原発の再稼働と未来を見据えた継承


@omfyメンバー代表

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第6次エネルギー基本計画の達成に向けて

 2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画1) の達成目標は意欲的に設定されている。総電力需要は省エネ技術を駆使することにより2015年に策定された計画に対して約21%削減されたものの、必要とされる総発電量は約9,340億kWhであり、電源構成は再生可能エネルギー(36~38%)、原子力(20~22%)、LNG(20%)、石炭(19%)、石油(2%)、水素・アンモニア(1%)となっている。 これを実現するためには、2021年の発電量実績2) に対して再生可能エネルギーでは太陽光で1.5~1.7倍化、風力で5.5倍化、原子力発電で2.7~2.9倍化の発電能力増が必要ということになる(表1、表2)。
 前稿3) ではベース電源としての原子力発電の重要性を述べたが、原子力発電の再稼働があまり進んでいない状況下、7年以内に3倍近くまで発電量を引き上げるにはどうすれば良いのかが問われている。本稿では、原子力発電を継続的に利用することを目的に時間軸を50年後まで伸ばして見た時に何が課題になるかということを明らかにする。

表1 発電電源構成と電力量の2021年実績と2030年計画 (単位:億kWh)

表2 再生可能エネルギーの発電電源構成と電力量の2021年実績と2030年計画 (単位:億kWh)

2030年を見据えて追加稼働すべき適性な原子力炉数

 2023年10月末時点で日本国内における稼働可能な原子力発電炉は33基ある。原子力規制委員会の審査を経て、地元了解も得て再稼働されたものは12基だけだ。これらの総発電量は最大で1,181億kWh(2021年実績は708億kWh)であり、2030年目標の半分程度に過ぎない。残り21基のうち設置変更許可を得ているものが5基。残りは審査中あるいはこれから申請を行う段階だ。加えて建設中の原子炉が3基である4) 5)
 即効性のある策は定期検査中の原子炉の再稼働を行うことだが、何基あれば約2,000億kWhの発電量を達成できるのか。そのシミュレーションを行ってみた。
 シミュレーション※は、稼働開始後40年後に原子炉を廃止する場合(case1) と、20年の稼働延長が一度だけ認められる前提で原子炉稼働開始の60年後に原子炉を廃止する場合(case2)について行った。その際、稼働可能な原子炉で1995年以降に稼働した新しいものだけを使用した際の総発電量も調べた。1995年で区切る意味は特別ない。当業界での経験を持たない筆者の素人考えだが、部品を含む原子炉と付帯設備をメンテナンスする上で少しでも新しい原子炉の方が稼働継続には有利であると考え、仮の目安として1995年を置いてシミュレーションしてみた。結果的には興味深い知見が得られたと考えている。
 なお、稼働状況に変化があった場合、都度、予見し難い事由による停止期間の延長も認められが、その点は考慮していない。
 また、本シミュレーションに用いる原子炉すべてのデータベースを構築したので、仮の目安として置いた1995年の区切りに留まることなく、稼働開始年度によらず柔軟に稼働状況を組み合わせて総発電量をシミュレートすることができるようにした。原子炉各々の稼働状況に変化があった場合にも自分自身でモニタリングすることが可能である。

※シミュレーションに用いた前提

定検目途を得ている2基(日本原電・東海2、東北電力・女川2)は稼働中の扱いにした。
40年を超えて稼働中の関西電力の3基(美浜3、高浜1、高浜2)、延長認可済みの日本原電の東海2、および2023年11月に原子力規制委員会が稼働延長を認めた九州電力の2基(川内1、川内2)は、60年稼働としてcase1に盛り込んだ。
1995年以降に稼働開始した原子炉は下記。 カッコ内は稼働開始年
PWR: 北海道電力泊3(2009)、BWR:東北電力女川3(2002)、東通1(2005)
ABWR:東京電力柏崎刈羽6(1996)、柏崎刈羽7(1997)、中部電力浜岡5(2005)、北陸電力志賀2(2006)

 その結果、全てのケースで総発電量としてほぼ2030年目標を達成できることが分かった(表3)。
 2,000億kWhの発電量を達成できる原子炉の適性数は、予見し難い事由による停止期間の延長がどの程度あるかに依存するが、余力を2割(総発電量として2,400億kWh)以上持たせるならば、1995年以降に稼働した新しいものだけを使用する策(C)を除いていくつかの選択肢がある。
 20年の原子炉稼働延長をこれ以上増やさなくとも、1995年以降に稼働した定検中の新しい原子炉7基と建設中の原子炉3基の計10基(case1-D)があれば、2030年の総電力供給はコミットできる。この10基のうちどれかを廃炉せざるを得なくなった場合でも、20年の原子炉稼働延長を組み合わせるなどの処置により対応することができると考えて良いだろう。
 逆に言うと、稼働中および稼働予定の14基を事故なく継続運用することに加えて、追加で10基を再稼働する必要があるということであり、迅速な審査と地元理解を得ることが喫緊の課題である。
 原発の高レベル放射性廃棄物問題が原発政策のボトルネックとなっている現状は否めないが、合わせて国民的な合意を経て進められないものだろうか。受益権と受苦圏との不公平問題もあり、社会の叡智を結集して解決しなければならない。

表3 稼働する原子炉と2030年の総発電量シミュレーション (単位:億kWh)
注:現在稼働していると想定する14基の発電量に、各ケースで想定した稼働する原子炉の発電量を加えたものが、各欄に示されている。

50年先を見据えた原子力発電のあり方

 上記のシミュレーションを50年後の2070年にまで拡張してみる。
 稼働可能な36基(現在稼働中/定検中/建設中) の原子炉を全て60年稼働可能とするcase2-Bが、最大の総電力量を得ることができる。その場合の総電力量の推移を図1に示した。
 図から、稼働可能な36基をフル活用しても総発電量2,400億kWhをまかなえるのは2050年までであり、以降は急速に総発電量が減っていくことが分かる。

図1 稼働可能な原子炉と建設準備中の原子炉を60年稼働した場合の発電量推移
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 2050年以降に現行の原子力発電が発電量を維持するため取り得る手段は2つあるが、準備中の7基(累計発電量1,019億kWh)を稼働させるだけでは2056年に総発電量2,400億kWhを下回ってしまう。残る手段は今年閣議決定されたGX電源法を使用することだ。本法によると廃炉を決定した敷地内での建て替えを検討することが可能になる。
 敷地内での建て替え時には次世代革新炉が導入されることになるが、詳細はまだ決まっていないため想定がやっかいになる。既に廃炉になった24基は建て替え可能なものの、同じ敷地内で新型炉が設置可能かどうかなどの問題が出てくるかもしれない。
 次世代革新炉としては主に5つの方式が注目されている。
 核分裂方式は革新軽水炉、小型モジュール炉、高温ガス炉、高速炉の4方式であり、残りは核融合方式の原発だ。これらは現在の原子炉よりも安全性が高いとされ、燃料の燃焼効率が高いといった特長をもつ。経済産業省の考えは並行して開発・建設を進めることであるが、導入時期やコスト、使用済み核燃料の再処理などの政策と合致するかがポイントとなる。
 核分裂方式では、最も実用化が近いと目される革新軽水炉に加えて高速炉への期待も高まっている。日本政府は2040年代の運転開始を目指す高速炉実証炉の推進を担う中核企業として三菱重工業を選定し、2024 年度から概念設計が開始される予定だ6)
 核融合は夢の発電技術と期待されている。現在、最も投資が盛んに行われている分野だ。しかしながら原理検証に時間がかかる上に、原理検証後の実証試験を進める、すなわちパイロットスケールで量産可否を判断する実験を行うのだが、その際、どのような問題が発生するか未だ見えていない。むげに経験を振りかざすつもりはないが、企業エンジニアとして量産化の現場を知っている筆者としては、特に多くの新規技術を盛り込んで量産を始める場合、予想以上に時間を要すると見ている。また、既存の核分裂型原発でも稼働までの審査や現地理解などに20年はかかることから、たとえ夢の技術と期待されようとも、量産化目途後の安定的な実稼働にこぎつけるまでの時間は同じ程度の20年か、あるいは新規ゆえにもう少し時間がかかるかもしれない。つまり、2070年に量産型の核融合炉が稼働できる見込みは今のところ望めないのではないだろうか。
 核分裂方式は他に手がないのだろうか。
 チーム@omfyは、上記次世代革新炉(革新軽水炉、小型モジュール炉、高温ガス炉、高速炉)と将来的には合体し得るアイデアに注目している。
 浮体式原子力発電だ。
 このアイデアはマサチューセッツ工科大学(MIT)のMichael Golay 教授らが提案したもので7) 、産業競争力懇談会(COCN)において3年間に渡って、この方式が成立するかどうかの可能性が検証された8)
 浮体式原子力発電とは、石油掘削リグで建造実績のある円筒形状(モノコラム型)の浮体構造物に原子力発電設備を設置するというものである。これを沖合30km以遠の洋上に浮かせ海底ケーブルで送電する。
 原子炉を海上に浮かべるメリットは何と言っても津波に強いという点だ。電源喪失時の安全性向上にも期待がある。COCNでは現行のPWRやABWRをベースに既存技術だけを組合せる検証がなされたが、これは新たな技術開発要素がほぼないという点で小規模の実証実験を速やかに始められるメリットがある。実証実験を経て海上に原子炉を浮かべる実績ができれば次世代革新炉を浮体式にする道も拓けるだろう。
 では、浮体式原子炉には問題がないのか?
 次回は浮体式原子力発電の特徴と課題について考察する。

参考文献

1)
経済産業省ホームページ(2021年10月22日)
20211022005-1.pdf (meti.go.jp)
2)
資源エネルギー庁ホームページ(2023年4月21日)
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/pdf/gaiyou2021fykaku.pdf
3)
国際環境経済研究所ホームページ(2023年9月13日)
「希望を灯すエネルギーを求めて」 https://ieei.or.jp/2023/09/digiana_20230913/
4)
日本原子力産業協会ホームページ(2023年10月10日)
原子力発電所の運転・建設状況
https://www.jaif.or.jp/cms_admin/wp-content/uploads/2023/10/jp-npps-operation20231010.pdf
5)
日本情報多言語発信サイトホームページ(2023年8月1日)
日本の原子力発電所マップ 2023年版 https://www.nippon.com/ja/japan-data/h01752/
6)
三菱重工ホームページ(2023年7月12日) https://www.mhi.com/jp/news/23071202.html
7)
J. Buongiorno et al., “The Offshore Floating Nuclear Plant (OFNP) Concept”, Nucl. Tech., vol.194, pp.1-14, 2016
8)
産業競争力懇談会(COCN)2022年度の推進テーマと報告「浮体式原子力発電」
http://www.cocn.jp/report/0292180a6dbfa455815cd75de8c841293b4aa62c.pdf