貿易赤字の続くなかでの原油価格の急落(その3)

中東の石油がもたらす格差の拡大が、人類の平和共存を脅かしている


東京工業大学名誉教授

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中東石油への依存がもたらす格差の拡大が人類の平和共存を脅かしている

 石油の消費量で世界第3位を占めるなかで、その全量を輸入に依存しなければならない日本は、石油危機時の苦い経験から、中東への石油依存率を削減するための懸命の努力を続けてきた。しかし、この原油輸入量の中東への依存率の年次変化を示した図3-1 に見られるように、その依存率は、1985年頃を底に2000 年代には、石油危機以前の値にまで戻ってしまっている。日本が、この中東への高い依存率が許されているのは、石油危機以来、つくられてきた中東諸国との友好関係維持努力の結果とみるべきである。
 このように、世界の、特に日本の石油供給が、大きく中東に依存することからも、この中東における政治的な安定が強く望まれなければならない。ところが、石油危機後、小康を保っていた中東の政治情勢は、イラン革命、アルカイダにつながる9.11事件に関連した米国のイラク進攻まで、この中東石油の供給の安定化を阻害しかねない不安定要因が後を絶たない。その根底にあるものは、石油を主体とするエネルギーを用いた経済成長に伴う大きな貧富の格差の拡大である。

図3-1

 中東の石油の生産による利益は、開発資金を投資している先進諸国の利益に還元されるとともに、石油の生産国においても、一部の権力者により独占されている。これに不満を持つ人々と宗教とが結びついたのがアルカイダによるテロであり、それが、つい最近のイスラム国にまで発展したと見てよい。これは、第2次大戦のような、軍事力を使った国家間の大規模な戦争を行えない人々による、テロの形をとった第3次大戦だと考えるのは私の思い過ごしであろうか。
 いま、米国が先導する先進諸国は、これに軍事力を使って平定しようとしている。しかし、拡大するテロ行為を警察力や軍事力で解決することは到底不可能である。確かに、テロ行為は、人道上、許されないことではあるが、この問題を根本的に解決するには、このテロ発生の原因となっている貧富の格差の解消以外には方法がない。これをエネルギー資源の問題としてみれば、世界中が協力して、エネルギー消費の増加を必要とする成長を抑制し、残された石油資源を皆で分け合って大事に使うことで、貧富の格差を解消することでなければならない。これを世界に向って訴えることが、いままで、中東の石油の最大の恩恵を受けてきた日本にとっての世界平和、人類の平和共存に貢献する道であると同時に、エネルギー資源を持たない日本経済の生き残る途である。

<引用文献>

3-1.
日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット編:エネルギー・経済統計要覧、省エネルギーセンター、2014年

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