エネルギーミックスを決めるのはいいが、どうやってそれを実現するのか? -イリノイ州の例を参考に-エネルギー・温暖化関連報道の虚実(7)


国際環境経済研究所前所長


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 今年前半は、将来のエネルギーミックスをどうするかが、エネルギー政策の一番の課題です。
 その一つの理由は、今年の冬にパリで行われるCOP21(第21回気候変動枠組条約締結国会合)では、京都議定書の次の枠組みについての交渉が行われますが、それに向けて日本も温室効果ガスの排出削減目標を提示しなければならないからです。

 化石燃料による火力発電をどこまで下げられるのか。原子力への依存度を低下させつつも将来にわたって一定程度維持しなければ、CO2の排出抑制で大きな貢献を望むことができません。これからの議論では、将来どのような電源構成を持つことが適切かを決めていくことになります。

 しかし、その電源構成計画を決めたからといって、国際的に排出削減を政府として約束するには、その電源構成を実現する政策手段を持つことが必要になっています。
 ところが一方で、電力システム改革が進んでいます。電力需給を市場の調整に任せながら、将来の設備投資も市場で形成される電気料金(rate)をシグナルとして行われるに委ねるというものです。これでは、将来特定の電源構成を意図的に実現することは不可能です。
 
 どうすればいいのでしょうか。

 その手段としていくつかの手法があります。環境政策の世界からは、排出量取引や環境税といった手段が提案され、実施に移した先例もありますが、あまりうまく行っている国はありません。

 他に手段はないのか?注目すべきレポートが、米国のイリノイ州から発表されました。その概要を紹介した記事がこれです(オリジナルのレポートはこの記事からリンクされています)。

http://www.utilitydive.com/news/illinois-study-lays-out-options-alternatives-for-exelon-nuclear-plants/350636/

 イリノイ州は、電力を石炭と原子力で半分ずつ担ってきた州です。しかし、このところの石炭価格の下落から、原子力は石炭に対して競争力を失いつつあります。同州の原子力発電所を経営しているエクセロン社は、今後いくつかの原子力発電所について計画を前倒しして廃炉にせざるをえない状況に追い込まれているようです。

 こうした状況の中で、CO2対策をどうするのかという問題が浮上してきました。このレポートは、環境税や排出量取引の政策オプションも検討対象としています。
 しかし注目すべきは、卸電力取引市場での電力購入の際、一定割合の排出ゼロ又は排出係数が小さい低炭素電源を購入することを義務づける制度=「低炭素電源ポートフォリオ基準」を設定することを、一つのオプションとして提唱していることです。(原文は次の通りです。オリジナルレポートのp.161)
 
 Low Carbon Portfolio Standard (“LCPS”) would require wholesale purchasers of electricity to obtain specified percentages of their supply from a broader class of zero carbon sources or sources with lower carbon intensity (CO2 emissions per kilowatt-hour) than that of fossil-fuel generation. Such an approach could allow retail energy providers to demonstrate compliance via tradable credits.

 なぜこの制度が注目されるかといえば、実は日本にも既に同じような法律があるからです。
 それは、エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(「エネルギー供給構造高度化法」)です。
 この法律は、電気やガス、石油事業者といったエネルギー供給事業者に対して、太陽光、風力等の再生可能エネルギー源、原子力等の非化石エネルギー源の利用や化石エネルギー原料の有効な利用を促進するために必要な措置を講じるものです。
 具体的には、経済産業大臣が基本的な方針を策定するとともに、エネルギー供給事業者が取り組むべき事項について、ガイドラインとなる判断基準を定めます。これらの下で、事業者の計画的な取組を促し、その取組状況が判断基準に照らして不十分な場合には、経済産業大臣が勧告や命令をできることとするものです。

 今後日本で決められるエネルギーミックスの実現に当たっては、政府の国際公約ともなるものですし、温暖化問題といういわば市場の失敗を是正する側面があることから、政府の直接的な介入が行われることは避けられないでしょう。
 このイリノイ州の例にもあるように、日本でもその政策手法としてエネルギー供給構造高度化法が活用されていくことになるだろうと思われます。



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