再生可能エネルギー・原子力等に対する期待と課題(その1)


東京大学大学院工学系研究科 教授

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カーボンニュートラル、エネルギー安定供給

 COPなど国際的な気候変動対策を議論する場においては、世界の平均気温上昇を産業革命前から1.5℃に抑制する努力の追求が国際社会に求められるなど、国際的な脱炭素化に向けた更なる対策強化の機運が高まっている。いわゆる1.5℃目標の達成には今世紀半ば頃に世界全体の正味CO2排出量をゼロとし、今世紀後半にはマイナスの排出量を実現する必要があるとのシナリオ等が提示されており(1)、脱炭素化に向けた積極的な技術への投資が欠かせないと考えられる。日本でも2030年度までの温室効果ガス2013年度比46%削減が表明され、さらに2050年までのカーボンニュートラル実現が目標として表明された。そして、脱炭素関連投資を促進するためGX推進法や再生可能エネルギーや原子力の活用に向けたGX脱炭素電源法が2023年に成立した。一方、世界のエネルギー情勢では、ウクライナ危機を背景に、エネルギー価格や電気料金の高騰が社会に影響を与え、エネルギー安定供給の重要性を再認識する契機になったと考えられる。また、東日本大震災をはじめ、令和6年能登半島地震においても大規模な電力供給支障が発生して地域社会に大きな影響を与えるなど(2)、日本は地震や台風など自然災害に対するエネルギーサプライチェーンの強靭化、迅速な復旧能力の確保(レジリエンス)が不可欠となっている。脱炭素、エネルギー安定供給の双方に配慮したエネルギーシステム構築が重要となる。

 その中で、再生可能エネルギー(再エネ)や原子力発電への関心が高まっている。COP28では(UAE、2023年)、2030年までに世界の再エネ発電設備容量を3倍にすることが合意され、また、2050年までに原子力発電設備量を3倍へ拡大する目標が有志国により発表された(3)。経済合理性などの一定の評価基準を踏まえたエネルギーモデル分析を参照すると、2050年カーボンニュートラル実現に向けてはあらゆる技術の総動員が必要になると考えられる(4)。モデル分析の一例では、省エネを物理的限界や経済合理性を踏まえたうえでエネルギーシステム全体にて最大限に進め、同時に、エネルギー需要側での電力化(電力機器利用へのシフト)と再エネ・原子力等により電力供給の脱炭素化を進めてシステム全体のCO2削減がはかられる。そして、それらの方策でも脱炭素化が困難な領域は(産業部門など)、水素やCCUS技術等の活用により(CO2回収・貯留、合成燃料製造等を通じたCO2利用、大気中CO2直接回収技術[DAC: Direct Air Capture]などCO2除去技術等)、システム全体のCO2をネットゼロとする技術が展開される。カーボンニュートラル実現には、あらゆる技術の総動員が重要との示唆を与える中で、再エネや原子力の両技術の導入がネットゼロ実現の一端を担うものと考えられる。

再生可能エネルギーを巡る動向

 世界的に再エネ普及が進展し、国内では再エネ主力電源化の方針が示される中、カーボンニュートラルや安定供給に向けて、電源構成に占める再エネ電源の比率を、その物理的ポテンシャルや経済合理性を踏まえ、どの程度まで高めることが可能か、関心が高いテーマとなっている。再エネによる潜在的な電力供給ポテンシャルは大きいとみられ、太陽光発電や風力発電といった自然変動電源の場合、系統の混雑処理ルールの下、コスト低下が進む蓄電池など再エネ出力を補完する技術を活用しながら普及が進むものと思われる。環境省の推定によれば、現在の日本の電力需要の約1.1倍~2.6倍に相当する再エネのポテンシャルが存在する可能性が報告されており(5)、脱炭素化を進める上で重要な技術オプションであると考えられる。再エネ活用には脱炭素化に加え、エネルギー自給率の向上、災害時の非常用電源としての災害対応強化(レジリエンス)などの特徴が挙げられる。また、企業では近年、脱炭素化へ適合した経営が重視される傾向にあり、再エネを積極的に利用するインセンティブになっていると考えられる。一方、再エネの中でも太陽光や風力といった自然変動電源の出力には、時間的ギャップの課題(電気出力の変動や不確実性により、需要に合わせた出力調整が難しい)、地理的ギャップの課題(再エネ資源の地域的偏在等)が挙げられる。例えば、風車の出力は理論上は受風面を通過する風速の水準の3乗に比例し、風速に対して累乗で出力が変化するため変動が大きく、広域的な導入を進めて出力の平滑化をはかることが望ましい。また、風力の電力比率が約2割を占める英国では、最長11日間連続して、風力発電出力が平均よりも低下する事例も報告されている(6)。また太陽光発電は、昼間に発電できる一方、夜間は電気出力が得られないため、出力の補完を行う調整力の確保が必要になる。日本では太陽光発電導入量は執筆時点で世界3位、国土面積当たりでは主要国の中では最大導入量を誇る一方、風力発電に関しては、風力資源が北海道や東北など特定地域に集中しており、接続量拡大には電力消費の大きい関東エリア等を結ぶ送電線増強が必要になると考えられ、風力発電の導入量は欧米に比べて小さい状況にある。

 また、再エネ普及に伴い地域社会との摩擦が生じる事例がみられることも踏まえて国によりガイドラインが定められるなど(7)、再エネとその立地地域との共生を重視する方針も政府より示されている。景観など地域の生活環境への影響や自然災害による再エネ発電施設の事故などを踏まえ、再エネと地域の共生の視点が重要になると考えられる。2023年に成立したGX脱炭素電源法では、法令に違反した事業者に対し、FIT等の再エネ支援策の留保や支援金の返還命令など(8)、再エネ事業のガバナンス強化が行われることになった。その中で、日本では太陽光発電の導入適地も以前に比べ徐々に少なくなっていると考えられ、陸上風力発電の導入も海外に比べて少ない中、洋上風力発電は設備利用率が相対的に高いこと(設備利用率40%程度)、洋上立地のため陸上風力に比べて景観や騒音問題など立地制約を緩和できる可能性があること、海洋国家である日本は洋上風力資源量が大きいことから、導入への機運が高まっている。洋上風力導入を見据えた海底直流送電による電力系統計画に関する議論も行われ、多様な再エネ普及による脱炭素化が期待される。

再生可能エネルギーと電力系統

 太陽光発電や風力発電の主力化に際しては、電力系統の課題への取組も重要となる。再エネ普及に伴い、電力システムの供給力や調整力の確保、電力系統制約などの課題への対応が不可欠となる。調整力を有する電源や電力貯蔵等の電力システムの柔軟性を高めるリソース確保、ならびに、電力系統での送配電線容量の増強、電力系統安定性の維持(周波数や電圧の安定化)などが大事になる。これまで、送電線の空き容量を有効活用するルールが導入され(送電線の空き容量が存在する場合や送電線故障時の出力抑制などの条件で、再エネ等の電力系統への接続を認める日本版コネクト&マネージと呼ばれるルール。ノンファーム型接続など)、既存の送電線の有効活用、送電線への新規投資の繰延と電力コスト抑制に貢献すると考えられる。これを背景に再エネ連系が進み、2024年度には関東エリアでも送電線制約により再エネ出力抑制が予見され、系統混雑が見込まれている(9)。電源に対する空き容量のある系統への立地インセンティブのさらなる確保など、電力系統の混雑管理は再エネ主力化に向けて重要な課題になると考えられる。現在、一定の混雑処理ルールによる再給電方式により混雑管理が行われる中、米国の電力市場のように、電源の限界費用を踏まえ、経済的に公平な需給を決定するメリットオーダーを重視した、ノーダル制と呼ばれる市場主導型の系統管理の可能性も検討されている。ノーダル制は、電力系統の変電所等のノード毎に電力価格が決定され(LMP: Locational Marginal Price[地点別電力限界価格])、LMPは需要側、供給側に対するノード毎の需給状況を表す価格シグナルとなる。LMPの低い地点は電源接続には向かず、工場立地など需要創出には適することを示唆し、LMPの高い地点は電源接続に適する一方、需要創出には向かないことを示唆するため、電源や需要の立地インセンティブをもたらし、需給バランスの適正化に貢献しうると考えられる。送電線増強の回避や再エネ出力抑制の低減など、再エネ主力化にも貢献する制度になりうると考えられる。また日本の卸電力市場では、電力市場価格の最低価格はほぼゼロ円(0.01円/kWh)であるが、欧米では負の価格(ネガティブプライス)を許容する制度が採用され、米国中西部ではネガティブプライス発生時、多くの電源が出力抑制するなど、電源の運用に影響を与えているとの報告もみられる(10)。ネガティブプライス導入は、送電により金銭的な損失が発生し、逆に電力を消費することで収入になるため、再エネ出力抑制や電力供給余剰の低減、電力需要の創出に作用することで、再エネに起因する系統混雑管理にも貢献すると考えられる。

 また、電力系統の安定性も大切となり、周波数等の電気の品質に影響を与えるため、慣性力の確保に向けた取組も重要であると考えられる。太陽光発電などのいわゆるインバータ電源(IBR: Inverter-based resource)は慣性力を有しておらず、電力系統での接続量が増加すれば、電力系統の故障時(電源脱落など)、周波数の回復力が低下し、停電に至る可能性もあり、技術的対策が必要になる(同期調相機、疑似慣性など)。また、再エネ出力は様々な時間単位で変動しているが(秒、分、時間)、再エネ大量導入の際は、季節間など長周期の再エネ出力変動への対策も将来計画する必要があると考えられる。例えば、風力発電は冬に高い発電出力が得られるが、夏は相対的に低下する傾向がみられる。また太陽光発電は春から夏にかけて昼間に大きな出力が得られるが、冬は相対的に出力が低下する傾向にある。そのため、自然変動電源を大量導入して主力化する場合、季節間の変動への対応も大切になる。電力貯蔵技術で対応する場合、例えば一方策としてではあるが、太陽光発電では日射量が豊富な春や夏に大量に電力貯蔵を行い、日射量が低下する冬に放電して対応することが考えられるが、日間運用と異なり、充放電で利益を得る機会が限定的になるため、投資回収への留意が必要になると考えられる。

再生可能エネルギーと電力市場

 再エネ主力化に向けては、電力市場制度の整備も大事になる。日本では既に、卸電力取引市場での電力量(kWh価値)のメリットオーダー取引に加え、期先の供給力(kW価値)を確保するための容量市場、調整力(ΔkW価値)を確保するための需給調整市場などの市場制度が整備された。また米国では、系統制約を考慮した最適電源起動・出力配分方式(SCUC・SCEDロジック)を踏まえた、電力系統の電力コストが最小となる最適な需給管理が導入されている。SCUC・SCEDロジックは、系統の送電線容量制約も踏まえ、Three-Part Offer(電源起動費用、最低出力費用、限界費用曲線)等の入札情報を踏まえて、最適な電源起動や出力配分をスケジューリングする需給決定方式である。日本では「同時市場」として検討が進められており(11)、電源の技術特性を踏まえた日本の電力系統全体での電力量(kWh)と調整力(ΔkW)の最適決定を実現しうる約定ロジックの検討が進められている。同時市場の導入により、電力系統の全体最適が行われ、電力コスト抑制と最適な調整力確保や系統混雑管理等が実現できれば、再エネ主力化にも貢献しうると考えられる。

 そして再エネの経済性の面では、近年の国際的な発電コスト評価によれば、事業用太陽光や陸上風力の発電コストは火力・原子力と同水準まで低下しているが(12)、電力システム全体のコスト抑制にも配慮することが重要であると考えられる。再エネ普及が進む国や地域では卸電力価格が低下しており、太陽光普及が進む日本でも昼間の卸価格がほぼゼロ(円/kWh)となる時間帯が見られ、卸電力価格は低下する傾向にある一方、国によっては電力システムにおける調整力確保のコストが上昇しているとの報告もみられる(13)。最近では、コスト低下が進展する電力系統用蓄電池による調整力確保(アンシラリーサービス)への関心が高まっているとみられる。

 電力市場の計画や運用は、発電・送配電・消費などの電力システム全体として理解することが重要であり、需要量に見合う供給力の確保、適切な送配電設備容量の確保、時々刻々変動する需要に追従するための調整力の確保など、総合的な視点が大事になる。国内の発電コスト評価では、太陽光発電単体では火力や原子力に比べて発電コストが低下する場合でも、電力系統の統合コストを考慮すると(系統接続に必要な調整力等のコスト)、火力や原子力に比べて太陽光の発電コストが高くなるとの報告もみられる(14)。再エネが電力のコスト、ひいては電気料金に与えうる影響は複雑であり、電力系統の構造、電力市場制度、技術の進歩等に依存する可能性もあり、現時点では判断も難しく、今後の推移の注視とさらなる関連研究の深化が期待される。

参考文献

(1)
IPCC: SPECIAL REPORT, Global Warming of 1.5 ºC (2018)
https://www.ipcc.ch/sr15/
(2)
経済産業省: 石川県を震源とする地震に伴う被害について(1月1日(月曜日)17:30時点)(2024年)
https://www.meti.go.jp/press/2023/01/20240101001/20240101001.html
(3)
外務省: 国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)結果概要(2023年)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/pagew_000001_00076.html
(4)
今川智稀、小宮山涼一、藤井康正「CCU 技術を詳細化した技術選択モデルによる日本の2050年カーボンニュートラル実現可能性に関する分析」 エネルギー・資源学会論文誌、44(1)、pp. 1-13 (2023年)
(5)
環境省: 再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報等の整備・公開等に関する委託業務報告書 (2020年)
(6)
Drax Electric Insights Quarterly – Q1 2021 (2021)
https://reports.electricinsights.co.uk/wp-content/uploads/2021/05/Drax-Electric-Insights-Q1-2021-Report.pdf
(7)
環境省: 太陽光発電の環境配慮ガイドライン(2020年)
https://www.env.go.jp/content/900515354.pdf
(8)
内閣官房: 脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案【GX脱炭素電源法】の概要(2023年)
https://www.cas.go.jp/jp/houan/230228/siryou1.pdf
(9)
経済産業省: 系統ワーキンググループ 資料5 (2023年)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/shin_energy/keito_wg/pdf/048_05_00.pdf
(10)
LBNL(Lawrence Berkeley National Laboratory): Berkeley Lab study investigates how plentiful electricity turns wholesale prices negative in the US (2021)
https://emp.lbl.gov/news/berkeley-lab-study-investigates-how
(11)
経済産業省: 「同時市場の在り方等に関する検討会」の進め方等について(2023年)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/doji_shijo_kento/pdf/001_05_00.pdf
(12)
OECD/NEA/IEA: Projected Costs of Generating Electricity, 2020 Edition (2020)
(13)
Electricity System Operator: Markets Roadmap, March 2023, National Grid, UK (2023)
(14)
経済産業省: 発電コスト検証について (2021年)
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2021/048/048_004.pdf

次回:「再生可能エネルギー・原子力等に対する期待と課題(その2)」へ続く