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東北経済復興と地球温暖化


国際環境経済研究所理事長


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 東日本大震災では、私が所属する企業も津波で被災し、現在も電力が復旧しないなか、工場の復興に向け懸命に努力している。

 今回の大震災および福島原発事故は、我々、産業界にいる者にとって、従来、経験的にわかりきっていると考えてきた常識を見直すことになったと思う。それは、臨海工業地帯の防災対策と電力の安定供給である。

 日本の工業地帯は戦後の高度成長期に、原材料の輸入と製品輸出の利便性から臨海に配置されてきた。しかし、そのほとんどが台風などの高潮対策はあっても、大津波対策は十分とはいえなかった。結果として、今回の東日本大震災は、岩手から茨城にかけての臨海工業地域に大被害をもたらした。

 歴史を振り返ると、東北は明治29年(1896年)の三陸大津波、昭和8年(1933年)、そして昭和35年(1960年)のチリ地震による津波などにより大きな被害を受けてきた。

 つまり、今後の東北復興を考えると、単に旧に復するのではなく、何十年後かに再び大津波がやってくることを前提にした「防災に強い東北復興プラン」が不可欠なのである。

 例えば、中国の工業開発区は法人税の減免や輸入関税の免除など、多くの魅力的な優遇策を提示し日本企業を盛んに誘致している。国際競争のなかで戦う企業が日本で生産を続けるためには、「東北復興防災モデル特別区」のようなものをつくり、復興資金の重点投入と、縦割りでがんじがらめになった規制を緩和した骨太の対策が望まれる。政府の対応次第では、日本企業が海外移転してしまい、我が国の成長前提が大きな影響を受けることになる。

 もう一つは電力の安定供給である。今回、福島第一原子力発電所に加えて常陸那珂火力発電所などの石炭火力発電所も大きな被害を受け、東京電力の供給能力が需要を大幅に下回ったことから、「計画停電」が実施された。東京電力は休止中の発電所の稼働や他電力からの電力融通等により供給能力の拡大を図っているが、各業界とも、企業は関東地方における夏場の「電力需要抑制」を免れない。休日配置、操業形態の見直し、東西間における生産振り回し等の需要サイドの対応に加えて、バックアップ電源の確保など供給面でも対応に追われている。

 産業界は従来から、電力は安定供給されるものだという前提で産業活動を行ってきた。中国広東省における計画停電や、インドにおける電力の不安定とは、我が国は無縁だと信じてきたのだ。

 しかし、今回の停電は、この前提を揺るがした。産業活動以外でも、家庭用のガス風呂や給水ポンプの電源も停電になると使えない。携帯電話も充電ができなくなると使えない。こういった状態に対する自衛手段として乾電池式の充電器が売れたが、それとて限界がある。

 電力の安定供給、すなわち「エネルギーセキュリティー」が強く認識されるようになった。

地球温暖化とエネルギーセキュリティーのバランス

 経済活動を行ううえで、「地球温暖化」と「エネルギーセキュリティー」は車の両輪のように重要だが、昨今は「地球温暖化」に重心が傾いていた。電力の供給面では、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の発生抑制の観点から、原発や新エネルギーの増加と石炭などの火力発電の低下が志向されていた。

 2002年、我が国が京都議定書を批准するにあたって、「地球温暖化大綱」がまとめられた。当時、私は日本経済団体連合会の環境安全委員会に置かれた温暖化対策ワーキンググループの主査をしており、産業界の対場から政府関係者と随分議論したが、「大綱」には、以下のように原発増設が大きく謳われた。

 「135万kW級の原子力発電所1基当たりの二酸化炭素削減効果は、石炭火力を代替した場合、1990年度のエネルギー起源の二酸化炭素排出量の約0.7%に相当するほど大きなものであり、引き続き増加するエネルギー需要を満たしつつ、我が国の削減目標を達成するためには、原子力発電所の新増設が不可欠である・・・(中略)今後、2010年度までの間に原子力発電電力量を2000年度と比較して約3割増加する事を目指した原子力発電所の新増設が必要である」

 今回の原発事故をきっかけに、「地球温暖化」の観点からは、「原発の替わりに自然エネルギーを」という議論が出てくるだろう。一方、「エネルギーセキュリティー」の観点から考えると、天然ガス、石炭、副生ガスを使った火力発電が求められる。特に、産業界は従来から、コンパクトで燃焼効率の良い石炭やガス火力、回収エネルギーを有効利用した発電を自家使用するとともに、IPP(独立系発電事業者)等として電力会社に供給してきた。

 今回のような電力の供給不足時には、産業界からの電力供給も求められる。しかし、新たな電源開発には環境面等を含む規制緩和が必要だ。

 今後は、「地球温暖化」と「エネルギーセキュリティー」の両方に軸足を置き、現実的でバランスのとれた議論が望まれる。また、「2020年までに温室効果ガス25%削減という日本の温暖化目標」に関しても、「3.11以降の日本経済の復興シナリオ」を踏まえて見直していく必要があるだろう。

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