放射性廃棄物問題についてAIに尋ねてみた
岡 芳明
東京大学名誉教授、前・内閣府原子力委員会委員長
人工知能(AI)が発達してきたので、GoogleのGEMINI3に放射性廃棄物について聞いてみた。用いたのは、無料版で、高速モードで利用した。質問を入力し、回答をみて、質問を入力することを6回繰り返した。以下でQ1からQ6で示したものがGEMINI3に入力した質問である。GEMINI3は回答の後に、さらにこの問題を調べましょうかと提案してくる。提案を無視して、違う視点での質問を入力した。Q1は英語で質問したが、Q2以降は日本語で質問した。
原子力発電や放射性廃棄物処理処分にかかわらず、技術は科学的安全性に基づいて利用する。しかし、人間は心理的に安全を理解する。人間は危険を避けて生き残ってきたのでリスク情報を強く認識する。事故やリスクの情報は公衆の注目を集めるので、テレビ・新聞に限らず世間で流布されている情報は偏っている。この情報をAIが参照する。別の例では、ベンチャー企業は投資を集めるために、偏った情報を発信する。提案者が過去の経験や検討結果を知らないのではと感じることも多いが、詳しいことは、投資家以外には開示されないので、AIも偏った情報を参照し、偏った回答をする。AIの回答にはこれらの傾向が反映されている。一方AIは個人がよく考えていない課題や、理解していない課題を気づかせてくれる場合もある。AIによって、様々な効率化を図ることが可能になる。AIを使う場合は、使う側の能力が問われる。AIが役に立つことは間違いないけれども。これらの点に留意することが必要だと思う。
著名なリスク心理学者のPaul Slovicは、1987年の論文で「リスク・コミュニケーションは双方向プロセス(対話)でないと失敗する」と述べている。本コメンタリーは、AIを対話の相手として、放射性廃棄物問題や核変換(有害度低減)を議論した結果である。相手が人間の場合は、対話するには、感情面や相手の理解度への注意が必要だが、AIの場合はその必要はなく、ズバリと質問できるのは利点である。人間との対話には、スキルと経験を有する人材が必要だが、AIを利用した対話によって、理解の深化と効率化の可能性があるかもしれない。
有害度低減(核変換)に関する誤解の原因は、放射性廃棄物の地層処分の安全評価において、公衆の被ばくリスクに寄与するのは、超ウラン元素ではないことを、知らないためである。地層処分安全評価は報告書も専門家も極めて少ない。報告書や教科書はあるのだが。フランスの地層処分機関ANDRAはホームページで、フランス原子力規制委員会の意見を紹介し、核変換は地層処分の代替にならないと述べている。フランスの地層処分場の成立性評価結果は、総合的な報告書として2005年にANDRAより公表されている。Q4とQ5に、この指摘に対するAIの回答を紹介した。他分野や過去の経験を知らないで、研究費や投資を求めている例は他にも存在する。AIは万能ではない点に注意が必要である。
今回のAIの最後の回答の後に質問を付け加えるなら、「日本にも英国のような緊急時科学的助言組織が必要では?」という質問である。英国は緊急時科学的助言組織が大事故・大災害時に活動する。2009年と2010年にアイスランド噴火とインフルエンザ流行時に活動し、2011年の東電福島事故の時も活動し、東京の英国民は避難しなくてもよいと述べ、冷静な対応に役立った(参考文献:Grimes et al., “The UK Response to Fukushima and Anglo-Japanese Relations”, Science and Diplomacy, June 2014)。日本は政府が対応に失敗した。その結果、災害関連死が増加し、福島産の農産物の問題、処理水の問題などが発生し継続している。日本は初期消火に失敗し、大規模な山火事のように火元がいろいろできて、くすぶり続け、いつまでも消えない状態である。コロナパンデミックの時は、菅義偉内閣の力量もあったが、日本政府は比較的うまく対応した。日本も緊急時科学的助言組織を作って、その経験を継承できるようにすべきである。科学的知見だけではなく、リスク心理学・危機管理の知見等を蓄積し、分野や省庁を超えて継承する必要がある。これは東電福島事故の最も重要な教訓だが、対策できていない。安全のためには、原子力規制を厳しくすればよいというのは技術屋の思い込みである。日本の規制にはリスク・便益の考え方が欠落している。この改善は再稼働の後の課題である。
筆者は原子力委員長だった時に、国の原子力研究開発機関の役割は、新型原子炉などの開発ではなく、原子力利用の知識基盤を構築する役割だと主張し変革を試みたが、理解されなかった。知識基盤とは、利用に必要な知識を有する人材、知識を集積した報告書や解説、計算コードや実験設備などのことである。日本は分野を俯瞰する報告書や解説が少なく、組織的に作成されていない。これはAI時代に後れを取る欠陥である。米国は報告書や解説が充実している。例えば米国原子力規制委員会はこれらを集めて公開している。Information digestやCitizen’s guideが作られ、どこにどのような情報があるか検索できるようになっている。米国の省庁は4年ごとに担当政策をstrategic planとして作成することが義務付けられている。日本はそうではない。
こちらがGEMINI3との会話です。













