ロサンゼルス山火事の原因と解決策


ブレークスルー研究所(Breakthrough Institute) 気候・エネルギーチーム 共同ディレクター

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監訳 キヤノングローバル戦略研究所 杉山大志 訳 木村史子

本稿は、Causes and Potential Solutions to the LA Wildfire Disaster
ブレークスルー研究所 パトリック・T・ブラウン 2025年1月12日を、許可を得て邦訳したものである。なお、この記事のオリジナルはシティ・ジャーナルに掲載された。

 ロサンゼルス地域からは、今週猛威を振るっている複数の火災による甚大な破壊を描いた悲惨な映像が流れている。これらの火災は、カリフォルニア州パラダイスの町を焼き尽くした2018年の山火事「キャンプ・ファイア」を抜き、米国史上最も甚大な被害をもたらした山火事になりそうだ。

 多くの人々は、この災害を引き起こした明確な犯人を探しており、気候変動はその最たるもののひとつだと言われている。しかし、この災害は自然的要因と人為的要因が重なった結果である。気候変動はその一端を担っているかもしれないが、気候変動に焦点を絞ってしまうと、火災のリスクや影響を軽減するための直接的な対策が疎かになり、逆効果になりかねない。

気候変動が山火事の原因なのか?

 火災の危険性は、気象条件と燃料条件の産物である。また、着火も必要である。火種がなければ火は起こせないのだ。化石燃料の燃焼による地球温暖化は、気温を比較的一様に上昇させるため、火災に関連する気象学のあらゆる側面にある程度の影響を与えるが、多くの場合、その方向性は同じではなくまちまちである。

 こういった火災は、ハリケーン並みの強風が吹き荒れ、場所によっては時速80マイルを超える突風が吹くとき発生し、特に強烈なサンタアナの風によって引き起こされている。この風は、気象学的に山火事災害の主な原因となっており、燃焼に必要な酸素を供給し、炎を前進させ、残り火を拡散し、空中消火を不可能にするのである。

 サンタアナの風は南カリフォルニアの風土に生来備わっているもので、気候変動によって悪化するという証拠はほとんどない。むしろ、気候変動によってサンタアナ風の強さや頻度が減少することが予想さている(リンク1リンク2リンク3リンク4)。

 火には燃えるものが必要だ、 そのため、植生(火災の燃料)の状態、特にその植生がどれだけ乾燥しているかが、火災のもうひとつの重要な要素である。ロサンゼルス地域はこの時期、通常より雨が少ないため、草木が燃えやすくなっている。しかし、今年のような降水量不足の主因が温暖化であるという証拠はほとんどないのである(リンク1リンク2リンク3リンク4)。

 その一方で、ロサンゼルスがこのような干ばつに見舞われた場合、気候が温暖であれば、大気の乾燥をもたらし、植生をより乾燥させ、燃えやすくする。

植生に問題があるのか?

 そして、火災の原因となる燃料がどの程度あるかなど、地上の植生の特性にも問題はある。南カリフォルニアのチャパラル草原の状況は、北側にある森林とは異なっている(そこでは、火災の回避と、100年以上にわたって蓄積された過剰な森林が大きな問題となっている。生態系にとっては一定の犠牲を伴うこともあるが、火災の危険性を軽減するために、人工的に切り出したり、計画的な火入れを行うことができる。

 では、温暖化が進む中で、植生を積極的に減少させることは、どれほど効果的なのだろうか?私たちの研究はこの疑問に答えようとしている。その研究では、火災が発生するまでの状況を想定し、背景となる気候を温暖化させ、植生減少をシミュレートすることで、将来の温暖化と植生の人為的減少による「燃料処理(fuel treatment)」が火災にどのような影響を与えるかを検証している。以下は、これを今週のロサンゼルス地域の天候に当てはめたものである。

図 山火事による発熱量の現在と2050年の比較。縦軸は山火事による潜在的な発熱量(MWh)。右の3つの棒では、温室効果ガス排出削減の遅い場合(slow emissions reduction, SSP2-4.5)と速い場合(fast emissions reduction, SSP1-2.6)、燃料処理のある場合(with fuel treatment)と無い場合(without treatment)が比較されている。

 私たちのモデリングでは、温暖化がこの地域の山火事強度の増加に実際に寄与しており、今世紀半ばまでにはさらに強まることを示している。

 ここでは、2つの異なる温室効果ガス排出シナリオが示されている。ひとつは、現在の世界の政策をほぼ反映した緩やかな排出削減シナリオ(SSP2-4.5)であり、もうひとつは、パリ協定に沿った急速な排出削減シナリオ(SSP1-2.6)である。低速排出削減シナリオとパリ協定シナリオの違いは、世界のエネルギー経済、農業経済、技術導入、地政学などに大きな差異があることを表している。とはいえ、これらの違いは、2050年の火災強度のわずかな変化(+7.2%から+5.5%)にしかつながらない。

 山火事リスクへの対策といえば、温室効果ガス排出量の削減が、私たちが引き出せる主要な手段としてしばしば声高に叫ばれている。しかし、エネルギー政策を通じて気象関連の結果に影響を与えようとしても、それは極めて間接的なものであり、もっと直接的な解決策が手元にある場合の方が圧倒的に多いのである。

 その観点からすると、 青い棒グラフは、2050年の火災強度を示していて、これは、緩やかな排出削減(SSP2-4.5)だが、植生を積極的に削減した場合のものである。緩やかな排出削減シナリオの結果として2050年の気温がやや高い状況になっても、植生削減によって火災強度が現在よりも約15%減少することがわかる。

 これは、年間100万エーカーの面積にわたって追加的に危険な燃料を削減するというカリフォルニア州の目標が、10年間で5,000万エーカーの燃料を削減するという連邦政府の目標とともに、評価に値するものであり、増大する山火事の脅威と闘う上で役に立つという根拠とも言える。

 しかし、これらの目標を実際に達成するには、資金面での制約、労働力不足、複雑な土地所有形態に関連する物流問題など、複数の課題を克服する必要がある。

 その上カリフォルニア州有地ではカリフォルニア環境質法(CEQA)、連邦有地では国家環境政策法(NEPA)に関連する官僚的・規制的な障害がある。特にNEPA手続きは、燃料削減処理にとって大きな障害となる。林野部は連邦機関の中で最も多くのNEPAレビューを作成し、最も訴えられる可能性が高くなっている。その結果、訴訟によってプロジェクトの実施が平均3年ほど遅れることになるので注意が必要である。

人的発火

 さて一方で、これらすべての火災は人によって起こされたものである。南カリフォルニアの膨大な人口が、自然には存在しない多くの発火源をもたらしているのである。よくある原因は、器具の使用(チェンソー、草刈り機などの火花)、自動車、ATV(四輪バギー)、ダートバイクの火花、喫煙、キャンプファイヤー(またはホームレスの焚火)、バーベキュー、花火、放火などである。従って、火災の安全に対する市民の意識を高め、警告を発すれば、こうした出火を減らすことができるはずである、 過去数十年間で、人為的な出火はおそらく減少してきているはずである

 電力会社による火災の問題もある。サザン・カリフォルニア・エジソン (SCE: 米カリフォルニア州の電力会社)は、送電線が原因の火災のリスクを減らすために、いくつかの地域で先手を打って送電を遮断している。これは理想的な解決策ではないが、発火を防ぐことはできる。長期的には、送電線周辺の植生を減らし、配電線を埋め込み、物体に接触すると自動的に通電を停止する送電線を設置し続ける方法もある。

住宅の堅牢化と防火対策

 このような極端な火災気象条件が不可避であり、人為的な発火を完全に排除できないことを考えると、構造レベルでの保護も重要である。住宅から5フィート以内に植生がなく、5フィートから100フィート以内に耐火性の植生がまばらにあれば、住宅は火災にずっと強くなる。また、建築基準法や「住宅の頑強化」も重要な要素である。不燃性の屋根材(金属、瓦、アスファルト・シングルなど)、メッシュ・スクリーン付きの耐琥珀性換気口、耐火性の壁材(スタッコ、ファイバー・セメント、金属など)などは、実験室でも実際の環境でも効果があることが証明されている。さらに、近隣でより多くの住宅がこれらの方法を採用することで、地域全体的な効果が高まるという相乗効果もある。

 また、このような大きな火災の発生を遅らせ、最終的に鎮火させるためには、充実した消火活動(個人的なものだけでなく、航空機や地上設備を使用する場合も含め)と質の高い火災気象予報が不可欠であることは言うまでもない。

総括

 このような壊滅的な被害が発生すると、多くの人は単純な悪者探しをするが、現実はもっと複雑であることが多い。今回の場合、気候変動は、火災の危険性を高める一因になっている可能性はあるが、強風や干ばつへの影響は乏しいため、気候変動が主な責任だという訳ではない。さらに、世界的な二酸化炭素排出削減が森林火災に及ぼす影響は、極めて間接的かつ遅効的である。

 山火事が抑制される結果として燃料が長期的に蓄積することについては、今回火災が発生した南カルフォルニアにおける草原においては、北カリフォルニアの森林と全く同じ問題ではないにしても、私たちのモデリングによれば、植生を減少させることによって、これらの地域の火災リスクを大幅に減少させることが可能だと考えられる。

 これとは別に、将来的にこの種の災害を減らすための主な方法は、人為的な発火をさらに減らすこと、消火のための予算や設備を増やすこと、火災が発生しやすい地域社会での「住宅の頑健化」対策を強化すること、であると言えよう。

 結局のところ、私たちは何をしようとも、しばしば私たちの幸福を脅かす惑星に住んでいるのである。南カリフォルニアは、人類の歴史を通じて火災が非常に多い地域であり、今後もその傾向が続くだろう。そのため、自然災害による被害を完全に回避することはできず、私たちはしばしば、リスクを排除するのではなく、軽減するためだけの部分的な対策を講じることになる。