ブラジルと再生可能エネルギー


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 ブラジル連邦共和国は、日本から見ると南半球にある地理的には遠い国であるが、1900年代には日本からブラジルへの移民の歴史もあり、日常身近にあるコーヒーの産地であることから、親しみを感じる日本人は多いだろう。しかし、日本の国土面積の22.5倍の国土に、日本のほぼ倍に相当する2億の人口を持つというような数字まで把握している人は少ないに違いない。 
 さらに、最近出されたREN21(21世紀に向けた再生可能エネルギー政策ネットワーク:Renewable Energy Policy Network For the 21st Century)からのレポートにあるように、同国の最終消費エネルギー(電力、熱など)に占める再エネの比率が、世界最高の45%ほどであり、それに続くカナダが22%程、EU23ヶ国で19%、ドイツが18%程だから、断トツの位置にあることには驚かされる。ちなみに、日本の数字は8%程であり中国の10%よりも小さい。ブラジルの再生可能エネルギーは、発電エネルギー構成の85%と極めて大きい比率を占めている。

 この背景には、イグアスの滝やアマゾン川で知られるような豊富な河川水を利用した水力発電の設備規模が2020年末時点で108GW、全発電設備の62%を占め、中国に次ぐ規模の水力発電を運用している。さらに、風力発電が急拡大しており、米国、中国に次ぐ17GWとなっている。それに続くのがバイオマス燃料によるもので、石油・石炭火力や原発も稼働しているものの、全体に占める比率は低い。日照条件が良いにも関わらず、太陽光発電の設置はこれからといった段階にある。
 バイオマスについては、サトウキビ由来のバイオエタノールを燃料として活用するフレックス自動車が広く普及しており、これは電気自動車よりも二酸化炭素(CO2)削減効果が高いとされている。カーボン・ニュートラルの燃料として、米国などにも輸出されている。

 水力発電設備の位置は電力消費地である都会から離れていることの方が多い。水力発電所から遠距離の都市まで高圧送電線で送ることになるが、交流で長距離を送ると送電損失が極めて大きくなる。超高圧直流送電が採用されているのではと思い調べて見たら、ブラジル北部のPara州にある最大規模のBelo-Monte発電所(11.2GW)からリオデジャネイロまで、延長距離2,543kmの800kV超高圧直流(UHVDC)で送電されている。これは世界最長のものだ。ブラジルの南東の海岸部までアマゾン川から走るUHVDC送電線は、その途上にある80の都市を経由している。
 このUHVDCラインは2017年の9月に着工され、2019年4月に完成している。ここで興味を惹いたのが、このUHVDCラインと、2017年末に着工したラインの設置工事を担当したのが中国の企業だったということだ。
 中国も水力発電所が国の西北部に多いことから、大都市の多い沿岸部までを10本前後のUHVDCで結んでいるが、この建設を当初担当したのはスイスのABBで、同社のUHVDC関連の技術が投入された。この設置は2009年頃から進められたが、中国企業はその設置工事の管理ノウハウを習得したのだろう。それがブラジルへの進出を可能にしたのだと推察される。

 ブラジルには豊富な森林資源があり、大量の炭酸ガスを吸収するために、国としての炭酸ガスの排出量は減少の方向に向かうと思われていた。ところが最近の調査で、干魃の頻発による水力発電の稼働率の低下や、乱開発による森林資源の減少のために、温暖化ガスである炭酸ガスの排出が増加しているということが分かった。国としての温暖化ガス排出削減目標を達成するために、風力発電と、まだ小規模に留まっている太陽光発電の拡大に力を入れる施策を打ち出している。
 世界的には太陽光発電の設置が先行した国がほとんどだが、ブラジルは風力発電の設置が急速に進んだ。それには、ブラジルの風況の良さがある。風力発電の設備利用率は、通常25%ほどなのだが、ブラジルでは平均が40%を超えており、北東部では50%を超えるところもあるという。今後大西洋岸付近を中心に巨大なウインドファームの建設が進展すると想定される。
 2020年12月16日、鉱山エネルギー省は長期的なエネルギー需給政策の在り方を定めた「国家エネルギー計画2050(PNE2050)」を新たに公表している。これによると、計画の終期である2050年には。2015年との対比で、エネルギー消費量が2.2倍、電力消費量が3.3倍になると想定しており、これに対応するための手段として、エネルギー源の多角化と量の確保を基本方針としている。電力確保の方向性としては、現状の過度の水力発電依存を下げ、水力以外の再生可能エネルギー比率を向上させるほか、原子力の活用を進めるとともに、安定的なベースロード電源として、国内産のガスを燃料にする火力発電の活用を目指すとしている。
 ガス火力の増強には、変動性再エネの導入による送電系統の不安定化を防止する目的もあると理解されるが、今後の動向を見守る必要があるだろう。