地球温暖化の科学をめぐって(1)
有馬 純
国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授
この中でホスキンス卿は「異常気象と地球温暖化の関係について単純にイエス、ノーは言えない。しかし良識ある人であれば、温度上昇、海面上昇、異常気象の増加等、現在、地球上で起こっていることを直視すべきである」と述べる。対してローソン議員は「ホスキンス卿は『(異常気象と温暖化のリンクについて)誰もわからない』という点で正しい。地球温暖化がどの程度、異常気象を悪化させているかは誰にもわからない。『現在、地球上で起こっていることを直視せよ』との主張も正しいが、ホスキンス卿の主張に反し、異常気象の数は増加していない」と述べる。
「最近、10-15年間、温度上昇がない」とのローソン議員の指摘に対し、ホスキンス卿が「確かに最近10-15年の間、表面温度は余り上昇していないが、気候を計測すれば、余剰エネルギーが気候システムに吸収されており、海中に吸収されていることがわかる」と反論し、両者の間で「それは憶測にすぎない」「いや計測だ」という応酬がある。
これは地球温暖化に関する科学的見解の相違であるが、ローソン議員がもっとも主張したかったのはむしろ政策論であろう。彼は「気候科学には多くの不確実性がある。そうした中で風車や太陽光パネルに膨大なお金を費やす政策や、安価で信頼性のあるエネルギー源に背を向け、高コストで信頼できないエネルギー源を推進する政策を捨て去るべきだ。我々が注力すべきは、洪水防止等を通じて気候変動か否かを問わず、自然現象に対して耐久力をつけることだ」主張する。
対談の全文を読んで見ると、意見の食い違いはあるが、落ち着いた知的なやり取りであったことがわかる。しかし、そうした議論を許容できない人がいるらしい。