竜巻はむしろ弱くなっている

最新の論文によると、米国の竜巻被害と強い竜巻の発生率はともに劇的に下がっているが、ここでしか読むことは出来ない。

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監訳 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志 訳 木村史子

本稿はロジャー・ピールキー・ジュニア「Trends in U.S. Tornado Damage and Incidence」を許可を得て邦訳したものである。


カーテンの後ろを覗いてはいけない

 2011年、米国では500人以上の竜巻による死者と300億ドル超もの竜巻被害が発生した。 現在においては一般的なことではあるが、気候変動活動家たちは、この年の破壊的な竜巻は気候変動によるものだといち早く主張した。だが、米国海洋大気庁(NOAA)はそのような主張を否定し、次のように忠告した:

 科学的なプロセスを適用することは、単なる偶然の一致が多すぎることに帰せられるすべての主張における厳密性の欠落を解消するために、必要不可欠である。

 2011年の竜巻シーズンをきっかけに、ケビン・シモンズ氏、ダニエル・サッター氏、そして私の3人は、全米における竜巻の傾向とその影響について詳しく調べることとした。その結果として、1950年から2011年までの米国における竜巻被害について、初めて包括的に正規化した論文を査読付きで発表した(訳注:正規化とは、観測方法、報告方法などの変化を考慮してデータを補正することを指している)。

 その結果には我々自身も驚いた。米国の竜巻被害と竜巻発生率は、従来の常識に反して劇的に減少していたのだ(以下参照のこと):

 この論文で示した分析によると、1950 年から 2011 年までの米国における正規化された竜巻被害は、適用した 3つの正規化手法すべてにおいて減少している(2つは統計的に有意、1つは有意ではない)。この減少が強い竜巻の発生率の実際の減少の結果であるのかの判断は、時系列での報告方法に一貫性がないあるため困難である。しかし、データセットの中における短期間内の傾向を調べると、長期的な損害額の減少の一部は、竜巻の動向の変化に起因するものである可能性が示唆される。この可能性を評価するためには、さらなる調査が必要である。

 私たちが、事態が実際には悪化していないという可能性をいかに説明するかについて、非常に慎重であったことがおわかりいただけるだろう。それにもかかわらず、私たちの研究は第4次全米気候評価報告書では無視され、証拠や専門家の査読を経た研究結果とは正反対の内容が次のように主張された:

 地球温暖化によって竜巻の頻度と強度が増加すると予想される。

 チャン氏らにより、2013年の我々の分析を更新し拡充した新しい論文「米国における大規模竜巻による損害の時間的傾向(Time trends in losses from major tornadoes in the United States)」が発表された。彼らは次のことを明らかにした:

 個々の竜巻による被害の深刻さも、竜巻による年間総被害額も、時間の経過とともに減少していることが認められる。

 彼らの分析は、私たちのこれまでの研究を裏付けるものであると言える(以下):

 の調査結果は、自然災害の重大性について適切な結論を導き出すためには、損失データを正規化することが重要であると強調するシモンズ他(2013)の研究結果(Simmons et al. (2013))を裏付けるものである。

 1954年から2018年までの正規化の結果については下図をご覧いただきたい。


正規化した米国の年間竜巻被害額(1954~2018年)。
出典:Zhang et al. 2023

 彼らの結果を、2022年まで更新した下図の私たちのまとめた結果と比べてみてほしい。


正規化した米国の年間竜巻被害額(1950-2022年)。
出典:Simmons et al. 2013を更新

 またチャン氏らは、「最も強いレベルの竜巻」も1950年以降大幅に減少していることを明らかにしている。次の図は、様々な強度の竜巻(F1が最も弱く、F5が最も強い)の発生傾向を示したものである。F2以上の竜巻の発生率が減少していることがわかる。そして私たちの2013年の分析では、被害の約90%がF2以上の竜巻によるものであった。

 私たちの分析後の11年間では、11年中9年が米国における竜巻発生率の本分析における平均を下回っており、2023年は平均をやや上回っている。竜巻がより深刻化し、より大きな被害をもたらしているという主張を裏付ける証拠はまったくない。実際、証拠はその逆を示しており、専門家による研究結果もこれとまったく一致している。

 なぜ減少傾向にあるのか?気候変動が影響しているのだろうか?このような疑問が科学文献に掲載されることはほとんどない。

 災害損失を正規化する研究は、科学的研究において重要な位置を占めている。広く出版され、引用され頻繁に再現されよく保険や再保険の際に利用されるようになってもいる。しかし、このような状況にもかかわらず、メディアやIPCCや米国気候評価委員会の科学的評価では、これらの研究は全面的に無視されている

 なぜ無視されるのか?

 異常気象や災害に関する誤った情報は平然と放置されていて、これに対する反論はごく簡単に出来るようなものばかりだ。。。しかしながら、社会規範や政治的圧力が非常に強く、物事を正直に言わないことが多い。実に驚くべきことだ。

 最終的には正しい科学が勝つと確信している。ただ、しばらく時間がかかるかもしれない。その間、私はこのコラムTHB(The Honest Broker)で、カーテンの後ろにある真の科学を伝え続けていくつもりだ。