太陽光パネルは都市に危険

-防災上の観点から見直しを-


経済記者。情報サイト「&ENERGY」(アンドエナジー)を運営。

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市街地での太陽光パネルは、防災上のリスクを生み出さないか(iStock)

太陽光パネル義務化政策、防災への配慮はあるのか

 12月15日、東京都の進める新築住宅の太陽光パネルの義務化政策が、都議会で可決された。2025年4月から、大手の住宅販売業者に義務になる。私は、この政策に防災面での心配がある。

 「屋根が電気を作ることを当たり前にしたい」。小池百合子都知事は、21年9月にこの政策を発表したときに語った。屋根に太陽光パネルを置く行為が危険なのだ。

 東京東部の荒川水系、南部の多摩川水系の川沿いを、私は歩いたことがある。巨大な堤防が川沿いにある。巨大堤防の上に立ち、外の海と川の水面、そして堤防の下の居住地を見比べると、高さはほぼ同じだ。東京は低湿地を400年埋め立ててできた街であり、かなりの部分が「ゼロメートル地帯」だと分かる。

 昭和20年代まで大雨による水害が多発したが、その後の治水の整備で無くなった。東京では、昭和22年(1947年)のカスリン台風で、葛飾区、江戸川区、足立区東部が浸水被害にあった。埼玉や千葉でも被害が広がった。多くの人は東京での水害リスクを忘れているが、行政は治水の努力を重ね、東京都は水害の危険を常に呼びかけている。

 また水河川の氾濫だけではない「都市型水害」の危険がある。集中豪雨で下水や小河川が溢れ、都市の中心部で水が溢れる形の水害だ。

 水害だけではない。東京など日本の都市には地震リスクが常にある。東京を中心に10万人が亡くなった関東大震災(1923年)、2011年の東日本大震災など多くの大地震を日本は経験してきた。

水害と地震で、太陽光発電が新しい危険に

 次の大水害、大地震の際に、これまでの大災害ではなかった太陽光パネルが新しい危険になるかもしれない。これまでの電力会社が統制する電力供給体制では、災害で被災した地域の電気を一時的に遮断し、感電や漏電の危険を遮断できた。一方で、太陽光発電システムでは、光があたれば発電をし続ける。特に水は通電性が高く、また破損時にそのような経路で電気が漏れるかわからないので、近寄ってはいけない。経産省などのパンフレットによれば、1システム(パネル10枚程度)で電圧300ボルト前後の電流を発生させる。これは数秒人間の体に通電すれば、心筋梗塞などで死ぬ可能性のある電流だ。

 また太陽光パネルの表面はガラス製で、重さは1枚15キロ程度だ。強風や地震で屋根から外れて飛んだり、落下したりする危険がある。日本各地でパネルの手抜き工事で、その破損による事故が伝えられている。これは筆者が山梨県北杜市で撮影した映像だが、パネルは脆弱な金属パイプで作られている。


風で飛びかねない脆弱な足場に置かれた太陽光パネル(山梨県北杜市、筆者撮影)

 私は東京の大河川の近くの住宅地に住む。周りの屋根の上に太陽光が並び、周囲に浸水が起きたり、地震で家が倒壊して太陽光パネルが散乱したり落ちたりする光景を想像してみた。狭い道は散乱したパネルで移動が大変になる。パネルの破損や水没で、感電の危険もあるかもしれない。飛んできた15キロのパネルにあたれば、命に影響する大怪我をするかもしれない。

 しかも、こうした太陽光パネルを原因にした災害による損害賠償制度は未整備だ。被害を受けたら、民法上の不法行為で被害者は争わなければいけなくなる。個人で裁判をするのはあまりにも大変で、多くの場合に泣き寝入りとなるだろう。

 太陽光発電を人里離れた場所でやるならともかく、なぜ東京のような人口密集地で行うのかわからない。

都が都市部でのパネルを増やす謎

 東京都は2022年8月に「太陽光パネル解体新書」という政策説明パンフレットを作った。これを読むと、水没による感電については「過去に事故の事例は聞いていない」「専門家に対応を依頼してください」、破損リスクは「少ない」(同)と書いてある。(パンフ内Q&A18)

 大水害の時に専門家を呼ぶ暇があるのだろうか。全国で太陽光発電の乱開発、パネルの破損問題が起きているのに、手抜き工事によるリスクは少ないのだろうか。答えがいい加減すぎる。想定される人命リスクを無視すべきではない。

 この政策は小池都知事の主導だ。東京都の事務方の方でも突如上から政策が降りてきたために、それをしっかり練っていないらしい。

 そしてこれは東京都だけの問題ではない。京都市が大規模建物の太陽光パネル義務化を行い、群馬県も検討している。また神奈川県川崎市は新築住宅での義務化を検討している。防災の点で、リスクの大きな政策を遂行する不思議な動きが日本各地にある。

2年の猶予の間に大幅な見直しを

 太陽光発電を否定する意図は私にはない。しかし、どんな物事にも場所や方法の適切なやり方への配慮がある。なんで都市に合わない太陽光発電の普及を、東京都や各自治体が進めるのか理解できない。

 さらに、この政策は小泉進次郎環境大臣が2021年初頭に打ち上げたが、批判を受けて断念した筋悪の政策だ。小池都知事は、この政策を21年秋に突如持ち出した。「国のやらないこと」に注目して、小池都知事が飛びついたなら、そしてあまりにもおかしく拙速だ。地球温暖化防止は大切だが、私たちが身の危険を増やしてまで、太陽光を増やすことで対応するべきこととは思えない。

 また今回は触れないが、太陽光パネルの義務化政策は、経済性の面、温暖化防止の効果の面でも懸念が出ている。さらにウイグル人の強制労働で日本の太陽光パネルの大半が作られている。そうした懸念に東京都は答えていない。

 この条例の施行は2025年4月からで、周知期間と細則づくりの猶予がある。道が狭いとかゼロメートル地帯などの危険地域での設置を除外する、また努力目標であることを明示し強制力のある政策にしないなど、防災の観点での危険性を低下させることに取り組むべきだろう。そして東京都の真似をして市街地でのパネル普及を考える行政担当者、事業者がいたら、立ち止まって、その防災上のリスクを考えてほしい。