再エネへの反感解消は可能か?-政策転換の効果は疑問
石井 孝明
経済記者/情報サイト「withENERGY」(ウィズエナジー)を運営
再エネ批判が強まっている印象がある。補助金の負担増と環境破壊の2つの問題で批判が広がる。政府は違法案件の取り締まりなど政策見直しに動くが、それらは解消しそうにない。再エネをめぐり国民の信頼確保、そして合意形成は難しそうだ。
太陽光の小規模発電所が急増し、里山が破壊され地域の混乱が続く山梨県北杜市。ここは別荘地だ。これは2016年に筆者が撮影した写真だが、地域の森林伐採と景観の破壊の状況は改善されていないという。
「利益を感じない」、当然の不満広がる
「再エネへの支援、私に何の利益があるのでしょうか」。私は記者として講演、ネットテレビに出演してエネルギー、再エネ問題を語ることがある。その際に視聴者や関係者から、このような感想を頻繁に聞く。この意見は当然に思える。
2026年度の再エネ賦課金の総額は約3兆2000億円だ。一世帯あたりの年額負担も平均2万3000円になった。FITで支出された太陽光、風力など再エネへの公的支援の総額は2012年度の制度開始から2026年度まで累計で約36兆円以上の巨額になっている。この巨額の支援は、日本のため、国民のためになったのか。判断の尺度は人それぞれであろうが、国民全てが「役立つ支援だった」と、合意はできないだろう。
そして再エネ、特に太陽光発電による森林伐採などの日本の国土の環境破壊の映像・画像が、SNSを中心に大量に流れている。筆者は太陽光による環境破壊が問題になった場所を何件も取材し、不快な状況を前に怒りを覚えた。再エネは、「環境にやさしい」との名目で導入されてきたが、それと真逆のことが一部で起きている。そうした問題行為は一部ではあっても、再エネ全体への不信感を当然強める。
筆者は、『強まる「再エネ嫌い」を懸念-足りなかった未来像の議論を今こそ』と言う記事を昨年9月にIEEIに寄稿し、こうした不信を危惧した。SNSや世論を観察していると、この2点を根拠にした批判は、強まっている印象だ。しかし、この執筆の後で政治が動いた。
優良事業者の選別政策は適切な方向
こうした国民の再エネ反感の高まりは、政治を動かした。昨年25年10月に就任した高市早苗首相は再エネ政策の問題点の是正を表明した。今年2月の施政方針演説では再エネについて「自然環境を損なったりサプライチェーン上のリスクとなったりしては本末転倒」と述べている。昨年末に政府は省庁横断で「メガソーラー対策パッケージ」を取りまとめた。依然残る不適切な太陽光の開発案件を取り締まり、制度の整備を進める方針を示した。
ここ数年、経産省・資源エネルギー庁は、賦課金の抑制、悪質な行為をする事業者の取り締まり、再エネ発電の電力市場への組み込みという、再エネ政策の見直しを行ってきた。高市首相の意向を受けて、その一連の政策を加速させた。実際に、25年から悪質事業者へのFIT認定の取消、刑事告発は増える傾向にある。そして補助金を抑制する制度変更が続く。
筆者が注目する政策がある。25年4月から「長期安定適格太陽光発電事業者」制度が始まった。発電規模が大きく、法令遵守など適切な運営を行ってきた事業者を経産大臣が認定し、それに手続きなどの優遇を与える一方で、小規模事業者の多い太陽光をそうした事業者に集約させようという動きだ。
これまで3社が認定されたが、大阪ガス、NTT、三菱系リース会社の企業グループに属する優良事業者だ。事業用太陽光のFITの期限は20年と定まっており、それが終わると事業者が発電をやめ、供給の混乱、設備の廃棄が不適切に行われる懸念がある。優良事業者が小規模発電の受け皿になり、効率的に、適切に運用することで、太陽光発電を継続させようとしている。
このように政府・経産省は再エネを、補助金を減らし、電力市場に組み込む、社会に迷惑や負担をかけない形で、主力電源にしようとしている。この政策の方向は間違ってはいない。
儲けを強調しすぎた政策の失敗
ただし国民の積み重なった不信感は、この政策を実行しても、なかなか解消されないだろう。不信の根源である「国民負担への疑問」そして「環境破壊」の2つの問題は、解決まで時間がかかりそうであるためだ。
既存FITの国民負担は短期間で消えるものではない。認定時の買い取り価格が一定期間維持されるため、過去に導入された案件の費用は契約期間中、賦課金に反映され続ける。そして環境に悪影響を与えた再エネ事業の是正・環境の現状復帰義務などの具体策には積極的に踏み込んでいない。導入しながらブレーキを踏む仕組みづくりは難しいためだろう。
加えて、再エネ事業者の考えや姿勢の問題がある。私は太陽光の環境破壊問題を2013年ごろから、日本のメディアの中では先駆的に報道した。当時は福島原発事故の反動で、再エネの悪い面を伝える人は少なかった。
当時、経産省に原発事故のために大変な批判があった。同省は批判の矛先を変えるために、再エネに大盤振る舞いの補助金を流す制度を作ったように思った。そして政治家は、反原発の風潮の中で再エネを支援した。再エネ政策は当時、合理性では決まらなかった。筆者は再エネを否定しないが、この国民負担と環境破壊を当時から懸念し、熱狂を怪しいと思っていた。
この時、問題のある事業者たちを取材した。そうした業者らが、結局形にならなかったが、再エネの業界団体を作ろうとしていた。創設準備パーティーに潜り込んだが、そこで発起人の事業者が「太陽光バブルが始まる。みんなで儲けよう」と、乾杯の音頭をとっていた。パーティーの雰囲気も、怪しいものを感じた。金儲けの期待が充満し、私はうんざりした。
ビジネスはもちろん金儲けを追及する。しかし、それだけではないはずだ。電力業界は業界の雰囲気として真面目な社風の会社が多く、電力供給の責任感を持ち、公益性を考える人たちが多い。しかし政府・経産省は再エネで「補助金で儲かる」仕組みを作り、「量を増やす」政策を採用した。その結果、これまでのエネルギー・電力業界とは違う人たちが集まってきた。
事業者の選別が課題
上記の2つの「巨額国民負担」「環境破壊」の問題がなかなか是正しないのは、こうした事業者達の抵抗があるのではないか。そして今後、再エネ補助金が縮小されると、こうした一部の参入者たちは、事業の閉鎖やパネルなどの設備廃棄の過程で、おかしな行動をする可能性があると思う。私の心配は外れればよいのだが。
問題のある再エネ政策を作ってしまった経産省、関係した政治家は、反省してほしい。現在進める是正政策は間違いではないので、実効性のあるものにしてほしい。優良事業者を増やすことは、その政策実現の重要な課題になるだろう。
古典『論語』に「民、信なくば立たず」(たみ、しんなくばたたず)という言葉がある。「構成員の信頼がなければ国や組織、集団の行動は立たない」という意味と、私は解釈している。その根底である信頼が、日本の再エネ政策は傷ついている。その信頼を作り出す道は、政策の始まりに問題があったために、困難であるように思える。
(複製した記事) 再エネへの反感解消は可能か?-政策転換の効果は疑問
石井 孝明
経済記者/情報サイト「withENERGY」(ウィズエナジー)を運営
再エネ批判が強まっている印象がある。補助金の負担増と環境破壊の2つの問題で批判が広がる。政府は違法案件の取り締まりなど政策見直しに動くが、それらは解消しそうにない。再エネをめぐり国民の信頼確保、そして合意形成は難しそうだ。
太陽光の小規模発電所が急増し、里山が破壊され地域の混乱が続く山梨県北杜市。ここは別荘地だ。これは2016年に筆者が撮影した写真だが、地域の森林伐採と景観の破壊の状況は改善されていないという。
「利益を感じない」、当然の不満広がる
「再エネへの支援、私に何の利益があるのでしょうか」。私は記者として講演、ネットテレビに出演してエネルギー、再エネ問題を語ることがある。その際に視聴者や関係者から、このような感想を頻繁に聞く。この意見は当然に思える。
2026年度の再エネ賦課金の総額は約3兆2000億円だ。一世帯あたりの年額負担も平均2万3000円になった。FITで支出された太陽光、風力など再エネへの公的支援の総額は2012年度の制度開始から2026年度まで累計で約36兆円以上の巨額になっている。この巨額の支援は、日本のため、国民のためになったのか。判断の尺度は人それぞれであろうが、国民全てが「役立つ支援だった」と、合意はできないだろう。
そして再エネ、特に太陽光発電による森林伐採などの日本の国土の環境破壊の映像・画像が、SNSを中心に大量に流れている。筆者は太陽光による環境破壊が問題になった場所を何件も取材し、不快な状況を前に怒りを覚えた。再エネは、「環境にやさしい」との名目で導入されてきたが、それと真逆のことが一部で起きている。そうした問題行為は一部ではあっても、再エネ全体への不信感を当然強める。
筆者は、『強まる「再エネ嫌い」を懸念-足りなかった未来像の議論を今こそ』と言う記事を昨年9月にIEEIに寄稿し、こうした不信を危惧した。SNSや世論を観察していると、この2点を根拠にした批判は、強まっている印象だ。しかし、この執筆の後で政治が動いた。
優良事業者の選別政策は適切な方向
こうした国民の再エネ反感の高まりは、政治を動かした。昨年25年10月に就任した高市早苗首相は再エネ政策の問題点の是正を表明した。今年2月の施政方針演説では再エネについて「自然環境を損なったりサプライチェーン上のリスクとなったりしては本末転倒」と述べている。昨年末に政府は省庁横断で「メガソーラー対策パッケージ」を取りまとめた。依然残る不適切な太陽光の開発案件を取り締まり、制度の整備を進める方針を示した。
ここ数年、経産省・資源エネルギー庁は、賦課金の抑制、悪質な行為をする事業者の取り締まり、再エネ発電の電力市場への組み込みという、再エネ政策の見直しを行ってきた。高市首相の意向を受けて、その一連の政策を加速させた。実際に、25年から悪質事業者へのFIT認定の取消、刑事告発は増える傾向にある。そして補助金を抑制する制度変更が続く。
筆者が注目する政策がある。25年4月から「長期安定適格太陽光発電事業者」制度が始まった。発電規模が大きく、法令遵守など適切な運営を行ってきた事業者を経産大臣が認定し、それに手続きなどの優遇を与える一方で、小規模事業者の多い太陽光をそうした事業者に集約させようという動きだ。
これまで3社が認定されたが、大阪ガス、NTT、三菱系リース会社の企業グループに属する優良事業者だ。事業用太陽光のFITの期限は20年と定まっており、それが終わると事業者が発電をやめ、供給の混乱、設備の廃棄が不適切に行われる懸念がある。優良事業者が小規模発電の受け皿になり、効率的に、適切に運用することで、太陽光発電を継続させようとしている。
このように政府・経産省は再エネを、補助金を減らし、電力市場に組み込む、社会に迷惑や負担をかけない形で、主力電源にしようとしている。この政策の方向は間違ってはいない。
儲けを強調しすぎた政策の失敗
ただし国民の積み重なった不信感は、この政策を実行しても、なかなか解消されないだろう。不信の根源である「国民負担への疑問」そして「環境破壊」の2つの問題は、解決まで時間がかかりそうであるためだ。
既存FITの国民負担は短期間で消えるものではない。認定時の買い取り価格が一定期間維持されるため、過去に導入された案件の費用は契約期間中、賦課金に反映され続ける。そして環境に悪影響を与えた再エネ事業の是正・環境の現状復帰義務などの具体策には積極的に踏み込んでいない。導入しながらブレーキを踏む仕組みづくりは難しいためだろう。
加えて、再エネ事業者の考えや姿勢の問題がある。私は太陽光の環境破壊問題を2013年ごろから、日本のメディアの中では先駆的に報道した。当時は福島原発事故の反動で、再エネの悪い面を伝える人は少なかった。
当時、経産省に原発事故のために大変な批判があった。同省は批判の矛先を変えるために、再エネに大盤振る舞いの補助金を流す制度を作ったように思った。そして政治家は、反原発の風潮の中で再エネを支援した。再エネ政策は当時、合理性では決まらなかった。筆者は再エネを否定しないが、この国民負担と環境破壊を当時から懸念し、熱狂を怪しいと思っていた。
この時、問題のある事業者たちを取材した。そうした業者らが、結局形にならなかったが、再エネの業界団体を作ろうとしていた。創設準備パーティーに潜り込んだが、そこで発起人の事業者が「太陽光バブルが始まる。みんなで儲けよう」と、乾杯の音頭をとっていた。パーティーの雰囲気も、怪しいものを感じた。金儲けの期待が充満し、私はうんざりした。
ビジネスはもちろん金儲けを追及する。しかし、それだけではないはずだ。電力業界は業界の雰囲気として真面目な社風の会社が多く、電力供給の責任感を持ち、公益性を考える人たちが多い。しかし政府・経産省は再エネで「補助金で儲かる」仕組みを作り、「量を増やす」政策を採用した。その結果、これまでのエネルギー・電力業界とは違う人たちが集まってきた。
事業者の選別が課題
上記の2つの「巨額国民負担」「環境破壊」の問題がなかなか是正しないのは、こうした事業者達の抵抗があるのではないか。そして今後、再エネ補助金が縮小されると、こうした一部の参入者たちは、事業の閉鎖やパネルなどの設備廃棄の過程で、おかしな行動をする可能性があると思う。私の心配は外れればよいのだが。
問題のある再エネ政策を作ってしまった経産省、関係した政治家は、反省してほしい。現在進める是正政策は間違いではないので、実効性のあるものにしてほしい。優良事業者を増やすことは、その政策実現の重要な課題になるだろう。
古典『論語』に「民、信なくば立たず」(たみ、しんなくばたたず)という言葉がある。「構成員の信頼がなければ国や組織、集団の行動は立たない」という意味と、私は解釈している。その根底である信頼が、日本の再エネ政策は傷ついている。その信頼を作り出す道は、政策の始まりに問題があったために、困難であるように思える。












