発送電分離の正しい論じ方


Policy study group for electric power industry reform

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 電気事業制度のあり方を議論する電力システム改革専門委員会第6回(5月31日)において、発送電分離、つまり電力会社の送配電部門の中立性強化策が議論になった。具体的には、事務局が示した以下の2案について議論がなされた。

パターン1(ISO型):
各電力会社の系統運用部門を広域系統運用者の地方機関として中立化
パターン2(法的分離型):
各電力会社の送配電部門全体を持株会社の下で分社化

 当日の議論では、パターン1又はパターン2のいずれかを実施という考えの委員が多かったようだ。しかし、よくよく考えてみると、上記2案のいずれかを実施しなければならない理由がはっきりしていない。

 発送電分離には大きく分けて、(1)会計分離、(2)法的分離、(3)機能分離(ISO化)、(4)所有分離 の4つの類型があるが、

 ・現在の日本は会計分離を実施している。
 ・更に分離を進めるにしても、所有分離は財産権の問題があって難しい
 ・それならば、法的分離か機能分離のどちらか

 仮にこのような発想で上記の2つのパターンが出てきたのであれば、正しい論じ方とは言えない。

正しい論じ方とは

 現在も、送配電部門の中立性確保に関しては、一定の措置が講じられている。まずは、現状のどこに問題があるかを具体的に明らかにすることから始めるべきである。これがなされた形跡がない。第4回電力システム改革専門委員会の事務局資料に「送配電部門の中立性に疑義があるとの指摘(事業者の声)」が掲載されたが、これらはいまだに言いっぱなしで、「風評」のレベルに止まっている。これらの事例の事実関係をしっかり解明すれば、問題の所在を明らかにするのに役立つだろう。
 次に、確認された問題に対して有効な措置を考える。ここで、パターン2のように送配電部門の分社化を持ち出しても、実は解決策にはなっていない。資本関係が維持されている以上、外観がそれらしく見える以上の効果はない。電力系統の性質上、組織を分けたとしても、発電部門と送配電部門は引き続き緊密に相互調整を行わなければ、効率的かつ安定的な電力供給は維持されない。送配電部門の中立性を強化するとは、この部門間調整について中立性の観点から規律を課すことにほかならない。中立性確保のための規律が不適切であったり、過剰な規律が課せられれば、本来行われるべき発電部門と送配電部門の円滑な調整が損なわれる。したがって、課される規律は必要最低限であるべきであり、その意味でも、最初に述べた、問題の所在の明確化は重要になる。その上で認識された課題に対して、効果的・効率的な規律のあり方を考えるのが建設的だ。

前提とすべき垂直統合の経済性

 加えて、電気事業には、垂直統合の経済性(垂直統合状態の下での生産費用が、分割生産の下での生産費用を下回ること)が存在することが知られている。これまで、様々な国で行われた実証研究が証明している。最近では、電力中央研究所が、1990年から2008年における日本の9電力会社の財務データを用いた計測を行っており、▲19~29%の費用削減効果を認めている。発送電分離を行う以上は、この垂直統合の経済性がいくらか損なわれて効率が悪化するのは間違いない。したがって、分離をする以上は、失われる垂直統合の経済性以上の効果がなくてはならない。

 上記はマクロデータを用いた計測であるが、実際の電気事業運営に照らして考えると、国土が狭く、発電設備にしろ送電設備にしろ、建設に制約が大きい中で、それぞれの制約に目配せしながら、全体としてコストが小さくなるように、設備を建設し、また、できあがった設備を運用する、こうした取り組みの積み重ねが具現化していると推察される。特にわが国では、設備建設のリードタイムが他国より長く、このような摺り合わせは重要である。垂直統合体制の下では、このような部門間調整が電力会社内部の取引として行われていた。分離をすれば多くの場合、市場による調整に置き換わる。この市場のルールが非常に重要である、少なくとも、かつての社内取引をうまく再現できなければ、安定供給や効率に悪影響が及ぶ。