ハイブリッドダムの取組と今後の展開


国土交通省 水管理・国土保全局 河川計画課 河川計画調整室長

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1. 多目的ダムによる水力発電の現状

 我が国の2021年度の発電電力量は1兆328億kWh、このうち水力発電電力量は776億kWhであり、国内の発生電力量の約8%を占めている。
 国土交通省が所管する多目的ダム(一部、治水専用ダムを含む)は、ダム管理者が国土交通省、水資源機構、道府県のダム合わせて573ダムであるが、この中で発電機を設置しているダムは5割強の305ダムである。このうち、民間の電力事業者等が商用で発電を行っているのが224ダム、ダム管理者がダム管理に必要な電力を発電しているのが104ダムである(商用発電、ダム管理用発電の両方を実施しているダムもあり。内訳は表-1参照)。この305ダムによる2021年の発生電力量の実績は、約146億kWhであり、我が国の水力発電電力量全体の約19%となっている。

表-1. 多目的ダムにおける発電機の設置状況と発電量
(国土交通省作成)

2. ハイブリッドダムの取組の概要

 我が国では2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、国を挙げて取組が進められる中、再生可能エネルギーである水力発電への期待は高まっている。令和3年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画においても、水力発電は「安定した出力を長期的に維持することが可能な脱炭素電源として重要」とされ、「既存設備のリプレース等による最適化・高効率化や発電利用されていない既存ダムなどへの発電機の設置などを進め、発電量の増加を図る。加えて、現在研究が進められている長時間流入量予測などのデジタル技術の活用等により、効率的に水運用を行うことで、水力エネルギーの有効活用を進める」とされている。
 このような水力発電を取り巻く社会情勢に加え、気候変動による影響で水害が激甚化・頻発化する中で、治水対策の強化も急務とされる状況を踏まえ、国土交通省では、令和4年7月に気候変動への適応・カーボンニュートラルへの対応のため、治水機能の強化と水力発電の促進を両立させる「ハイブリッドダム」の取組を打ち出した。
 ハイブリッドダムとは、治水機能の強化、水力発電の増強のため、気象予測も活用し、ダムの容量等の共用化など、ダムをさらに活用する取組である。「ダムの容量等の共用化」とは、例えば、利水容量の治水活用(事前放流等)、治水容量の利水活用(運用高度化)などの取組である(図-1)。単体のダムにとどまらず、上下流や流域の複数ダムの連携した取組も含む。また、ダムの施設の活用や、ダムの放流水の活用(無効放流の発電へのさらなる活用など)の取組を含む。
 ハイブリッドダムの具体の取組としては、「(1)ダムの運用の高度化」、「(2)既設ダムの発電施設の新増設」、「(3)ダム改造・多目的ダムの建設」に大別している。これらの取組を進める中で、官民連携によるダム立地地域の地域振興への支援にも取り組むこととしている。3.でそれぞれの取組について説明する。

図-1. ダムの容量等の共用化

3. ハイブリッドダムの具体の取組と今後の展開

(1)ダムの運用の高度化
 ダムの運用の高度化は、気象予測も活用し、治水容量の水力発電への活用を図る運用を実施するものである。多目的ダムでは、目的毎に容量が設けており、治水容量、利水容量がそれぞれ設定されているが、近年、気候変動の影響による水害の激甚化・頻発化も踏まえ、利水容量の貯留水について、大雨が予測される場合には事前にダムから放流を行い、容量を空けて洪水に備える「事前放流」の取組を関係者の協力の下で実施している。今般、カーボンニュートラルの観点から水力発電を強化するため、治水容量について、降雨がしばらく予想されない場合には、この容量の一部に貯水して増電を図る取組が「ダムの運用の高度化」である。
 ダムの運用の高度化の手法としては、通常、洪水調節により治水容量に貯留を行った場合には、次の洪水に備え、放流ゲートから速やかに放流を行い、ダムの水位を低下させているが、降雨が予想されない場合には、最大限、発電用の放流管を利用して緩やかに放流する「洪水後期の水位低下を利用した増電」がある。また、通常、ダムは洪水に備えて治水容量を空にしておくため、平常時最高水位(制限水位)を設定し、それを超えないようにダムの水位を運用しているが、降雨が予想されない場合には、制限水位を超えて貯留し、発電用の放流管を利用して放流する「弾力的管理による増電」もある。この他、ダムによる洪水調節を行う際、洪水調節を開始する流量に達しない場合の流水を治水容量内に一時的に貯留し、発電用の放流管を利用して放流する手法や、冬季に積雪量より予測される融雪量を勘案し、融雪出水前に発電用の放流管を利用して事前に放流することで増電を図る取組などの手法もある。
 この「ダムの運用の高度化」の取組については、令和4年度、国土交通省と水資源機構が管理する6ダムで計8回試行を行い、215万kwh(一般家庭約500世帯の年間消費量に相当)の増電につながった。令和5年度は国土交通省、水資源機構が管理する計72ダムに試行対象を拡大し、令和6年度以降、国土交通省・水資源機構の全ての可能なダムで試行を継続し、運用の高度化の本格実施を目指していく。

(2)既設ダムの発電施設の新増設
 国土交通省所管のダムでは、1.で述べたとおり、5割強のダムに発電施設が設置されており、国土交通省、水資源機構が管理する130のダムでは、9割強の121のダムで設置済みであるが、一部、未設置のダムが存在するほか、設置済みのダムにおいても、下流河川の環境の保全等を目的にダムの貯留水を放流する際、発電に活用されていない場合があり、この放流水による発電の余地もあると考えられる。このため、既設ダムへ発電施設を新設または増設を行い、このような放流水を活用した水力発電の強化を図る取組を進めていく。
 国土交通省では、既設ダムの発電施設の新増設による水力発電については、再生可能エネルギーに関心を有する多くの民間事業者等の応募が可能な事業とする方針で、民間事業者等の参画方法や事業スキーム等を検討するため、令和5年度に、国土交通省が管理する湯西川ダム(栃木県)、尾原ダム(島根県)、野村ダム(愛媛県)を対象にケーススタディを実施している。
 このケーススタディにおいては、現段階で想定している発電条件や業務範囲、事業手法、事業期間、参加資格要件、ダム管理費等の負担、地域振興の方法等を提示し、ダムの概要や流況、発電設備などの現在のダム関係の情報も提供した上で、民間事業者等から意見を伺うサウンディングを令和5年7月~9月に実施、電力事業者、通信事業者、発電機器関連メーカー、建設会社、コンサルタント、商社、不動産、インフラ開発・投資会社、金融機関等、幅広い分野の29者から意見の提出があった。
 国土交通省では、提出いただいた意見も参考に、民間事業者の参画方法や事業スキームの検討を進め、令和6年度以降の可能な限り早い時期に民間事業者等の公募を行い、事業化を図っていくこととしている。

(3)ダム改造・多目的ダムの建設
 これまでも多目的ダムの建設により、水力発電も目的に有するダムの整備を進めてきたところであるが、今後、ダムの嵩上げや放流設備の増設等を行うダム改造や、多目的ダムの建設を治水目的で行う際に、水力発電の実施、増強も合わせて実施する。令和6年度に新規で実施計画調査に着手予定のダム堤体の嵩上げを行う糠平ダム(北海道)再生事業等で増電方策を検討していく。

4. まとめ

 ここまで説明したとおり、国土交通省では、治水対策に加え、カーボンニュートラルの実現に貢献できるよう、水力発電の増強を図るハイブリッドダムの取組について、(1)ダムの運用の高度化については、国土交通省・水資源機構の実施可能なダムでの本格実施に向け、(2)既設ダムの発電施設の新増設については、早期の事業者の公募、事業化に向け、(3)ダム改造・多目的ダムの建設については、治水対策に加え水力発電を目的として実施していくことにより、その取組を加速させていく。その際、特に(2)、(3)については、再生可能エネルギーに関心を有する民間事業者等が参画可能な形で事業を進めていく。
 また、当面は国土交通省や水資源機構が管理するダムで取組を進めていくが、その取組の進展に伴い、道府県が管理するダムにおいても同様の取り組みが進むよう、国土交通省での取組の情報提供や技術的な支援等を行い、我が国のカーボンニュートラルの実現に向けて積極的に取り組んでいく考えである。