ミッシングマネー問題にどう取り組むか 第5回

プライススパイクがミッシングマネーを解消する理屈


Policy study group for electric power industry reform

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 図15及び図16に、n=3の場合(DR加味せず)とn=4の場合(DR加味)について、最大需要発生時における市場の状況を示す。

 DRを加味しないモデル(n=3)では、最大需要発生時においても市場価格は8円/kWhであり、少なくともピーク電源は、自己の限界費用が市場価格となっているため、固定費の回収ができない。対して、DRを加味したモデル(n=4)では、利用可能な電源をすべて使い切った後も需要と供給がバランスせず、DRが市場で約定する。

<固定費ゼロのDRがミッシングマネーを解消する>

 DRが提示する対価(限界費用)は、この需要家が予定していた電気の使用を諦めることによる機会損失である。この機会損失がピーク電源の限界費用を大きく超える水準であり、市場価格は400円/kWhまで上昇する(プライススパイク)。この状況下では、ピーク電源も固定費回収原資たる利益が得られる。そして、DRは自己の限界費用で市場価格が決まっているので固定費回収原資は得られないが、固定費はゼロであるので、ミッシングマネーは発生しない。このようなプライススパイクが一定の頻度で発生すれば、電源がkWh市場から得る収入が固定費回収に十分な水準に引き上げられ、ミッシングマネー問題は解消される。

図15:n=3(DR加味せず)の場合の最大需要発生時における市場の状況 (出所)筆者作成

図15:n=3(DR加味せず)の場合の最大需要発生時における市場の状況
(出所)筆者作成

図16:n=4(DR加味)の場合の最大需要発生時における市場の状況 (出所)筆者作成

図16:n=4(DR加味)の場合の最大需要発生時における市場の状況
(出所)筆者作成

 表2に、n=4のモデルについて、年間ベースでみた各電源及びDRの収支を示す。年間ベースで見てミッシングマネーが発生していないことが分かる。

表2:n=4(DRを加味)の場合の電源の収益性(年額) (出所) 山本・戸田(2013)

表2:n=4(DRを加味)の場合の電源の収益性(年額)
(出所) 山本・戸田(2013)

 さて、上記は理論上の可能性である。現実のkWh市場において、実現するかについては、リスクがあると考えている。

注29)
DRの発電電力量は抑制した電力量の意味である。
<参考文献>
 
Joskow, P.L. (2006), “Competitive Electricity Markets and Investment in New Generating Capacity
山本隆三、戸田直樹(2013) , “電力市場が電力不足を招く、missing money問題(固定費回収不足問題)にどう取り組むか”, IEEI Discussion Paper 2013-001

執筆:東京電力株式会社 経営技術戦略研究所 経営戦略調査室長 戸田 直樹

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