ソフト・エネルギー・パス
桝本 晃章
国際環境経済研究所主席研究員、(一財)日本原子力文化財団 理事長
久しぶりに読んだエモリ―・ロビンス談話
9月14日日本経済新聞朝刊に興味あるコラムを見た。
名著「ソフト・エネルギー・パス」の著者:エモリー・ロビンスの談話が掲載されていた。
懐かしい思いで読んだが、その主張はかつてと変わっていなかった。ちなみに見出しは、「2060年までにエネルギー効率5倍」とある。
Small is Beautiful
半世紀前・1973年に英国の経済学者・シューマッハが、“Small is Beautiful”という著書をあらわした。世界のエネルギー関係者の間に大きな関心を呼びおこし影響を与えた。
これを機会に、スケール・メリット追及一点張りの既存技術とそれを支える考え方が批判の対象になった。
「ソフト・エネルギー・パス」
そんな流れに応ずるようにして、フレンド・オブ・アースのメンバーだった“エモリー・ロビンス”が、アメリカの伝統ある外交関係誌:Foreign Affairsに、“Soft Energy Path”を寄稿した。その後、ロビンスは、“Soft Energy Path”を一冊の本にした。
ロビンスは大規模システム、特に原子力発電と大規模送電ネットワークシステムを批判の対象にした。太陽光発電を中心に今でいう再生可能エネルギーの普及を訴えた。
日本でも関心が高まり、室田泰弘、土屋治紀、松井賢一たちが同著を翻訳し出版した。題名は原著同様の「ソフト・エネルギー・パス」。残念ながら、この本の刊行は今から半世紀ほど前だから、この翻訳書はすでに絶版になっている。
日本に招聘し講演も
往時、電力中央研究所の依田直理事長もロビンスの主張に強い関心を抱き、ロビンスを日本に招き講演をしてもらったりされた。
ロビンスの主張というか予測は自然エネルギーの開発普及については的確だった。一方、ロビンスが批判した原子力発電と送電大規模ネットワークは現存するばかりか、21世紀の現在、ヨーロッパ各国をはじめとして再評価が進んでいる。
予想を超えた地球温暖化
21世紀の現在、化石燃料消費の影響による地球温暖化が進み、ロビンスが想像していたに違いない規模をはるかに超えて、極めて厳しい現実を私たちに突き付けている。
査証の一つが、このところの地球規模での異常猛暑である。
今では、エネルギー選択の優先順位では、安定供給と経済性に加えて、温暖化ガス:二酸化炭素を排出しないことが高い順位になっている。原子力発電については、マイクロソフトのビルゲイツが言う通りだ。
原子力発電が唯一のカーボン・フリー電源
ビルゲイツは言う。
エネルギー貧困と気候変動問題という二大脅威への対応策は、先進的原子力発電に他ならない。原子力発電は昼も夜も、季節を問わず、地球のどこででも発電できる唯一のカーボン・フリー電源である。
課題は効率向上実現に如何にドライブをかけるのか
最後にコメントしたい。
日経新聞がコラムでいうエネルギー効率向上は優れて重要なことだ。しかし、21世紀のこれからのエネルギー効率向上は、機器単体ではなく、住宅や建造物をはじめとして街並みから運輸など社会全体の在り方にかかわる。
考えるべき課題は、エネルギー効率向上をどのような手段・手法によって実現してゆくかである。
一方、地球規模で見ると、また別な課題が見えてくる。
わが国がエネルギー効率向上を図るのも重要だが、高いコスト負担が求められる。その同額コストをエネルギー利用効率の良くない国々の産業を始め住まいや街並みにかける方が、経済的により大きな効果あるであろうことは目に見えている。足元と同時により広く世界も見てみたいと思う。