MENUMENU

10年後に迫る停電の恐怖


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


印刷用ページ

 英国では電力自由化の結果、発電設備に対する収益保証がなくなった。ために、巨額の投資が必要でありかつ長期に亘り電気料金で収益を確保する原子力発電所、あるいは燃料価格が不透明であり、歴史的には石炭に対して価格競争力を持っていなかったために稼働率が不透明な天然ガス火力を新設する企業は今後出てこなくなる可能性が強い。既存設備の老朽が進む2020年代には停電が発生する可能性が強いと英国政府は予想している。事態を打開するために英国政府が考えた政策が、「電力の固定価格買い取り制度」と設備を建設すれば一定額の支払いが保証される「容量市場」だった。温暖化対策には原子力と天然ガスが必要なこともその理由だ。
 日本で議論されている電力自由化がもたらすものも英国と同様の20年代停電の恐怖だろう。日本の発電設備の多くは、電力需要が大きく伸びていた70年代、80年代に作られている。そろそろ建て替えの時期に来ているが、電力市場が自由化されれば、石炭火力以外の設備を建設する事業者は出てこないだろう。現状の化石燃料市場では石油、天然ガスでは燃料価格が高く、石炭に太刀打ちできないためだ。
 さらに、石炭火力を建設する事業者が多く出て来るかも怪しい。政府は石炭火力の環境手続きの時間を短縮したが、環境問題よりももっと大きな問題は石炭の受け入れ港湾だ。日本にとっての最大の輸出国豪州からは6万トン、7万トンの石炭専用船で輸入が行われている、そうでなければ、競争力がないためだ。この専用船を受け入れることが可能な港湾は限られている。石炭をコークスの原料として輸入している鉄鋼会社か発電所だ。余剰能力のある受け入れ港湾に恵まれ、石炭火力用の余裕のある用地を保有している事業者は、殆どいないだろう。港湾と発電所を一緒に建設となると、長期の使用保証が必要になるが、自由化された市場では無理だ。
 結局、電力市場を自由化すれば、老朽化した火力発電所の建て替えるリスクを取る事業者が全く出てこない可能性がある。仮に、出てきたとして、資金調達ができるか疑問だ。将来の収益見通しがない事業に金を貸す銀行はない。もっと大きな問題は原子力だ。今原発が停止し、電力供給は綱渡り状態を続けている。仮に原発を40年で廃炉にするという決断を下すと、これから原発は加速度的に減少する。その発電量を埋める設備がなければ停電するが、設備を作る事業者は出てこない。
 関西電力の火力と原子力発電所との運転開始時期は表の通りだ。20年代半ばまでには、大半の発電設備の建て替えが必要になるが、市場が自由化されれば収益保証がなくなり銀行も金を貸さなくなる、その状況では設備の更新を関西電力が躊躇する可能性が高い。他の電力会社も同じ状態に陥る。停電の恐怖だ。20年代半ばには日本では多くの発電所が老朽化により廃止になる可能性が高いからだ。
 停電の可能性のある国で工場設備を新設あるいは更新する事業者はいない、日本から製造業は出て行くこととなり、製造業を取り巻く運輸、金融などの事業も影響を受け、その影響はやがて多くの分野に拡大していく。
 電力自由化の問題は、電気料金が下がるかどうかではない。安定供給を行う設備が作られるのかが最大の問題だ。多少料金が上がっても供給が保証されるのであれば、まだ良いが、建設の保証がなくなるのだ。自由化市場で設備が建設されるためには。「社会主義」と呼ばれる英国並みの制度が必要になる。総括原価主義より当然高い利益率でなければ。競争市場では事業者は投資しない。電気料金の大幅値上げがその投資がもたらす結果だろう。
 自由化をすればバラ色の電力市場が待っているかの如く主張する政治家はこのことを理解しているのだろうか。20年代までには、また政党の組み換えがあるから、規制緩和という聞こえの良い言葉を今言っておけば、結果には責任を取らなくてよいと政治家は考えているのだろうか。



山本隆三 ブログ「エネルギーの常識を疑う」の記事一覧