航空業界のカーボンニュートラルへの取り組みについて

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 国際航空や国際海運は複数国・地域を跨いで運航していることから、2015年に開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締結国会議)にて採択された温室効果ガス排出削減等のための国際枠組みであるパリ協定の範囲外とされ、各々業界として議論、目標管理を行っている(国内航空はパリ協定の範囲内)。
 2016年のICAO(国際民間航空機関)の第38回総会で「国際民間航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム(CORSIA:Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)」が採択され、業界の指針として取り組みを進めている。
 航空は排出量削減のための技術的課題が大きく、脱炭素が最も難しい業界のひとつと言われているが、2022年の第40回総会では2050年までのカーボンニュートラルが長期目標として採択された。

国際航空における削減

 CORSIAでは、具体的な目標として2024年から2035年の間、国際航空からのCO2排出量を2019年比較で85%に抑えることが定めらており、この目標を達成するために下記4つの脱炭素手法が示されている。各航空会社はこれらの手法を組み合わせ、目標達成に向けた施策を進めている。

新技術の導入
運航方式の改善
代替航空燃料(SAF : Sustainable Aviation Fuel)の活用
市場メカニズムの活用(排出権取引)

 各航空会社は①~③の手段により削減を行っても2019年比85%のベースラインから増加するCO2排出量を、④市場メカニズム(炭素クレジット)によりオフセットしなければならない。

出典:ICAO公式WEB

 全世界で排出されるCO2排出量のうち約2%が航空分野からとなり、ICAOの予測では2025年までの航空輸送量は旅客輸送で年平均4.6%、貨物輸送で年平均6.6%の伸び、CO2排出量は2050年には現在の2倍〜5倍に達すると予測されている。
 今後、生産量に比例して増加するCO2排出量を削減していくことは航空業界における大きな課題となっている。

 航空機の技術革新については、低燃費機材への更新を進めるとともに、水素や電力により飛行する航空機の技術開発が進んでいる。これらの新技術による航空機の開発は航空業界の脱炭素化に大きく貢献することが期待されるが、これらに対応する空港施設への変更などインフラ整備が必要となることや、機材の大型化や長距離飛行への対応は難しい状況である。
 その為、現状では脱炭素の実現に向けた戦略の中核となるのは、ジェット燃料と比較してCO2排出削減効果があるSAF(持続可能な航空燃料)の活用となっている。

SAFの活用

 航空業界の脱炭素の中核となるSAFは廃食油、サトウキビからのエタノールなどのバイオマス燃料や、都市ごみ、廃プラスチックなどの様々な原料から製造され、原料の生産・収集から、製造、燃焼までのライフサイクルで、従来のジェット燃料と比較してCO2排出量を大幅に削減でき、航空機・エンジンや空港施設など既存のインフラをそのまま活用できる燃料(航空燃料ケロシンとの混合率は最大50%)である。
 一方、現在のところSAFの普及率は非常に低い水準にとどまっており、2020年時点のSAF燃料の供給量は世界全体のジェット燃料供給量の0.03%に過ぎず、現行のジェット燃料と比べて2倍~10倍と高価格となっている。2024年の供給量の予測においても0.53%しかカバーできず、SAFの安定供給(品質・量・価格)が喫緊の課題となっている。

国産SAFの安定供給に向けた取り組み

 脱炭素の実現に向けた戦略の中核となるSAFの安定供給に向けて、航空業界一体となりサプライチェーン全体でイニシアティブを立ち上げるなどの取り組みを実施している。

「持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進に向けた官民協議会」
 SAFの導入にあたり、国際競争力のある国産SAFの開発・製造を推進するとともに、将来的なサプライチェーンの構築に向け、関係省庁(国土交通省、経済産業省、環境省、農林水産省)、供給側の石油元売り事業者等と利用側の航空会社による官民協議会が開催されている。供給側において必要十分なSAFの製造能力や原料のサプライチェーンを確保し、政府によるSAFの製造設備に対する投資支援や生産量に応じた税額控除を行う予算措置が決定された。
 2030年に日本の空港で給油する燃料の10%をSAFにする供給目標を設定し、政府による積極的な支援を検討していく方針が確認された。

「ACT FOR SKY」
 2022年3月、国産SAFの商用化および普及・拡大にオールジャパンで取り組む有志団体である「ACT FOR SKY」が設立された。原材料の調達、製造、供給、使用にわたる国産SAFに関係する企業・自治体がその枠を超えて行動するムーブメントを創出し、国産SAFの商用化と普及・拡大の実現を目指している。

※ACT FOR SKYの詳細:https://actforsky.jp

 航空業界の脱炭素に向けては、SAFを始め削減手段を効果的に使用できる環境をつくりあげていくことが必要である。そのためには様々なステークホルダーとの協働が不可欠である。脱炭素を実現し、航空輸送を持続可能な輸送手段とすることで、社会インフラとしての使命を将来にわたり果たしていくべく、更に取り組みを進めて行く。