2011年12月のアーカイブ

  • 2011/12/27

    塩崎保美・日本化学工業協会技術委員会委員長に聞く[前編]
    温暖化問題とエネルギー問題は表裏一体。政府には現実的な解を求めたい

    化学産業は自動車、電機・電子、医薬品、化粧品など他産業に原料や素材を提供し、まさに私たちの暮らしと産業を支えている。震災直後の影響や対応、また、今後の温暖化対策への取り組み、エネルギー政策について、日本化学工業協会の技術委員会委員長を務める住友化学の塩崎保美常務執行役員に聞いた。

    ――東日本大震災直後、事業活動に具体的にどのような変化がありましたか。

    塩崎保美氏(以下敬称略):東北地方、あるいは被災地に近い地域の会社、例えば鹿島のコンビナートなどでは、プラント停止など、非常に大きな被害がありました。プラントのほか、港湾設備も非常に影響が大きかったと聞いております。震災から時間の経過とともに、道路が順次回復していき、港湾が回復し、生産活動もそれに伴って回復しています。現時点ではほぼ回復してきていると聞いています。当社は幸いにして、生産活動そのものについてはあまり影響がありませんでした。

    ――御社への影響が小さかったのは東日本には拠点が少なかったからでしょうか。

    塩崎:一番北は青森県三沢市に工場がありますが、直接大きな被害はありませんでした。千葉県市原市、袖ヶ浦市の工場も、地震の影響はありましたが、幸い被害はありませんでした。部分的に影響を受けたのは、被害を受けた会社から原料を購入して製品を作っている工場でした。原料が来なかったために、一時的に生産をダウンさせるなどの影響はありました。

    ――海外からのクレームはありませんでしたか。

    塩崎:住友化学の場合は、部分的にですが、包材など被害のあった地域から納入しているものが届かなかったため一時的な減産がありました。しかし、それはごく一部の製品に限られており、クレームには至りませんでした。
     よくサプライチェーンと言いますが、どちらかと言えば化学は素材産業ですので、かなり上流側に位置しています。最下流が自動車、家電などの組み立て産業になります。その間にいろいろな部品メーカーがあります。我々は部品メーカーに素材や部材を供給しているケースが多く、震災で被害を受けた化学会社から部品メーカーへの供給が一部滞ったという話は聞いております。

    ――業界としてのサポート体制は機能しましたか。

    塩崎:被害を受けた工場からの要請を受けて、生産できなくなってしまった素材の生産をできるだけ増やすなど、サプライチェーン全体への被害の波及を最小限にとどめるための対応をしました。

    塩崎保美(しおざき・やすみ)氏。社団法人日本化学工業協会技術委員会委員長。京都大学大学院工学研究課修士課程修了後、1973年4月に住友化学工業(現在の住友化学)に入社。レスポンシブルケア室部長、執行役員などを経て2010年4月に常務執行役員、2012年4月に顧問就任、現在に至る

  • 2011/12/20

    北京の大気汚染レベルは「軽微汚染」か?

     北京の米国大使館は、大気中の粒径2.5μm以下の浮遊粒子状物質濃度(PM2.5)とオゾンを測定し、北京の大気汚染状況を1時間ごとにツイッターで公表している( http://twitter.com/beijingair )。 続きを読む

  • 2011/12/16

    情報に惑わされないための食の安全に関する入門書
    「安全な食べもの」ってなんだろう?放射線と食品のリスクを考える

     福島第一原子力発電所の事故に伴う放射性物質の流出により、食品の放射能汚染がにわかにクローズアップされている。事故から10日あまりたった3月23日に、東京都葛飾区にある金町浄水場で1kgあたり210ベクレルの放射性ヨウ素が検出されたことが公になるや、首都圏のスーパーマーケットに置いてあったミネラルウォーターがあっという間に売り切れる事態に発展した。最近では、福島県二本松市の水田で栽培したコメから、1kgあたり500ベクレルを超える放射性セシウムが検出され、メディアに大きく取り上げられている。しかし、1kgあたり210ベクレルの放射性ヨウ素や500ベクレルの放射性セシウムはどの程度の危険性を持っているのか、実はほとんどの方は判断がつかないのではないだろうか。本書は、我々が毎日必ず接している「食べもの」の安全性について、「リスク」という概念を用いて、一般の生活者にもわかりやすく解説したものである。

     著者の畝山(うねやま)さんは、国立医薬品食品衛生研究所の安全情報部第三室長で、食の安全に関するエキスパートである。放射性物質に限らず、食品に含まれるさまざまな化学物質が人体に与える影響について情報を収集し、発信してきた。本書の冒頭では、「私たちが毎日食べているものは、もともと安全性が確認されたり保障されたりしているものではなく、未知の、膨大なリスクのかたまりである」という衝撃的な事実が述べられている。しかし同時に、だからといって怖がってばかりいるのではなく、適切に注意し、楽しんで食べるために、正確な知識を身につけることが重要だと指摘している。

     関心を集めている放射性物質のリスク(この場合は発がんリスク)については、食品にしばしば含まれている化学物質のリスクと比較することで、それぞれの大小関係を明らかにしている。たとえば、わが国で作られるコメには無機ヒ素が含まれており、毎日食べ続けると20ミリシーベルトの被ばくと同じレベルになる(仮に1kgあたり500ベクレルのコメを毎日食べ続けても、せいぜい1ミリシーベルトである)。この例以外にも、本書では、加熱調理に伴って生成する発がん性物質のベンゾ(a)ピレンや、カビ毒の一種であるアフラトキシンのリスクが、現在注目を集めている食品中の放射性物質に比べてかなり高いことがわかる。

     一方、日本人が日常的に被るさまざまなリスクのなかで発がんリスクが最も高いのは喫煙であり、飲酒によるリスクも喫煙の4分の1に達する。本来、こうした身の回りに潜むリスクとの比較抜きに、放射性物質のリスクは語れない。このことについて著者は「食品添加物や残留農薬でがんになるとか、ほんのわずかの被ばくでもがんになるとか脅かしながら、タバコや飲酒についてまったく触れない人がいるとしたら、その人の目的はあなたやあなたの家族のがんリスクを減らすことではない」と指摘する。この一文は、放射性物質の危険性だけをことさらに煽る一部の報道や(自称)専門家たちへの痛烈なメッセージであろう。

     今だからこそ、正しい知識を身につけて、冷静に、そして現実的に判断することが重要である。すべての国民に読んでほしい書である。

    『「安全な食べもの」ってなんだろう? 放射線と食品のリスクを考える』  
    畝山智香子(日本評論社)
    ISBN978-4-535-58604-8 1600円+税

    記事全文(PDF)

  • 2011/12/14

    技術、安全保障、経済の3人の専門家が語る今後のエネルギー戦略
    ~それでも日本は原発を止められない~

     福島第一原子力発電所の事故後、わが国では原子力政策を含むエネルギー政策について、さまざまな評論・解説が繰り広げられてきた。分野の異なる3人の専門家が、その内容を検証して警鐘を鳴らすとともに、わが国が選択すべきエネルギー戦略を明示したのが本書である。

     著者の一人である山名氏は京都大学原子炉研究所教授で核燃料再処理技術が専門。森本氏は拓殖大学海外事情研究所所長で国家安全保障について多くの著書を執筆している。また、中野氏は京都大学工学研究科准教授で経済ナショナリズムについて教鞭をふるう。この3氏が、対談形式で知見や考えをいかんなく披露している。3氏に共通するのは、原子力技術やエネルギー戦略に対する極めて冷静かつ現実的な姿勢である。

     山名氏は原子力技術者の立場から、今回の事故では、約40年前の旧式の技術を使い続けてきたことや、津波に対する分析が甘かったことなど、技術や許認可の面で多くの反省点があることを率直に認めている。しかし、だからといって「失敗したらすべてやめる」という議論は、技術開発の本質を無視した危険なイデオロギーであると主張する。中野氏は、この構図が、第二次世界大戦の敗戦により、悲惨な戦争は二度と起こさないと武装放棄し、自衛隊の軍隊化に反対する状況と酷似していると指摘する。両氏は、「空気」に支配されることなく、冷静に判断することが必要であると訴える。

     一方の中野氏は、反原発の背後には反国家があると指摘する。原発を持つ最大の理由は国家安全保障であり、「国家」を嫌う左翼的な人には受け入れられないものであるとの見立てだ。彼らの推奨する再生可能エネルギーはすべからく分散型エネルギーであり、その根底には国家の否定があると指摘する。エネルギーが国家安全保障の要であるとの認識は極めて重要であるにもかかわらず、いまだ国民に浸透しているとは言い難い。この点について、3氏は、本書の随所で警鐘を鳴らしている。

     国家安全保障の基本要素は、国防、エネルギー、食糧である。なかでも、エネルギーの果たす役割は非常に大きく、森本氏は国防の根幹も結局はエネルギーであると述べている。そのうえで森本氏は、「エネルギー安全保障」といえば、諸外国では、自国でなるべくエネルギーを賄うことを前提とするのに対して、日本の場合は、輸入を前提にしている点が大きく異なると指摘する。再生可能エネルギーこそがエネルギー安全保障に貢献すると主張する向きもあるが、3氏は、現在の再生可能エネルギーの実力では原子力の代替にはならないと喝破する。

     福島第一原発事故を受けて、国民の多くは脱原発、再生可能エネルギー導入の流れを是としている。しかし、それは国家安全保障の根幹を揺るがす可能性が極めて高い。諸外国に比べてわが国では、エネルギー確保の重要性があまり認識されていない。中野氏は、この状況を平和ボケになぞらえて「エネルギーボケ」と呼ぶ。エネルギーなくして国家はありえない。

     本書では、ほかにも、核廃棄物処理の安全性や、民主党政治の問題点など、さまざまな観点から深く掘り下げた論考が加えられている。福島第一原発事故やわが国がとるべきエネルギー戦略について、より広い視野で、より深く考察したい方には必読の書である。

    『それでも日本は原発を止められない』 
    著者:山名元 森本敏 中野剛志(産経新聞出版)
    ISBN978-4-8191-1145-4 1400円+税

    記事全文(PDF)

  • 2011/12/07

    産業9団体が京都議定書延長は受け入れるべきでないと共同提言

     日本の産業9団体が、第17回気候変動枠組条約締約国会議(COP17)を前に「COP17に向けた産業界の提言」を行った。この提言のなかで、9団体は①京都議定書の延長を受け入れるべきではない、②日本の温暖化対策の中期目標の見直しは不可欠--の2点を強調。円高や突出したCO2削減目標に加え、東日本大震災をきっかけにした電力供給の不安定化で生活や産業活動に影響が出ていることを訴えた。

     今回の提言では、京都議定書が規定している削減義務を負う対象国が、2009年実績で地球全体のCO2排出量の26%しかカバーしていない点を指摘。主要排出国である米国や中国が対象になっていないことなど不公平で実効性の乏しい枠組みである点を問題視した。そのうえで、京都議定書の枠組みが継続された場合、国内の経済や雇用に大きな影響を及ぼす可能性などの懸念があり、京都議定書の延長を受け入れるべきではないと主張した。

     一方、前提条件付きで2020年までに1990年比25%のCO2削減を掲げる温暖化対策の中期目標についても見直しが不可欠と強調。震災以降、エネルギー基本計画が白紙から見直されるなか、温室効果ガス排出量の約9割がエネルギー起源であることから、日本の温暖化対策もエネルギー政策と表裏一体で検討し直すべきとしている。

     共同提言を行ったのは、石油連盟、セメント協会、電気事業連合会、電子情報技術産業協会、日本化学工業協会、日本ガス協会、日本自動車工業会、日本製紙連合会、日本鉄鋼連盟の9団体。政府に対し、交渉のなかで国際社会に国内事情を説明し、理解を得る努力を求めている。

     業界9団体による提言。京都議定書の単純延長などに強い危機感を抱いている
     COP17に向けた産業界の提言(日本語)(PDF)
     COP17に向けた産業界の提言(英語)(PDF) 記事全文(PDF)

  • 2011/12/07

    松井英生・石油連盟専務理事に聞く[後編]
    震災を教訓に、石油製品の平時からの利用と備蓄の体制づくりへ転換を

    東日本大震災直後は、東北、関東地方で「ガソリンがない」とパニックのような現象が発生した。こうした緊急時に石油業界はどのように対応したのか。松井英生・石油連盟専務理事に、震災後の対応と今後のエネルギー政策で果たす化石燃料の役割について聞いた。

    ――連絡体制も今後の課題ではないでしょうか。

    松井英生氏(以下敬称略):今回の災害で大変混乱したのは、いろいろなところから様々な要請が来るわけです。警察とも自衛隊とも連携しなくてはいけない。ところが、今までお互い顔も知らないわけです。地方自治体も災害関係の対策本部がありますので、普段から連携を取っておく。関係省庁もいろいろ絡んできますから、非常事態時には一元化していただきたい。バラバラに要請が来ても困るわけです。こちらも一元化して受ける体制づくりが必要でしょう。情報共有と連携体制を平時からやっていかなくてはなりません。

    ――平時からリスクを想定した体制を整える必要があるということですね。

    松井: 3月11日と12日のニュース番組を見ると、皆さん体育館にお逃げになって寒くて暖が取れないと話され、灯油がこないとテレビで報道される。ところが、そこに灯油をタンクローリーで持って行きたくても、大きい灯油タンクがないと給油できないわけです。ストーブもないかもしれない。テレビで「灯油が来ないのが問題だ」と言われても、普段からお使いいただき受け入れ設備がないと、緊急時に供給することができないのです。

     石油の需要は1999年がピークでしたが、2005年頃まで横ばい、2005年から右肩下がりになり、毎年約3%減っている状況です。実はこの震災が起きる前は、日量450万バレルの精製能力があっても需要は330万バレルしかない。オーバーキャパシティのため、ビジネス上でコストアップ要因になっていました。

     電力やガスのように国の管理の下に総括原価方式でコスト回収を行っているのではなく、我々は自由競争ですので、余分な設備や製品を持てない。需給に供給能力を合わせるのが大きな課題です。需要量に適応して精製能力をダウンするだけでなくて、油槽所、ガソリンスタンド、タンクローリーもどんどん減らしスリム化していくわけです。今回はまだ余剰設備削減が行われる前で余裕があり、西日本から石油製品を回すことができましたが、需給が一致するくらいギリギリの能力まで絞り込まれれば、いざという時に供給できなくなります。

  • 2011/12/02

    松井英生・石油連盟専務理事に聞く[前編]
    震災に強いサプライチェーンづくりに転換目指す

    東日本大震災直後は、東北、関東地方で「ガソリンがない」とパニックのような現象が発生した。こうした緊急時に石油業界はどのように対応したのか。松井英生・石油連盟専務理事に、震災後の対応と今後のエネルギー政策で果たす化石燃料の役割について聞いた。

    現場の情報が入らない中、元売の系列を越えて皆で協力して対応することを決めた

    ――震災直後はどのように対応されたのでしょうか。

    松井英生氏(以下敬称略):地震があったとき、建物の1階(石油連盟)におり、エレベーターが全部止まりました。電話は全く通じませんでした。テレビを見て、これは大変なことだと初めてわかりました。

    ――急いで緊急対策本部の立ち上げをされたのですか。

    松井:東北地域における石油の途絶の問題は必ず起きてくる。そう判断して、早速、石油連盟会長をヘッドとする対策本部を震災当日の3月11日に立ち上げました。ところが、立ち上げたのはいいが、全く情報が入らない。

     石油元売会社は、東京に本社があります。東北地方は油槽所という石油タンクがたくさんある配送基地のほか、原油から処理をしてガソリンや灯油を作る施設である製油所が、仙台に1カ所ありました。3月11日から12日は、まず電話が通じない。さらに末端までいけば、タンクローリーでガソリンスタンドに石油製品を供給していますが、タンクローリーやガソリンスタンドがどうなっているかもわかりませんでした。

    ――では、現場の被害を予想しながら初動の対応をされたのですか。

    松井:テレビで見る限りでは大変なことが起きているので、これは必ず石油製品の供給要請が来るに違いないと判断しました。3月13日に、元売、いわゆる石油の卸しをやっている企業全員に集まってもらい、系列を越えて一致団結して協力し、求めているところに一番早く対応できる会社が石油供給を行うということを決めました。二つ目は、精算の話は後にしようと。モノを納めることを優先し、精算は後でいいと合意しました。

     三つ目は、12日頃から大量に入ってきた石油製品供給要請への対応です。特に多かったのが、官邸経由で来る緊急供給要請ですね。石油連盟の職員だけでは足りないので、原則、各石油会社から2人ずつ担当者を出していただきました。会議室を1部屋全部潰してオペレーション・ルームにして、そこに12~13人の職員が24時間態勢で詰めて、特に官邸中心に下りてくる供給要請に対して、個別に供給することを始めました。

    松井英生(まつい・ひでお)氏。1975年に通商産業省(現在の経済産業省)に入省。外務省在連合王国大使館参事官、資源エネルギー庁長官官房原子力産業課長、中小企業庁次長、商務流通審議官、国際協力銀行理事などを経て、2010年3月石油連盟専務理事に就任

  • 2011/12/01

    COP17を巡る諸外国の動向等について

     国連気候変動枠組み条約第17回締約国会議(COP17)が南アフリカのダーバンで始まった。2012年末に第1約束期間が終了する京都議定書を、2013年以降も先進国に削減義務を課すことで延長することに合意できるか、はたまた米国や中国など京都議定書で義務を課されていない主要排出国を含む包括的な新たな合意に向けて道筋をつけられるかが焦点であり、「京都議定書の単純延長に反対している日本は途上国やEU(欧州連合)からのプレッシャーに抗し切れるか」といった文脈の報道が始まっている。

     しかし、COP17の論点や焦点はそのような単純な構図では割り切れない、複雑で重層的なものである。しかも、世界、とりわけ未曾有の経済危機、財政問題に直面する日米欧の先進国の置かれている政治・社会情勢は、経済を制約する形での環境政策を受け入れることに極めて慎重にならざるをえない状況下にある。環境と経済の両立を実現するとされてきたグリーン経済成長モデルも、英国で「エネルギー貧困」問題が顕在化したり、米国でグリーンニューディール政策が暗礁に乗り上げたりするなか、急速に勢いを失っている。

     本稿では、そうした各国をとりまく情勢をもとにCOP17に臨む各国のポジションについて解説し、なぜ国連交渉が行き詰っているか、その背景にある構造を明らかにする。さらに、そうした行き詰まりを打破して地球環境問題に具体的な進展を図るために、いかなる代案がありうるか、その代案に日本としてどのように貢献できるかについて論じてみたい。