透明な太陽光発電パネルと温室


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 このコラムで以前、透明な太陽光発電パネルが開発され、発電出来る窓ガラスとして使われるようになるだろうという海外情報を紹介したことがある(2018年9月12日掲載)。それをきっかけにして、透明という特性を生かして、温室(グリーンハウス)の構造材として利用できないかと考えていた。というのは、日本でのメガソーラー開発は、いずれ設置可能な場所の制約から頭打ちにならざるを得ず、建物への装着しか拡大余地はないだろうが、窓ガラスといった構造材への利用で発電規模の拡大はかなり難しいと考えたからだ。

 広く農業に利用されている温室は、太陽光エネルギーを、効果的、安定的に植物栽培に利用するのだが、透明なガラスかビニールで採光している。このガラスやビニールを透明な太陽光発電パネルに置き換えることができれば、農地を犠牲にすることなく、太陽光発電を拡張できるはずだ。パネルのコストは当然課題になるが、それと同時に、透明とはいえ太陽のエネルギーを発電に利用した後の光が、植物の生長を阻害するようであれば、この方式は適合しないことになる。

 この課題に多少答えてくれる研究があることを最近知った。米国のノースカロライナ州立大学のリサーチャーが、条件を変えた太陽光を照射する温室でレタスを30日間種から育てて成長させ、透明な樹脂素材のソーラーパネルを使った温室でも順調に育つことを確認できたとするレポートだ。具体的にどのような条件設定をしたのかというと、まず全体を4つのグループに分け、一つは通常の太陽光で栽培する標準的なもので、これが参照モデルとなる。他の3つは、赤から青までの光の通過量を変えた光フィルターを使って、透過する光のレベルを変えたもので、透明なソーラーパネルを光が通過する量の多寡を想定したものだった。


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 それぞれのグループで育つレタスの数、葉っぱの枚数と大きさ、重さ、炭酸ガスの吸収量、レタスに含まれる抗酸化物のレベルを比較したのだが、この研究グループが驚かされたのは、照射する光の色の分布が違っても、収穫されたレタスには殆ど差がなかったということだった。研究グループは、この成果を踏まえて、他の野菜、トマト、についても同様の方式での試験栽培をしようとしている。

 もし、この研究成果が、温室で栽培される植物へ一般的に適合するとすれば、コストの課題が大きくなければ、日本の温室を太陽光発電所にすることが出来るはずだ。温室も換気や送水ポンプなどに電力が必要なものもあるから、異質なものが取り付けられるという事にはならないだろう。しかも、温室としての外観が大きく変わることもないはずだ。

 農林水産省が出した「園芸用施設の設置等の状況(H30)」によると、日本のガラス室及びハウスの設置実面積は42,000ヘクタール(ヘクタール=10,000平方メートル)だから、太陽光発電が可能になるとすれば、かなりの発電規模になり得る。たまたま知ったことだが、NTTアドバンステクノロジ社が、2020年5月、無色透明型光発電素子「SQPV(Solar Quartz Photovoltaic)」技術を使用して製造した高機能ガラス製品の販売において、日本のベンチャーであるinQs社と、国内独占販売契約を締結したと発表している。国内で発電する透明ガラスが入手できるということだから、発電する温室が実現する可能性はあるかもしれない。