東北復興へ新しい水産業のモデル構築を


東京大学教養学部特任准教授

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放射性物質の拡散以外にも問題が・・・

 さらに危惧されるのは、漁業の基盤をなす藻場の消失や干潟の流出などの沿岸生態系破壊である。藻場や干潟の消失は、魚介類の生息場所の喪失を意味し、漁獲量の減少に直結する深刻な影響を引き起こす。さらには、津波によって陸域から運ばれた大量の瓦礫が沿岸生態系に少なからず影響を与える可能性が考えられる。海水の濁りは藻場を衰退させる要因となるが、私が訪れた4月下旬の時点でも、津波に起因する沿岸域の濁りが確認できた。また、原発事故による放射性物質の海洋拡散だけでなく、海底に沈む瓦礫から有害物質が溶出する可能性もあり、それらが魚介類に与える影響も検討していく必要がある。

 水産業の復興には、沿岸生態系の修復が欠かせない要素である。そのためには、まず現状把握が重要で、沿岸生態系についての調査の実施が必要である。また、実際に沿岸生態系の修復に取り組む際には、その方法自体も慎重に選択すべきである。

 コンクリートブロックなどの基盤や漁礁の設置、そして施肥などの大規模な実施は、逆に、元来有していた生態系への回帰を妨げてしまう可能性もある。生物多様性保全の観点からは、沿岸海域環境のモニタリング調査を継続的に行いながら、慎重に対策を進めるべきであろう。すでに研究者グループ・研究機関による調査が各地で開始されているが、沿岸生態系修復にあたっても、多大な労力と時間が必要であることは間違いない。

陸前高田の海岸の様子(茶色く見えるのは海水の濁り)