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主要排出国のCO2排出実績報告の精度と透明性が地球を救う


国際環境経済研究所主席研究員


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 先月30日からパリでCOP21が始まった。何事もなく予定通り開催され成果が上がることを心から祈りたい。今回のCOPは2020年以降の枠組みを決定しようとする、非常に重要なCOPであることは言うまでもない。最も重要な論点が、すべての気候変動枠組み条約参加国が各国の削減目標を設定し、それに至る道筋を国際的に確定することにあることは言うまでもないが、“透明性”に含まれる、各国の温室効果ガスの排出量実績が正しく測られ、正しく報告されることも削減目標設定と不可分の、そして同じくらい重要なかつ悩ましい課題である。

 気候変動枠組み条約参加国は温室効果ガスの排出実績を報告している。しかし途上国:Non-Annex1国に要請される報告の密度と精度は、先進国:Annex1国に要請されるそれには遠く及ばない。先進国の最新の報告は2012年の実績であり、その算出の基となっている活動量などの統計とともに詳細な温室効果ガス排出量が、枠組条約のホームページに公開されている。一方、途上国の公式の報告は、例えばインドの最新の報告は2007年の実績であり、中国の最新の報告は2005の実績である。当然のことながらこのような情報では最新の状況の分析には使えない。

 国際的な分析には、IEA(国際エネルギー機関)の報告が良く引用される。各国からエネルギーに関する最新の諸データが集積されており、最も新しい報告注1)では、2014年実績で中国の国民一人当たりの年間CO2排出量が6.2トンに達し、欧州平均よりも多くなったことが示された。IEAは各国からできる限り情報を収集し、それをもとにCO2排出量を算出しており、現在入手できるものとしては最も信頼性が高いものである。他にもEIA(アメリカエネルギー情報局)などの機構が独自の手法で各国のCO2排出実績を報告しているが、当然とも言えるがそれぞれに若干の差があることが知られている。マクロ的な分析には十分であろうが、2030年に向けての国際交渉に使うには、それぞれの国が責任を持って算出した結果でなければ不十分と言わざるを得ない。

 CO2排出量は直接CO2排出量を測定することはできないため、CO2排出量は各種の関係する活動量を把握し、活動量当たりのCO2排出量を用いて算定する。たとえば温室効果ガスの議論の主体をなす化石燃料からのエネルギー起源のCO2排出量の場合は、各種の化石燃料の消費量と単位消費量当たりのCO2排出量から求められる。算定精度は消費量の把握精度とCO2に換算する方法の精度によるため、先進国においてはその精度の確保に大きな努力が払われてきたことに加え、条約のもと国連機関の検証も受けてきた。途上国においても統計精度向上の努力が払われてきていることは間違いないが、まだ多くの課題を抱えていると言わざるを得ない。

 中国のCO2排出に関して今年注目すべき2件の報告が出された。一つは今年5月に出版された中国国家統計局の統計で、2014年までのエネルギー生産と消費が、石炭を中心に大幅に上方修正されたというもので、日本エネルギー経済研究所の分析注2)によるとCO2排出量が1割以上増加することになるというもの。もう一つは8月に報道された注3)、欧米の諸機関のこれまでの報告では中国のCO2排出量は14%程度多めに算定されていたという研究結果が報告された、というもので、実際に消費された石炭の品位、つまりCの含有量が欧米の諸機関が計算に用いているものよりも低かったため、と説明されている。特に前者の見直しは2030年目標の基準となる2005年の排出量をも大きく見直したものであり、COP21での交渉にも影響を与えかねない重要な変更である。両者とも中国の統計精度を上げようという努力の一環であることは理解できるものの、課題の困難さを示している。

 中国をはじめ、“途上国”からのCO2排出量は巨大であり今後とも増加し続ける。そして、“途上国”のCO2排出実績の把握精度に課題が山積していることは、残念ながら事実である。各国の約束草案も出揃い、地球環境と経済発展のバランスをいかにとるかという国際交渉に臨む時、各国のCO2排出実績の精度が十分でなく、また相互に十分な検証ができないことになれば、各国の地球温暖化への対応を鈍らせる要因となりうることは容易に想像できる。

 共通だが差異ある責任、という考え方が繰り返し途上国から主張されるが、正確で検証可能なCO2排出実績のタイムリーな報告については、特に中国をはじめとする主要排出国にとっては、途上国、先進国の別なく、完全に共通の責任であるべきである。透明性の内容に先進国と途上国の差が残ることは、地球温暖化に対する活動推進を大きく阻害する可能性が高い。COP21で十分に議論されることを期待したい。

注1)
World Energy Outlook/Special Report P28 2015 IEA
注2)
IEEJ http://eneken.ieej.or.jp/report_detail.php?article_info__id=6248
注3)
BBC  http://www.bbc.com/news/science-environment-33972247

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