大気中の炭酸ガス吸着


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 地球温暖化ガスである炭酸ガスの吸着回収については、火力発電のように化石燃料を使うことにより大量に発生するケースで論じられることが多く、大気中の炭酸ガスの人工的な回収については、あまり報じられることはなかった。しかし、世界には15基程の回収実証設備があるようで、最大の課題は設備コストと大きなエネルギー消費が必要になることだという。むしろ植樹などに資金を投入する方が有利だというのが一般的な考え方だが、IEA(国際エネルギー機関)は空気からの炭酸ガス回収を温暖化対応として重要な方式だとしている。

 これに一石を投じるような、また、奇抜とも言えるようなプロジェクトが発表されている。旅客・貨物列車に接続された特殊仕様の車両が、走行中に空気を取り込んで炭酸ガスを回収するというものだ。米国にあるスタートアップ、CO2Rail Company、が考案したものだが、これによって、ディーゼルエンジン駆動の列車から排出される炭酸ガスをほぼ吸収できるとしている。この会社は2000年に設立されたが、2023年の始め頃には実機の製造を開始するとのことだ。

 鉄道を走る列車がブレーキをかけるときに発生するエネルギーは十分に利用されているとは言えないことから、このエネルギーを蓄電し、列車が走行中に空気から炭酸ガスを回収するシステムの駆動に使おうという構想だ。この方式を貨物列車の運用をする企業に提案したところ、興味を示しているらしい。事業のグリーン化の具体策と受け止めているのだろう。

 どのようにこの方式が機能するかだが、写真で分かるように、この炭酸ガス回収車両の両端には、空気の取り入れと排出をする風洞が設置されている。列車が走行中に発生する風圧を利用して進行方向の風洞から空気を取り込み、空気タンクが満杯になると風洞を閉じ、空気を炭酸ガス吸着装置に投入する。この装置を通り抜けて炭酸ガスフリーになった空気は、後部や床下の排出口から流出する。吸着された炭酸ガスが一定量になると、吸着装置は取り入れ口を閉じて、炭酸ガスを固定するプロセスに送り込み、濃縮固定して保存する。

 一回のサイクルでどれ程の炭酸ガスを吸収固定できるかは、列車の走行速度によって定まる。つまり、速度が早い列車が吸収する炭酸ガスの量は多くなるから、早く保存タンクは一杯になる。速く走る列車の場合、45分で、遅い列車の場合では1~1.5時間。固定したガスの脱着には5~10分。この工程全てで、固定式の炭酸ガス回収システムなら必要となるファンを回す大量のエネルギーが不要となる。空気を貯めるスペースは、この炭酸ガス回収列車の85%であり、列車後部1.5メーターが炭酸ガス貯蔵部分となる。そして、乗組員の交代の時や燃料補給で停まる時に、炭酸ガス運搬車に移される。

 このように想定されている性能が実機で実証されれば、世界の鉄道路線がカーボンニュートラルに向けた強力なシステムになることは確かだろう。IEAも有望視しているに違いない。どのような路線にも使えるような標準規格を設定し、量産によってコストを下げることができれば、外部からエネルギーを投入する必要のない炭酸ガス回収システムとして普及するのではないか。


出典:railtech.com