続・欧州のエネルギー環境政策を巡る風景感

-エネルギー連合(その1)-


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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 ユンケル委員長が就任直後に発表した「私の5つのプライオリティ」の中で第2番目の重点事項として、「欧州のエネルギー政策を新たな欧州エネルギー連合の中で改革、組み換えする(I want to reform and reorganize Europe’s energy policy in a new European Energy Union)」と述べ、第三国に対する交渉力の強化、エネルギー源の多様化、エネルギー輸入依存度の低下に取り組むとした。またロシアを念頭に、「東方からのエネルギー価格が商業面、政治面で過度に高くなった場合は、迅速に他の供給源にスイッチできなければならない」「欧州エネルギー連合を再生可能エネルギーで世界第一位にしたい」とも述べた。

ユンケル委員長

ユンケル委員長

シェフチョビッチ副委員長(エネルギー連合担当)

シェフチョビッチ副委員長(エネルギー連合担当)

 このようにエネルギー連合はユンケル体制の重点事項とされたのであるが、その具体的内容は未だ不明確であった。いわば「エネルギー連合」という器の中に何を盛り込むかはこれから検討ということになったのである。

エネルギー連合パッケージ案の発表

 本年2月25日、欧州委員会は「エネルギー連合パッケージ案」を発表した。その主な内容は以下のとおりである。

【現状認識】
 
現在、EUは欧州ワイドのエネルギールールがありながら、実質的に28ヶ国の規制フレームワークが併存している。このままではいけない。競争を促進し、発電設備をEUワイドでうまく活用することで市場の効率性を増し、消費者に手頃な(affordable)エネルギー価格を提供せねばならない。
小売市場は適切に機能しておらず、家庭部門にとってエネルギー供給者の選択は余りにも限られており、エネルギーコストのコントロールがほとんどできない。多くの家庭はエネルギー料金を支払う余裕がない。
エネルギーインフラは老朽化しており、再生可能エネルギーの拡大に対応した調整がなされていない。投資が必要であるが、現在の市場デザインと各国レベルのエネルギー政策は正しいインセンティブを提供しておらず、投資家に対して十分な予見可能性を与えていない。
隣国と接続されていないエネルギーアイランド(注:バルト三国のように欧州のエネルギーネットワークから孤立した地域を指す)が存在しており、消費者のコスト増とエネルギー安全保障面の脆弱性をもたらしている。
我々はイノベーション、再生可能エネルギーの分野では世界のリーダーであるが、他国は追いついてきており、クリーンで低炭素の技術の中には優位性を失ったものもある。
安定的な政策環境の下でグローバルな競争を行っているハイテク産業の投資を促進し、新たな雇用と成長をもたらさねばならない。
今こそ欧州は正しい選択をせねばならない。現在のままでは低炭素経済への移行がますます難しくなり、各国エネルギー市場がばらばらであることによる経済面、社会面、環境面のコストがかかり、低炭素経済への移行が難しくなる。
原油価格、ガス価格が低下している今こそ、エネルギー連合という正しい方向に向かうチャンス。

 以上の認識に立ち、パッケージ案は5つの柱を掲げている。

エネルギー安全保障、団結、信頼
完全に統合された欧州エネルギー市場
エネルギー効率
経済の脱炭素化
研究、イノベーション、競争力

 次回、それぞれの柱に盛り込まれた政策メニューを紹介する。

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