化石賞の真実
中山 寿美枝
J-POWER 執行役員、京都大学経営管理大学院 特命教授
COPが開催される度に大々的に「日本が化石賞を受賞」というニュースがNHK始め多くのメディアで報道される。日本では化石賞に対する関心が異様に高い。Google Trendを使って、COP26開催期間を含む一カ月間に化石賞という言葉とその原題Fossil of the dayがどれだけ世界で検索されているか調べてみると、世界中でFossil of the dayが検索される回数より、日本で化石賞が検索される回数の方がはるかに上回っている。
何故、日本人はこれほど化石賞に関心があるのか、周囲の若者に聞いてみたところ3割強が「受賞回数が多いから」、3割弱が「自国が環境後進国であることに罪悪感を持っているから」という回答だった。しかし、実際のCOP26実施期間中の化石賞の受賞をご覧頂きたい(主催のCANのウェブサイトで閲覧可能)。日本の受賞は11月2日の1回で、岸田首相がリーダーズサミットで演説した際に脱石炭を表明しなかったという理由である。それに対して、最多受賞はオーストラリアの6回、それに続いて、開催国である英国の4回、米国とニュージーランドも3回受賞している。
Google Trendで調べてみると、これらの受賞ランキング上位の国でFossil of the dayという言葉が熱心に検索されているということはない。何故、これらの国では化石賞への関心が低いのか?IEEI理事の竹内氏が本サイト上で何度も指摘しているように、化石賞は1つの環境NGOによる「学園祭的イベント」であり、常連受賞国のメディアは報道する価値を認めていない(受賞したからといって恥ずかしくも思わない)からであろう。
CANのウェブサイトには受賞理由も記載されているが、ノルウェーの受賞理由は、トランジションンにCCUSでオフセットして化石燃料採掘を継続しようとしているから、フランスの受賞理由はEUタクソノミーに原子力とガスを含めることを提案しているから、である。CCUSも原子力も脱炭素技術であることは変わりないのに、トランジションであっても再エネ以外は何も認めないというのは理不尽ではないのか。
明らかに、日本で化石賞が非常に高い関心を集めているのは受賞回数が多いからではなく、メディアによる報道が多いからである。しかし、報道されるのは「日本が受賞した」ことのみで、他の情報がない。化石賞の受賞の報道は、幅広い正しい情報と共に提供されれば、国民がその意味をじっくり考えて、気候変動対策、エネルギー政策への関心を高めるよい機会となるかもしれないが、今の実態は徒に国民の罪悪感を煽るだけである。メディアは日本の受賞を報道するだけでなく、他の受賞国について、その受賞理由についてもきちんと報道すべきではないか、私は強くそう思う。
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