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「地域エネルギー需給データベース」で地域の脱炭素化の方策を考えてみませんか

-全国1,741の市区町村についての試行が可能です-


国際環境経済研究所 主席研究員、SIP「IoE社会のエネルギーシステム」イノベーション戦略コーディネータ / 東北大学大学院工学研究科 博士後期課程


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1.「地域エネルギー需給データベース」の公開

 「全国1,741の自治体毎の地域エネルギー需給データの公開について」と題する解説記事を去る2月10日に本サイトで書きましたが、同記事でご紹介した「地域エネルギー需給データベース」が、以下のURL:https://energy-sustainability.jp/ で公開されました。これまで、地域毎のエネルギー需給実態に関する数量的なデータは、先の記事に記したように整備されていなかったことから、このデータベースは、各自治体が地域の脱炭素化に向けて地域分散型エネルギーシステムの構築を進めていく際に、とても便利な情報を提供するものと期待されます。

 このデータベースは、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「IoE社会のエネルギーシステム」(2018~22年度)の中の研究テーマの一つ、「地域エネルギーシステムデザインのガイドライン策定研究」注1) (研究代表者:東北大学大学院工学研究科 中田俊彦教授)の研究の一環として、その成果の一部が早期公開されたものです。なお、同研究では、同データベースに加えて、「地域エネルギーシステムデザインのガイドライン」を作成中で、これは今年度末に公開する予定です。このガイドラインは、デジタル化の進展によって近年利用可能になりつつある分秒単位のデジタル情報(気象、携帯電話位置情報、スマートメータのデータ等)を「地域エネルギー需給データベース」とともに活用することによって、行政区域の境界を超え(クロスボーダー)、エネルギー種別を超えた(クロスセクター)、より合理的な地域エネルギーシステムの設計、構築を支援することをねらったものです。
 さて、本稿では、各自治体において地域分散型エネルギーシステムのデザインの基礎資料として「地域エネルギー需給データベース」を活用していただくために、データベースの見方、データを見る際の要注意点、そしてこのデータベースの使い方について、説明をしていくことにしたいと思います。なお、ここではVer.1.2に沿ってご説明していきます。

2.「地域エネルギー需給データベース」の使い方

 上記URL(https://energy-sustainability.jp/)を開けていただくと「地域エネルギー需給データベース」の表紙が出てきます。その左上のTABをクリックすると開く「Manual」に、以下に示す同データベースの構成要素毎の解説と操作方法が説明されています。
 今回公開する「データベース」は、全国1,741の市区町村毎の

「エネルギーフロー図」
「市区町村別エネルギー消費統計表」(「エネルギーフロー図」中の“Excel Data”)
「エネルギー需給マップ」
「エネルギー需要の地域特性」
「再生可能エネルギー発電ポテンシャル」の動画データ注2)

から成ります。さらに、それに加えて“Future Energy Simulator”というツールが追加的に用意され、地域のエネルギー需給構造の改変の効果、影響等の概要を参考情報として見ることもできます(“Future Energy Simulator”は、「エネルギーフロー図」の右上にあるリンクで起動できます)。
 また、これらのデータベース利用に当たって認識しておく必要のある注記がManualのP11の「基礎データ」及びP7とP12の「利用上の注意」に示されています。特に上記①、②の正確な理解と解釈にあたっては、これらの注記を参考にする必要があります。これらの注意が必要な理由は、冒頭の解説記事に書いたように、市区町村毎のエネルギー需給の状況に関する公的な調査、統計データ等が存在していないために、データベースの数値やフロー図は、いくつかの仮定と推計に基づいて算出され、描かれているからです。

2.1 エネルギーフロー図
 さて、「エネルギーフロー図」は、各市区町村のエネルギーの源から最終消費に至るまでのエネルギーのフローがエネルギーの種類毎に表されています。 なお、フロー図を作成する際の一つのデータソースである都道府県別エネルギー消費統計には、家庭部門の太陽光導入量と産業、業務他部門の自家消費が含まれる一方、メガソーラーや風力発電のデータが含まれていないことから、本フロー図ではManual P12の「利用上の注意」に記したような調整を行っています。
 また、「エネルギーフロー図」では、現状の地域内のエネルギー需給の姿に加えて、「地域内再生可能エネルギー導入ポテンシャル」が環境省のREPOS-R1(令和元年版)注3) をもとに図示され、それに加えて、既に当該地域で利用されている再エネ量が、P11の情報ソースから再エネの種類毎、分野毎の内訳とともにフローとして示されています。導入ポテンシャルと既設導入量の差が、当該地域における未利用再エネ発電ポテンシャル量ということになります。
 当該市区町村で消費されている系統電力は、同地域を事業エリアとする一般送配電事業者(旧一般電力事業者)の電源構成をもとに、発電に用いられたエネルギーの種類と量が推計されています。
 フロー図の一番右側には、当該市区町村のエネルギー種別、需要分野別エネルギー消費量が示されますが、その中には当該地域内でエネルギー転換され、他地域で最終的に消費されるものや、化石エネルギー(資源)が(化学産業等の)原材料として消費され、他地域に(プラスチック等の)製品として出荷されるものも含まれています。
 この「エネルギーフロー図」は、市区町村のエネルギー需給の状況に関する俯瞰的かつ直感的な姿を見るうえで、きわめて便利なツールだと思います。さらに、後述する“Future Energy Simulator”を用いて、再エネ導入や電化の進展といったエネルギー政策の実施によって変化する将来の地域エネルギーシステムのイメージを得ることもできます。
 このフロー図は、いくつかの仮定と推計に基づいて作成されていることから、その利用、解釈にあたっては、後述する当該地域の生活実感と比較、対照することによって、数値の表す姿が実態と乖離していないかチェックする意識をもつことが重要です。なお、このフロー図(及び次の「市区町村別エネルギー消費統計表」のデータは2013年度のものです。これは2013年度が日本のGHG排出削減目標の基準年度とされているからです。

2.2 市区町村別エネルギー消費統計表
 「エネルギーフロー図」の右上の「Excel Data」をクリックしていただくと、当該地域の「市区町村別エネルギー消費統計表」が出てきます。このExcel表では、エネルギーの種類別(列)に需要部門別の消費量の推計値 が示されています。これは、エネルギーバランス表の消費部門を切り取った形式の表であり、その見方はそれと同様なので、併せてManualのP5をご覧いただければ、その読み方は分かるでしょう(なお、消費量の単位は、TJ(テラジュール:1012J)、低位発熱量ベース(LHV)で表されています)。
 「市区町村別エネルギー消費統計表」は、主として資源エネルギー庁から公表されている「都道府県別エネルギー消費統計」から、Manual P6に記されているような手法で推計、作成されています。推計の手法としては、P6の表の(参考)にあるように、いくつかの方法があります。本データベースでは、データの出所の「統計」等の性格や作成方法等に立ち返って、エネルギー需給の実態を把握するのにもっとも適していると考えられる(P6に記した)手法を用いています。

2.3 エネルギー需給マップ
 このほかにManualのP14には、各市区町村の再生可能エネルギー発電ポテンシャル量とエネルギー需要量の規模を比較できる「エネルギー需給マップ」が示されています。これらのマップは、後述するように、行政境界を越えた視点からエネルギー需給の合理化を検討する際の参考となるでしょう。

2.4 エネルギー需要の地域特性
 Manual P16にある三角図は、各市区町村の地域のエネルギー需要構造(産業/業務・家庭/運輸別のエネルギー需要構成)とエネルギー需要量の大きさが、図中に橙色の●で表示されるので、対象地域のエネルギー需要構造の特徴と需要規模の相対的な大きさを直感的に理解することに役立ちます。
 これは、各市区町村が自身の地域のエネルギー需要パターンの特徴を理解することや、類似のエネルギー環境に置かれている他の地域の施策を参考にすること、あるいは地域間連携によって、補完的なエネルギー需給関係を形成できる可能性のある他の地域などを探索する際に参考となるでしょう。

2.5 再生可能エネルギー発電ポテンシャル
 「再生可能エネルギー発電ポテンシャル」(P18)は、現時点では2019年の予報データをもとに作成された動画データだけを公開していますが、注2に記したとおり、動画の裏には30分毎、1kmメッシュ毎の推計データがあり、現在、それらを市区町村別に集計中です。この市区町村別データは、今年度末までに整備、公表する予定です。これによってREPOSで公表されている年1点の情報だけでなく、再エネ発電ポテンシャル量の季節変化を知ることが出来ます。

2.6 Future Energy Simulator
 ManualのP20以降には「Future Energy Simulator」の使い方とシミュレータで使われている用語の解説が付されています。このFuture Energy Simulatorは、「エネルギーフロー図」で表されるエネルギー需給の現状をもとに、個別の脱炭素化に向けたエネルギー対策が、当該地域のエネルギー需給構造(エネルギーフロー)、エネルギー自給率、エネルギー起源CO2排出量等にどのような変化をもたらすのかについて、それらの量的なインパクトと併せて変化に関するイメージを提供してくれます。エネルギー対策の効果に関するより正確な評価は、別途、精緻に行う必要がありますが、対策の方向性や対策規模の妥当性などを見るには有用なツールとなるでしょう。

3.「地域エネルギー需給データベース」を実際に使ってみる

 さて、ここからは具体的にデータベースを使ってご説明していきましょう。ここでは、長野県上田市を例にとります。対象地域の気候や地理的条件、生活実感を踏まえつつ、データベース上の数字の意味を考えることが大事なので、若干の土地勘のある上田市を選びました。データベースから得られる情報が地域の実情に合わないと感じた場合には、データベースの数値の妥当性を他の調査情報などでチェックしてみてください。というのは、上述の事情でデータベース上のデータ値の多くが推計値だからです。
 前置きが長くなりました。さて、いよいよ実際にデータベースの中に入っていきましょう。

3.1 長野県上田市のエネルギー需給の姿
 「Manual」のP3に記されている操作手順に従って、「地域エネルギー需給データベース」の冒頭ページで長野県/上田市を選択します。エネルギーフロー図がまず現れますが、このフロー図は、右上の「Excel Data」をクリックすると現れるエクセル表をもとに描かれたものです。
 このExcel表のエネルギー消費構造のデータに、再生可能エネルギー導入ポテンシャル(REPOS-R1)のデータを加え、エネルギーフローの形で表したのが「エネルギーフロー図」です。
 これを見ると上田市は、産業部門のエネルギー消費量に占める機械製造業の割合がやや大きいという特徴はあるものの、そのエネルギー需要構造は、運輸部門:30%、業務・家庭部門:49%、産業部門:21%と、日本の典型的な中小産業都市のエネルギー需要の姿をしています。これは、「エネルギー需要の地域特性」の三角図中における上田市の位置を見ても分かります。
 上田市のエネルギー供給構造では、消費されているエネルギーのほとんどが電力と運輸部門向けの石油製品(石油製品消費量全体の60%)となっています。上田市の電力は、主として天然ガスと石炭等で発電されたものです注4) 。これは上田市の使っている電力のほとんどが、旧一般電力事業者によって供給されているので、上田市を供給地域としている中部電力の電源構成と発電損失データから推定されています。石油製品のほとんどは域外から供給され、石油製品の大半は輸送燃料として消費されています。このほかに、家庭部門での石油製品の消費が相当量あります(上田市の石油製品消費量全体の20%)。また、若干量の都市ガス、LPガスが域外から供給されています。
 上田市内に賦存する再エネ発電のポテンシャル量は、REPOSによると、周囲を山に囲まれている地域でありながら木質バイオマスを含めて小さく、その中では比較的大きい太陽光発電ポテンシャルも、その量はあまり大きくはありません。

3.2 上田市のエネルギー需給構造の脱炭素化に関する試論
 こうした上田市のエネルギー需給に係る理解をもとに、上田市のエネルギー需給構造の脱炭素化の方策について考えてみましょう。以下は、あくまでもその一試論です。 
 「エネルギー需給マップ」を拡大して上田市をハイライトし、上田市の「再生可能エネルギーの移輸出可能ポテンシャル」情報を見ると、上田市の移出ポテンシャルはマイナスです。このため、上田市だけで再エネ発電を増やしても、それによる地域の脱炭素化は困難そうです。しかし周囲の地域を見ると、隣接する群馬県嬬恋村は再エネの移出ポテンシャルのプラスが大きく、同村と連携することにより地域全体で脱炭素化と再エネ発電ポテンシャルの有効利用が図れる可能性があることが分かります。しかし、嬬恋村から再エネ電力を移入するためには、標高2,000mを超える浅間連山を越えて送電線を整備しなくてはなりません。他方、再エネ発電ポテンシャルはそれほど大きくないものの、隣接する長野県長和町、青木村には、移出余力があり、これらの町、村との間には大きな地理的障害は存在しないので、再エネ発電に関する連携が図れそうです。もちろん電力供給面の連携は、みなし送電などにより長距離離れた地域との間で行うことも可能なので、大きな再エネ移出ポテンシャルを有する県外等の地域との連携を考えることもできます。
 このように、上田市に賦存する再エネ発電ポテンシャルには限りがあること、上田市の消費エネルギーの多くが電力と運輸部門向けの石油製品、そして家庭部門で消費される石油製品であることを踏まえると、電力と石油製品は市外から供給されるエネルギーなので、地域の脱炭素化に向けて上田市が独自にできることは限られているように見えます。しかし、上田市として地域の脱炭素化に向けてできることもありそうです。それは、外部から供給される電力の脱炭素化と自動車の電動化の進展に備えて、域内で電動自動車の普及を図るための環境整備-電気/水素ステーションの整備-、及び家庭の暖房や調理用のエネルギーの電化を推進することです。そのために、系統電力の脱炭素化と自動車の電動化に携わる関係事業者との連携を図ることも重要でしょう。

3.3 淡路島の例
 次に、上田市とは少し対照的な淡路島の例を見てみましょう。
 淡路島は、北から淡路市、洲本市、南あわじ市の3つの市から成ります。いずれも運輸部門のエネルギーは石油製品に依存していますが、電力については、淡路市は既に電源のほとんどが太陽光によって賄われており、洲本市と南あわじ市の電源は、天然ガス、石炭と太陽光の組み合わせとなっています。
 一方、再エネ発電ポテンシャルを見ると、南あわじ市と洲本市には大量の移出可能な風力(特に洋上風力)発電ポテンシャルがあり、それは淡路島全島で必要とされるエネルギー量を賄える規模で存在しています。つまり、仮に淡路島の自動車が電動化され、淡路島に賦存する風力発電ポテンシャルが島内全体で利用可能となったら、淡路島全体のエネルギーの脱炭素化が量的には可能であることが示唆されます。
 実際には、淡路島全体で風力発電ポテンシャルを活用するための送電線整備や、風力発電量の変動を補完する調整力の整備、そのために必要となる投資額、そしてそれらの電気料金への影響の大きさを考慮しなくてはなりませんが、上述のように、淡路島を単位とした地域分散型エネルギーシステムの構築を構想することには意義がありそうです。

4.利用しながら改良を進める

 このように「地域エネルギー需給データベース」は、地域において脱炭素化を進める際に重要となるエネルギー対策の絞り込みとその優先順位、個別のエネルギー対策の効果の大きさ、政策の費用対効果等を考える際に重要な示唆を提供します。
 ただ、「地域エネルギー需給データベース」は、国内の1,741の市区町村別のエネルギー種別、需要分野別の消費実態と併せて、各市区町村の再エネ発電ポテンシャル情報を提供するという日本で初めての試みであるだけに、上述したようにいくつかの仮定や推計により作成されたものです。その仮定や推計手法は、地域の実態と照らし合わせながら必要な改善を行い、このデータベースを進化させていく必要があります。その意味で、「地域エネルギー需給データベース」に対する皆さんからのフィードバックやご意見は貴重です。
 「1」に記した「地域エネルギーシステムデザインのガイドライン」の作成、公表と併せて、今年度末にはデータベースの改訂版を作成、公表する予定ですので、皆さんには是非、このデータベースを使ってみていただいて、そのフィードバックやご意見をいただけることを期待しています
(データベースの最後のページに「お問い合わせ・ご意見等」のフォームを用意しています)。

注1)
より正確には「IoE社会のエネルギーシステム」(PD:柏木孝夫 東工大名誉教授)のテーマA「IoE社会のエネルギーシステムのデザイン」(サブPD:浅野浩志 岐阜大学特任教授)の中の研究テーマ。
注2)
後述するように、現時点では2019年の予報データをもとに作成された動画データだけを公開していますが、動画の裏には30分毎、1kmメッシュ毎の推計データがあり、現在、それらを市区町村別に集計中です。この市区町村別のデータは、今年度末までに整備、公表する予定です。
注3)
REPOS-R1では、市区町村毎の年間データ(年1点)だけが利用可能ですが、環境省は、本研究で開発した、上記注2の方式(予報データをもとにした30分毎、1kmメッシュ毎の地域の再エネ発電ポテンシャルに関する推計方式)を採用し、今後、それによって推計した情報を「次世代REPOS」として公表する方針と聞いています。
注4)
より具体的には、天然ガス4,003TJ、石炭1,762TJ、水力200TJ、石油製品燃料95TJ。