東北復興へ新しい水産業のモデル構築を


東京大学教養学部特任准教授

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 甚大な被害をもたらした東日本大震災から2カ月が経過した。福島第一原子力発電所の事故を契機に、エネルギー問題が大きくクローズアップされ、地球温暖化問題も視野に入れた今後のエネルギー需給のあり方に関する活発な議論が行われている。一方で被災地復興の観点から真っ先に考えるべきことは、東北の基幹産業の復興であり、その一つが水産業であると言える。

 私は環境(環境化学工学)を専門とし、これまで特に藻場を中心とした沿岸生態系の修復プロジェクトに産学連携で取り組んできた。このプロジェクトは、製鋼スラグと未利用バイオマス資源を有効利用する藻場再生技術の研究開発が軸となって開始され、すでに全国各地で実証試験・実証事業が行われている。

 現在では、生態系理解・生物多様性保全への研究展開、沿岸生態系修復による地球温暖化問題解決への貢献可能性の検討など、地球的規模の課題解決に向けた展開もなされている。プロジェクトの性格上、漁業関係者や水産業とのかかわりは特に深く、今回の大震災においては、沿岸漁業の復興支援活動にも携わっている。このような状況を踏まえて、産業と環境の関係性の観点から、水産業の復興と沿岸生態系修復について述べることとする。

 すでに報道などにある通り、今回の大震災では、岩手・宮城・福島の東北3県を中心に水産業は大きな被害を受けた。水産庁によると、5月11日までに、全国の水産被害額は6694億円にのぼるとされている。特に東北3県は、漁船、漁港をはじめとして壊滅的な被害を受けている。事態の深刻さは漁業生産手段が失われただけではなく、水産業の構造そのものが失われたと言える状況にある。

 水産業は、漁業従事者だけでなく、水産流通業、水産加工業、漁船具の製造・販売業、そして造船業など多くの関連業者によって成り立っている。巨大な津波は、それらの機能をすべて喪失させるほどの打撃を与えた。実際に4月下旬に訪れた被災地の漁港の状態は、それが過剰表現でないことを実感させるものであった。すべてを回復させるには、膨大な労力と時間を要することは想像に難くない。

石巻漁港の様子(長さ652mもの上屋根のあった魚市場付近。津波被害を受け、解体・撤去が進む)