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【速報】米中が温暖化目標を発表 どうする日本


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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 昨日(11月12日)、米国オバマ大統領と中国習近平国家主席が共同でそれぞれの温暖化対策についての目標を発表した。ちょうどその夕方出席した、環境 省・経産省合同の日本の温暖化目標を議論する委員会(正式名称は「中環審2020年以降の地球温暖化対策検討小委・産構審約束草案検討WG合同会合」という委員ですら覚えきれない長い名前であるため、以下、約束草案検討WGと呼ぶ。約束草案というのは日本として国連に提出する温暖化目標の案の意味。)で、「こうなると、『すわ、日本はどうする』、『恥ずかしくない目標値を』という議論になるが・・・」と発言したのであるが注1)、見事にそうなっている。
 翌11月13日の新聞各紙のタイトルを拾ってみよう。日本経済新聞は「温暖化交渉 米中が軸へ 出遅れ日本は孤立も」、朝日新聞は「温室ガス削減へ新目標 来年末合意へ加速期待 日本見通し立たず」などである。
 しかし生意気な物言いで恐縮であるが、ある程度の期間国連気候変動交渉を見ていると、とても素直にこの発表を見ることはできない。

 まず中国の目標、「2030年ごろをピークにCO2排出量を減少させて、非化石燃料の電源比率を20%にする」であるが、これは2030年までは排出量が 増加し続けることを意味する。現在中国の排出量は年間108億トンで毎年5億トン以上増加している。日本の排出量の約半分が毎年の増加量に相当するという恐ろしい勢いだ。ピークまでの増加量をどう抑制するかについては何ら言及していない。これが「大国としての責任を果たす構え(同上の日本経済新聞)」といえるのか。EUのヘデゴー前気候 変動担当欧州委員が12日、自身のツイッターで「(中国の排出ピークが)30年ごろは遅すぎる。」と批判しているというが、そのとおりだ。また13日付のウォールストリートジャーナルの社説は、中国のピークアウト時期について「米エネルギー情報局(EIA)、BP統計、Energy Policy誌など、どの専門家の予想を見ても20年以内にピークアウトを迎えると予想されている。要するにオバマ大統領は中国に対して、どっちにせよやることを「やる」と説得しただけだ。(中略)その一方で大統領は、この米中合意を盾にして、米国経済成長にいかなる害悪がもたらされるとしても、新たに果敢な炭素規制を課する義務を負ったというのだろう。」と批判している。

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 次に米国の目標である。「目標」という言葉を使ったが、オバマ大統領が掲げたこの目標が議会で承認される見通しはほぼない。先日の中間選挙で温暖化対策に 慎重な共和党が上院・下院共に多数派となっており、ワシントンポスト紙によると共和党のミッチ・マコネル上院院内総務は米中合意について「失望した」とコメントし、「合意文書を読むと、中国に16年間何もしないことを認める一方、(米国政府の)炭素規制は我が州(ケンタッキー)や米国の他の州に壊滅的な打撃を与えるものだ。」と発言したと報道されている注2)。京都議定書を採択したCOP3の直前、米国議会上院は、米国経済に深刻な影響を与える条約、発展途上国による温暖化防止への本格的な参加と合意がない条約は 批准しないことをほぼ満場一致で決議しており(バード=ヘーゲル決議)、今回の合意がこれに反するという主張も当然なされるだろう。
 ちょうど13日に、ワシ ントンに本拠を置くシンクタンクの方と、NYにある大手メディアの東京支局記者の方とお話する機会があった。両者とも、米国のこの目標の実現可能性はまったくないとコメントし、シンクタンクの方からは米国内では環境保護派の方たちですらこれが米国の目標として承認されることはないだろうと話していると伺った。
 「日本人は相手を信じるところから交渉を始めるが、諸外国は相手を疑うところから始める」とは、昨日お会いした政策家の石川和男氏が仰った言葉だが(石川 氏のブログはこちら)、華々しく発表されたこの目標値が本当に米国の目標値となるとは到底考えられないのだ。やるやるといって交渉を盛り上げた挙句、京都議定書から離脱したその米国にまたぞろ同じ仕打ちを受けることは絶対に避けなければならない。
 米国が相当程度の削減義務を負うことが中国から温暖化に対してある程度積極的な姿勢を引き出すために絶対的に必要であるし、何より米国は世界全体の排出量の14%(2010年時点)を輩出する世界 第二位の大排出国なのだ。温暖化対策を有効なものにするためには、世界の温室効果ガスの3分の1を排出する米中が鍵であることは自明の理である。

注1)
筆者の委員会におけるコメントは、NHK News Web
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20141112/k10013156981000.html(下から5行目)や
11月13日朝日新聞朝刊3面に引用されているので、お目通しいただきたい。
注2)
http://mainichi.jp/select/news/20141113k0000e030242000c.html

 さらに、「2025年までに05年比で26〜28%削減」という目標の裏付けが不明確である。実質的な裏付けのある削減目標を策定するには、産業界にヒアリング、あるいはコンサルテーションを行う必要がある。
 昨日の約束草案検討WGにも、日本鉄鋼連盟、日本化学工業協会、日本製紙連合会、セメント協会、電機・電子4団体、日本自動車工業会・日本自動車車体工業 会が招聘され、それぞれ「低炭素社会実行計画」のプレゼンテーションを行った。それぞれの技術の展開等によっていつまでにどれだけの削減が見通せるか は、産業界が最もよく理解しているところだからだ。もちろん、さらに高い目標を掲げていただけるよう、レビューを行うなどのフォローアップは必要であるし、これだけが国としての削減目標ではもちろんない。しかし、温室効果ガスが経済活動に伴って排出されるものである以上、産業界の見通しを把握するのは必 要なステップであろう。
 ところがこの夏、US Chamber of Commerce傘下のシンクタンクの方に伺ったところでは、産業界に対して政府から何らの照会もアクションもないとのことだった。シェールガス革命で自国に天然ガス を産出するようになり、石炭から天然ガスへのシフトが進んでいることを「温暖化対策」としてカウントする、あるいは、自動車燃費規制(CAFÉ)や省エネ 政策、電力に対する規制など個別の気候変動政策の組み合わせによるシュミレーションを行っている「らしい」ということであったが、その国の産業界や国民が 「政府が勝手に決めたこと」と冷ややかに見ている中で設定された目標にどれほどの実効性があるのか。

 日本政府に必要なのは、他国の数字ゲームに踊らされ、国内の議論を尽くさぬままに目標値を提出することではない。米中が実効性ある削減を行うよう交渉の努力を尽くすこと、そして、日本の技術が世界での削減に貢献できる枠組みを考えることであろう。
 特にこの共同声明の中で、交渉関係者をいたくがっかりさせたのが下記の文章だろう。赤字にした部分は、気候変動枠組み条約の交渉において念仏のように唱え られる「先進国と途上国の共通だが差異ある責任」の考え方で、これを盾にされると排出量の増大している新興国の巻き込みが困難になるので、先進国が 2020年以降の枠組みにおいてはこれを外すべきであるという交渉を重ねて、やっと2011年に開催されたCOP17において、それを認めさせたのだ。そ れがしっかり復活されていることは、米国政府にその考え方を問いただしてみるべきであろう。

2. To this end, President Barack Obama and President Xi Jinping reaffirmed the importance of strengthening bilateral cooperation on climate change and will work together, and with other countries, to adopt a protocol, another legal instrument or an agreed outcome with legal force under the Convention applicable to all Parties at the United Nations Climate Conference in Paris in 2015. They are committed to reaching an ambitious 2015 agreement that reflects the principle of common but differentiated responsibilities and respective capabilities, in light of different national circumstances.

 米国に騙されるのは京都議定書だけで十分であるし、政府に勝手な目標値を出されるのは民主党政権時代の1990年比マイナス25%だけで十分である。

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