給料の話-おいてけぼりニッポンでなくなるために


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


印刷用ページ

 6月5日付けThe Asahi Shimbun Globe(朝日新聞に付属している)に「給料の話 おいてけぼりのニッポン」との特集が組まれていた。失われた20年間で日本人の給料が如何に下落したかの話だ。
 OECD(経済協力開発機構)の統計では、日本人の平均給与はOECD加盟国34カ国の平均も下回り、加盟国中19位、いまや韓国よりも下になった。図-1にいくつかのOECD加盟国の平均給与を示している。シンガポールのようにOECDには加盟していないが、平均所得の高い国もある。給与は付加価値額に含まれるので、1人当たり付加価値額、国内総生産額(GDP)をみれば、世界の中での日本の平均給与の位置は見当がつく。

図1

 その国の物価水準で計算した購買力平価での日本の1人当たりGDPは、いま世界36位だ。図-2の通りだ。米国政府職員が利用するCIA World Factbookによると世界42位になっている。失われた20年の間日本の1人当たりGDPは伸びず、多くの国に抜かれてしまった。平均給与は1997年をピークに波を描きながら下がり続けている。どうすれば良いのだろうか。

図2

 The Asahi Shimbun Globeでは、「安月給で、もつのかニッポン」との囲み記事で「企業は利益を上げても賃金で還元しない傾向が強まった」とのコメントを紹介している。この説は怪しい。失われた20年の企業の付加価値額、人件費総額(福利厚生費まで全て含む額)、従業員の給与総額(役員給与・賞与は除く)の推移をみると、労働分配率は波を打っているもののそれほど大きな変動はないのだ。図-3の通りだ。要は、失われた20年の間企業も苦しんでいるということだ。

図3

 ここで朝日新聞が全く触れていない問題がある。コストを下げ企業の利益を増やし従業員に還元する手段だ。どうすればコストが下がるのだろうか。電気料金を下げることだ。震災以降、電気料金は大きく上昇した。特に産業用は2010年度から14年度までに38%上昇している。
 この上昇を作り出した最大の原因は、図-4の電源構成と原油価格の推移が示すように原子力発電所が停止し、化石燃料の購入が増えたことだ。化石燃料の購入数量が増えたところに原油価格の値上がりがあり、LNGも石炭価格も上昇した。原発が動いていれば、燃料購入数量を抑えられたので、これほど大きな額の影響は受けなかった。

図4

 製造業の電気料金の負担は電気料金の値上がりにより1兆円増加した。法人企業統計によれば製造業の平成26年度の従業員給与総額は34兆3000億円だった。電気料金の負担増がなければ、従業員給与は3%賃上げ可能だったことになる。
 The Asahi Shimbun Globeは最後に「よい商品を高く売り、社員や取引先にも利益を分配する。働き手がそういう企業を選べば、日本の雇用も変わるのでないか」とのコメントで締めくくっている。ここで読者の多くは、そういう企業にどうやれば就職できるのと考え込むのではないか。そういう企業で働ける従業員は運が良いというしかないというのが実態だろう。
 ないものねだりをしても給与は上がらない。日本の雇用を支え、輸送など関連する部門を合わせれば日本のGDPの3分の1を稼ぎ出す製造業のコスト競争力を改善する方法を先ず考え、実行すべきだろう。
 製造業が、設備投資と研究開発に資金を投じ、従業員の給与を引き上げるためには、デフレ経済からの脱却も重要だが、電気料金を引き下げることも大きな課題だ。そのためには安全が確認された原発の再稼働が一刻も早く必要とされることを経営者も従業員もよく理解する必要がある。



山本隆三 ブログ「エネルギーの常識を疑う」の記事一覧