電気料金を引き上げる脱石炭の罪深さ


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「EPレポート」より転載:2023年8月11日号)

 欧州発のエネルギー危機は天然ガス、石炭価格の大幅な上昇を引き起こした。21年1月月間平均の欧州天然ガス価格7.27ドル(百万BTU当たり)は、ピークの22年8月には70ドルを超えた。今年6月の価格は10.35ドルだ。

 日本向けLNG価格も影響を受けたが、21年1月の百万BTU当たりの価格9ドルが最も上昇した昨年9月でも23ドルだったので、欧州との比較では影響は小さかった。長期契約比率が高いことが幸いしたのだろう。今年6月の価格は13.17ドル。危機前と同じく欧州価格よりも少し高いレベルだ。

 天然ガス価格は落ち着いているが、下がらないのは燃料用一般炭の輸入価格だ。21年1月のトン当たりの輸入価格は、8700円だった。今年5月の価格は、昨年後半のピーク時5万円台から下がったものの円安もあり3万4400円だ。1キロワット時の燃料費が10円を超えている。ボイラーに投入される前には輸入価格に加え荷揚げ、貯炭、前処理費などが加わるので、燃料費はもっと高くなる。

 エネルギー危機前のレベルとの比較ではまだまだ高く、電気料金も下がりきらないことになる。国際エネルギー機関(IEA)は、30年の日本の輸入炭価格(6000kcal/kg換算)をシナリオ別に59ドルから91ドルと予測している。今後そこまで価格は下がるのだろうか。

 輸入炭価格が依然高い理由の一つは、日本が一般炭輸入量の約7割を依存する豪州からの出荷量が伸びず、採炭コストも上昇していることだ。出荷量には自然災害の影響もあるが、コスト上昇の理由は熟練炭鉱労働者の不足にある。

 機関投資家、金融機関が脱石炭の旗を振った結果、石炭産業には将来性がないと考える若者が増え、高齢化が進んでいると言われている。その結果待ち受けるは石炭価格の上昇だろう。輸入炭価格はIEAの予測よりも高くなる可能性が高い。日本の消費者が影響を受ける。脱炭素には長い時間が掛かるが、その前に石炭の供給がなくなり強制的な脱石炭が実現するかもしれない。むろん電気料金の大幅上昇との引き換えになるが。