長距離HVDC(高圧直流)送電線の設置
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
この2月、米国で3つの系統制御管理区域をまたぐ長距離HVDC(高圧直流)送電線の計画が公表された。ノースダコタ州の中央部からモンタナ州のColstrip市を結ぶ385マイル(616キロ)のもので、日本で言えば東京と大阪を結ぶ距離(約500キロ)よりも長い。送電容量は300万kWという大規模なものだ。どのような電源からの電力も受け入れるということだ。3管理地区間での電力のやり取りを容易にすることが、主たる役割だろう。
米国にはHVDCがカリフォルニア州に延長1000キロ前後のものが3本運用されているのを始めとして、幾つもあり、これから洋上風力発電の開発に伴って、さらにHVDCの設置が計画されている。
送電電圧が同じ場合、直流送電は、交流送電に比べて送電損失が少ない。また、高圧で送電する場合、交流には三相交流が使われ、送電線の数が少なくとも3本必要であるのに対し、直流は帰路を含めて2本で済むことから、HVDC送電の送電線設置コストは低くなる。ただ、交直変換装置のコストの高さが課題となっている。また、水中に送電線を敷設する場合、交流は静電容量増加のために送電損失が大きすぎて使えず、全て直流になる。世界的に洋上風力発電が急増しているが、ここからの陸上への送電は全て高圧直流系統で行われる。
世界的に見ると、HVDC送電の事例は多い。例えば、中国では、西北部にある再エネ電力を、沿岸部の主要都市にまで送るHVDCラインが幾つも走っている。
欧州の事例を日立製作所が調べた資料によると、新しいHVDCの建設が目白押しのようだ。
南米のブラジルでは、アマゾン奥地にある大規模水力発電所から、大西洋岸のサンパウロまでHVDCで送る2400kmの送電線を設置している。送電できる電力量は原発3基分に相当する315万kW。52万5千V、5,000Aの直流を送電する。インドでは、既に10本を超える長距離HVDCが設置されている。
以前2020年7月22日に本欄で、オーストラリアからシンガポールまで海底設置のHVDCで太陽光発電の電力を送る計画を紹介したが、現時点では資金問題でプロジェクト参加者の間で対立があり、実施が棚あげになっている。
これらの事例で見るように、世界的に長距離HVDCの設置が増加しているが、日本ではまだ、北本連系線(60万kW:167km)と阿南紀北連系線(140万kW:100km)があるだけで、電力広域的運営推進機関が、北海道で開発余力が大きい再エネ電力を本州に送るために、太平洋岸と日本海岸に大容量のHVDCを設置する検討を始めた段階にある。また、沿岸部に大規模な洋上風力発電設置プロジェクトが計画されているが、これも全てHVDCで接続されることになる。
これについて、陸揚げされたHVDCを高圧交流(HVAC)に変換して既存の送電系統に接続するのか、HVDCを陸上にも延長して電力需要の多い地域まで直接送るかが検討されなければなるまい。
太平洋岸の場合、地震と津波の事故に遭って止まった福島第1原発(約500万kW)から東京に向けて送電する送電線が空いている筈だから、それに結ぶことも可能だろう。その時には上陸地点で交流に変換するか、既存の送電系統をHVDCに切り替えるかを検討しなければなるまい。日本海側の場合、柏崎刈羽他の原発立地点にHVDCを上陸させ、既存の高圧交流(HVAC)送電線の鉄塔にHVDCを追加設置することが可能かの検討も必要だろう。長期的に見れば、日本列島を縦断する大容量HVDCの設置も考えられる。