パリ協定離脱を公約したデサンティス大統領候補
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
米国共和党でトランプに次いで大統領候補ナンバー2に付けているロン・デサンティス・フロリダ州知事がエネルギー政策を公表した。民主党寄りのメディアは一斉に批判している(プレス発表記事、公式講演動画、ロイター記事、CNN記事)
デサンティスはバイデン政権の気候変動重視のエネルギー政策を「恐怖を煽る、急進左派のイデオロギーだ」と批判し、パリ協定からの脱退、EV義務化を含め、あらゆる気候変動対策を見直し「常識的なエネルギー政策」を実施すべきだとしている。
その一方で、米国は石油・天然ガスを増産して、エネルギー・ドミナンス(優勢)を確立することで外交・安全保障上の優位を確保し、またガロン2ドルなどの手頃な値段でのガソリン供給によって国民をインフレから守るべきだ、としている。
米国の国益と気候変動に関する科学的・技術的エビデンスを冷静に検討すれば、おのずとこのような考え方に到達する、と筆者は肯定的に受け止める。
日本の政治家がこのようなことを言うことはまずないが、米国共和党の政治家としては、じつはそれほど珍しいことではない。トランプ元大統領を筆頭に、マイク・ポンペオ元国務長官、マルコ・ルビオ上院議員、テッド・クルーズ上院議員なども、ほぼ同じ事を言ってきた。このデサンティスの公約は、米国共和党の重鎮たちの総意に近いと見た方が良い。
つまり米国共和党から大統領が選出されれば、トランプであれデサンティスであれ、気候変動とエネルギーの政策は大きく様変わりすることが予想される。さて日本はどうするのか。
以下、プレスリリースからの抄訳を付けておこう:
アメリカのエネルギー優勢を復活させる計画を発表
デサンティス氏、2025年にガソリン価格をガロンあたり2ドルへ引き下げることを目指す
テキサス州ミッドランド-2023年9月20日
本日テキサス州ミッドランドで開催されたイベントで、ロン・デサンティスは、米国のエネルギー・ドミナンス復活に向けた詳細な計画を発表し、米国人を苦しめ、敵対勢力を強化するジョー・バイデンの有害な「グリーン・ニューディール」政策を撤回することを約束した。
デサンティスは、何百万もの雇用を創出し、インフレを抑制し、ガソリン価格を引き下げ、地域社会を活性化し、経済と国家安全保障を強化し、生活水準を向上させるために、常識的なエネルギー政策を追求する。
「大統領として、私はガソリン価格とエネルギーコストの削減に集中します。インフレを阻止し、2025年にガソリン2ドルを達成する方法として、アメリカのエネルギー・ドミナンスを解き放ちます。・・・バイデンの “アメリカ・ラスト“のエネルギー政策を覆し、エネルギーにおける敵対国への依存を排除し、急進左派のイデオロギー的アジェンダである気候変動よりもアメリカ人の経済的利益を優先することで、アメリカの衰退を覆すのだ。」
デサンティスの「フリーダム・トゥ・フューエル(自由の為の燃料)」計画には6つの重要な要素がある:
- アメリカのエネルギー・ドミナンスを回復する
- アメリカの自動車を守る
- 気候変動イデオロギーよりもエビデンス(科学的証拠)を重視する
- 環境許認可を改革し、グリーン法廷闘争を終わらせる
- 重要な鉱物資源と連邦政府所有地開発のジャンプスタート
- 世界で最も効率的で、手頃な価格で、信頼できるエネルギー網を構築する
そして「フリーダム・トゥ・フューエル」計画の概要は以下の通りだ。
アメリカのエネルギー優越を取り戻す。大統領就任初日から、石油・ガスの探査・開発、パイプラインなどのインフラ開発を解き放ち、インフレを打破し、労働者の家族を支援する…すべての国家安全保障と外交政策の指針において、気候変動イデオロギーに代えて、エネルギー・ドミナンスに置き換える。世界の安定を強化し、エネルギーの貧困をなくすために、アメリカのエネルギー輸出を促進する。原子力産業を活性化する。アメリカの自動車を救うバイデンのEV義務化を廃止し、アメリカ人が好きな車を運転する権利を支持する。カリフォルニア州や顔の見えない官僚がアメリカの環境基準を決めるのを阻止する。バイデンによるEVへの補助金とガソリンなど液体燃料への課税を廃止する。
気候変動ではイデオロギーよりも証拠を重視する。パリ協定、グローバル・メタン公約、すべての「ネット・ゼロ」公約から脱退する。ESG規制を撤廃し、政府口座や年金によるESGの使用を禁止する・・・水質規則(WOTUS)を廃止し、農家と牧場主を保護する。ガスコンロ、暖炉、家電製品を対象としたバイデン規制を廃止する。
エネルギーおよびインフラ・プロジェクトの環境審査プロセスを合理化する。州との協力により、許認可にかかる時間と重複を削減する。環境保護団体による濫用的な訴訟を防止し、イデオロギー的な活動主義への資金提供を阻止する。
重要な鉱物と連邦政府所有地の開発を急発進させる。連邦の土地における石油、ガス、石炭、ウラン、重要鉱物の採掘と開発を促進する。重要鉱物戦略保護区を設立し、中国への依存度を下げる。・・・世界で最も効率的かつ安価で信頼できるエネルギー網を構築する。
バイデンのクリーンパワープランを初日に廃止する。エネルギー部門の中国依存を高めるすべての政策を廃止し、反対する。最も安いコストで最も信頼できるエネルギーを推進することに政府機関を集中させる。