバフェット氏は考えていると言われている。
バフェット氏のエネルギー事業に関する投資のなかでも特筆すべきは、2010年に行われたバーリントン・ノーザン・サンタフェ鉄道(BNSF)の買収だ。BNSFは米国の最大手鉄道の1つだが、主な輸送品目は米国西部パウダーリバー炭田の石炭とモンタナ州とノースダコタ州にまたがるバッケン地区からのシェールオイルだ。化石燃料で適切な収益を上げることが当分可能との見方に基づく買収だろう。
バークシャー・ハサウェイは、発電事業にも進出している。米国オレゴン州、ワシントン州など西部で子会社を通じて電力事業を行っているパシフィックコープを2006 年に買収している。2013年には、ネバダ州で電力事業を行っているNVエナジーを56億ドル(6200億円)で買収したが、2014年に同社が、管内の屋根設置型の小規模太陽光発電設備からの電力買い取り価格に疑問を投げかけたことから、バフェット氏は太陽光発電事業者などから非難を浴びることになった。
ネットメータリング制度とは
図が示すように、米国の43州とワシントンDCでは、主に家庭での太陽光発電設備についてネットメータリングと呼ばれる電気料金の清算方式が適用されている。消費量から売電量を差し引き、その差額だけを使用料として電気料金を請求する。例えば、毎月500kWhの電気を電力会社から購入し消費しているが、同じ500kWhの電気を売電していると電気料金の請求額はゼロになる。太陽光が発電できない夜間に電気を購入し、昼間に余った電気を売電していると、こういうことが起こる。
太陽光発電を行っている需要家には電気料金の節約がもたらされることになり、米国太陽エネルギー産業協会によると、カリフォルニア州の公的設備と学校が太陽光発電設備を導入した結果、節約できる料金は30年間で25億ドル(2800億円)に達するとされている。
太陽光発電設備を保有する需要家は、タダで電力会社の送電線を利用し電気の売買を行っている。送電線の維持補修費などは、他の需要家が負担することになる。これは太陽光発電を行っていない需要家の負担増につながるとして、NVエナジーは2014年7月、1997年に導入されたこの制度を見直すべきと提案し議論の口火を切った。
ネットメータリング制度は、太陽光発電設備を保有しない需要家の負担額を増やしているとの議論は、カリフォルニア州など十数州で行われているものの、再生可能エネルギーへの投資にも熱心なバフェット氏の傘下の企業が見直しを提案したことから、マスコミでは「バフェット氏の電力会社がネットメータリングを敵視」として大きく報道され、注目を浴びることになった。
ネットメータリングによる買い取り量には通常上限が設けられているが、ネバダ州ではピーク時の発電量の3%に設定されていた。その上限値に2015年末には到達するとの予想が出され、制度が見直されることになった。ネットメータリングの反対派、賛成派によるテレビ宣伝、新聞広告が派手に行われ、ネバダ州上院議員が「まるで漫画」と呼ぶ状態にまで過熱化したが、結局、同州政府の公共事業委員会は昨年末、ネットメータリング制度の根本的な見直しを行った。