電力会社の不祥事、改革好機を自ら壊す大失敗


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 電力業界の不祥事が相次ぐ。カルテル疑惑、顧客情報の不正閲覧などが発覚した。一連の不祥事は、2020年まで続いた電力自由化の負の側面の影響だ。しかし、それを電力会社は受け入れた以上、今になって法律破りは許されない。せっかく電力自由化への疑問が広がり、見直す好機なのに、それを電力会社自らが壊してしまった。残念なことだ。電力会社はもう一度、社業を振り返って、社会との関係を見直し、その問題点をただしてほしい。


夕暮れ時の送電鉄塔(iStock)

カルテル、情報不正閲覧の不祥事が続く

 2022年末に電力会社のカルテル問題が、公正取引委員会の調査で明らかになった。関西、中国、中部、九州の電力大手4社が2016年ごろから関電の呼びかけに応じて、各社の旧管轄区域内で、他社が営業しない相互不可侵の協定(カルテル)を結んだという。

 公取委は3社に合計約1000億円の課徴金納付を命じる処分案(中部275億円、中国707億円、九州27億円)を通知した。このまま決定すれば課徴金額は国内の独禁法案件では過去最高額になる。ただし関電は、この案件を自己申告したため、課徴金を免れる見込みだ。残り3社は反論する予定で、正式決定は先になりそうだ。

 次に顧客情報の不正閲覧の問題が今年1月から2月に発覚した。関電を発端に東北、九州、中部など電力大手6社の送配電子会社が、管理する新電力の顧客情報を同じグループの電力小売会社に漏えいしたという。2020年に発電会社と送電会社を分ける発送電分離が行われた。新規の電力事業参入者が公平に競争できるようにするために、同一の電力グループ内での情報交換を制限している。この問題は現在、電力取引委員会が詳細を調査中だ。

 各電力会社は、自由化前に、厳格に顧客情報管理を行うと表明していた。関電は、記者向け広報で、営業所の同一建物内で送配電会社と発電・販売電会社の間に壁を設け、社員の行き来もできないと、見せていた。それが嘘だったわけだ。

電力自由化が誘発した違反、しかし違法行為は問題

 2016年4月に電力小売全面自由化、2020年4月に発送電分離が実施された。2000年から電力自由化が行われたが、全面自由化は2011年の東日本大震災による東京電力の福島第一原発事故によるものだった。これら2つの事件は、いずれも一連の電力全面自由化が誘発した面がある。

 電力は商品の品質があまり変わらない以上、販売競争での商品差別化の方法は価格が中心になる。その価格の叩き合い競争で、経営が苦しくなることは予想できた。これは電力会社が乱立した戦前の日本でも、小売自由化後の近年の欧米の電力業界でも発生したことだ。また既存の電力会社が、これまで同一社内で使ってきた顧客情報を、突然使えなくなった。小売で自由競争を促すためだ。これにも戸惑いは社内で当然起きるだろう。

 しかも電力会社は今、自由化による競争、最近の円安やエネルギー価格の上昇、九州電力、関西電力、四国電力以外の原子力発電所の長期停止によって、どの会社も経営が苦しくなっている。カルテルや顧客情報閲覧の違法行為をしてまで、収益を確保したい誘惑が、経営上である。

 だからと言って、一度決まった法律を破るのは許されない。電力会社は、一連の電力自由化の法律制定、また細則づくりでも、制度の問題点を反論せず、ルール作りにも積極的に参加しなかった。それなのに今になってルール破りをするのは、明らかにおかしい。

利益を得た人があまりいない電力自由化

 電力自由化の弊害を疑問視する声は強まっていた。

 2020年に完了した電力自由化は、現時点で日本の大半の人にとって利益になっていない。既存の大手電力会社が収益を確保できない。小売に参入した新電力も、電力卸価格の乱高下で経営が厳しくなっている。その結果、新規投資もサービスも生まれない。電力システムが脆弱化して停電の危険が増え、電気料金が上昇して、消費者も困っている。

 この一連のエネルギーシステム改革と電力全面自由化は、福島原発事故の影響だった。原子力事故の怒りが、なぜか東京電力と電力業界に向いた。電力会社の地域独占がけしからん、原発事故を起こした原因だという批判が、その是非も確かめずに、世論、メディア、当時政権与党だった民主党から吹き上がった。自らも批判を集めた経産省も、その全面自由化の要求を受け入れてしまった。
 
 電力会社は、一般の消費者が「お客様」だ。その社会の雰囲気に、反論も自己主張もできない面はあった。もちろん自由化には競争をうながし、消費者の選択肢を増やすプラスの側面もある。しかし、この電力自由化は明らかにマイナスの面が多くなっている。

自由化の失敗論が広がっていた

 経産省・資源エネルギー庁は公には、一連のエネルギーシステム改革と電力自由化を「失敗した」とは言っていない。政府は失敗を認めない。しかし本音と建前がずれるのが日本の常だ。経産大臣や副大臣の経験者、退官した経産省の官僚が、一連の改革を「失敗だ」と言っていたことを何度も耳にした。停電の危機や価格上昇に苦しむ世論も、電力会社や原子力叩きから変化し、おかしさを認識するようになった。

 昨年末から世論調査で、原子力再稼働を認める意見が、各種調査で過半数を超えた。政治家も原発攻撃をしなくなった。岸田政権が行なった、 GX(グリーントランスフォーメーション:経済の脱炭素化)政策にともなって原子力の活用に政策が転換した。それにも抵抗は比較的少なかった。

 ある電力会社の幹部は昨年、カルテル問題の発覚前に、「この10年、政治と、世論というはっきりしないものに振り回された。静かになってホッとしている」と話していた。この雰囲気の変化は、エネルギーシステム改革と電力自由化の問題点を見直すきっかけになったかもしれない。

 そうしたら、この2つの事件が発覚した。

見直しの好機を、電力会社がなくす

 西村康稔経産相は不正閲覧事件について、「中立性、公正性を揺るがす大変遺憾な事態だ」と批判し、送配電会社の中立性の確保に向けて必要な措置を検討する考えを示している。自由化の際には、送配電の中立性をより高めるために所有権分離(資本分離)を求めるという選択肢もあった。そこまで踏み込むかはわからないが、法令順守体制の仕切り直しが始まりそうだ。カルテル問題で、電力営業活動への行政への監視が強まるだろう。

 電力自由化の問題点の見直しの先に、電力会社の不祥事の対応が問題になってしまった。既存の電力会社が、自らの信頼を損ねる行為を続ければ、電力事業の運営がさらに困難になる。原子力発電の活用もさらに困難になる。電力会社の経営基盤は脆弱化するばかりだと厳しく認識してほしい。

 そして、厳しい中でも電力会社のことを応援してきた人たちを落胆させてしまうことになる。その一人である私は、実際に落胆している。私一人の力など小さいものだが、こうした個々の意見の集積が、電力会社がこの10年振り回された、「民意」や「世論」なのだ。

 既存の大手電力会社の人々は、もう一度、社業と社会の関係を見直してほしい。そして、電力自由化を受け入れて、その中での公正な競争を行うか。電力自由化のおかしさを指摘し、仕切り直しを求めるか。自らの意見をまとめ、自制と自省をして方向を決めてほしい。今のような法令違反の連続が許されないことも、無策のまま現状の経営悪化を放置することも、続けられないことは確かだ。