1990年~2023年における世界の災害損失額はGDP比で減少している

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監訳 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志 訳 木村史子

本稿はロジャー・ピールキー・ジュニア「The Honest Broker 2024.1.13 Global Disaster Losses: 1990-2023: An update that may surprise you」を許可を得て邦訳したものである。


26年経った両写真。時計台に注目すると違いが際立つ。出典はこちら

 国連防災世界会議において採択された仙台防災枠組は、災害リスク削減の達成状況を把握するための重要な指標として、GDPに占める災害損失の割合を挙げている注1) 。これは明らかに理にかなっている。というのも、世界経済が成長するにつれて、より多くの「モノ」が危険にさらされ、被害を受けやすくなるからだ。冒頭の上海の2つの写真に見られるような建築物の変化は、1990年代以降、世界経済が2倍以上に拡大するにつれて世界中で起こっている。

 つまり、総災害損失額だけを見ることは、たとえインフレを調整したとしても、傾向を不完全に描いてしまい、誤解を招く可能性さえあるということである。ミュンヘン再保険が今週初めに発表した、2023年のデータに基づいて更新した1990年以降の気象災害による損害総額(下図)を見ればわかるように、当然ながら、経済成長に伴って損害額は時間の経過とともに増加してきた注2)


1990年から2023年までのインフレ率調整後の気象災害に伴う損失総額。
出典は以下のリンクより。

 上のグラフの傾向を見て、こう結論づける人もいる: ああ!やはり気候変動のせいなのだ!と。しかし、災害は異常気象と社会の関わりにおいて発生するため、気象や気候の傾向を見抜くには、気象や気候のデータを直接見ることが常に適切である。経済データを使ってはいけないのだ。それは当たり前のことなのだが。

 災害損失の傾向をより正確に把握するためには、災害への曝露や脆弱性の変化を考慮して災害損失を正規化する必要がある。仙台防災枠組では、正規化の方法として、災害損失の対GDP比を見ることを推奨している注3) 。下のグラフは、上に示したものと同じデータを、今度は世界のGDPに占める割合で示したものである。


世界のGDPに占める災害損害額の割合。出典は以下のリンクより。

 1990年以降、世界経済に占める災害被害額の割合は、GDPの約0.25%から0.20%未満に減少した。これは良い兆候であり、仙台防災枠組の目標が達成されたことを示している。

 以下にいくつかの質疑応答を示そう。

  • 問:このデータから、気候変動が災害の頻度や被害コストを高めていると結論づけられますか?
    答:いいえ。
  • 問:この傾向から、気候変動の兆候が、極端現象の傾向から検出できない、と結論づけることができますか?
    答:いいえ。
  • 問:このグラフを見て、気候変動について何が言えますか?
    答:何も言えない。
  • 問:災害による経済的損失によって、異常気象の傾向が検出されており、この原因は気候変動に帰属することが示されている、と主張するジャーナリストや活動家についてはどう考えますか?
    答:彼らは間違っている。
  • 問:気候変動によって災害の被害が大きくなっているかどうかは、どうやって確かめればいいのですか?
    答:このリンクに示す方法論に従えばよい。

 最後に、NOAA(アメリカ海洋大気庁)の「10億ドルの災害」データセットに関連したグラフを特別に紹介しよう。この図は、インフレ率調整後のアメリカの年間GDPと「10億ドル災害」の年間発生件数を示している(2023年後半にダウンロードしたNOAAのデータより)。私がしばしば言ってきたように、この分析はさほど難しいものではない。


相関関係は因果関係とは限らないが、この場合は因果関係だ。

 最後に、以下、世界災害情報に関する最新のデータソースのリンクを付けておこう:


注1)
仙台防災枠組において示された災害リスク削減達成状況を図る他の2つの指標とは、全人口に占める死亡者数と被災者数の割合である。
注2)
ミュンヘン再保険によると、2023 年は天候・気候関連の損害総額と保険損害額全体では平均以下であった。2023年の最も大きな災害は地震で、63,000人以上が犠牲となった。
注3)
GDP調整は多くの場面で一般的である。またさらに正規化にはもっと複雑で緻密な手法が用いられる。私はそれについての文献をこちらでレビューし、さらに最近更新したものをここに掲載している。