「プラスチック資源循環法案」が目指すもの


東海大学副学長・政治経済学部教授

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はじめに

 このほど「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」(ここでは、プラスチック資源循環法案と略称する)が閣議決定され、第204回通常国会に提出される予定である。昨年7月にプラスチック製のレジ袋が有料化されたこともあり、本法案に関する報道では、ワンウエイのプラスチック製カトラリーの有料化の面ばかりが強調されているように感じてならない。しかし、本法案は資源循環政策の一つとして位置付けられるものであり、プラスチック資源を含めたより広い資源循環の観点から捉えるべきであると筆者は見ている。こうした視点から本法案について考えてみたい。

資源循環政策の展開について

 プラスチック資源循環法案の特徴を述べる前に、本法案が閣議決定された背景にある資源循環政策の流れを見ておきたい。よりマクロな視点で本法を解釈することが重要だと思うからである。
 言うまでもなく、2015年のEUによって提示された循環経済パッケージは日本のみならず世界各国に大きな影響を与えた注1)。環境制約と資源制約が深刻化する現状では、環境と経済のウインウインを目指した資源循環政策はどの国にとっても避けられない選択である。廃棄物の発生を回避し、使用済み製品・部品・素材をいかに循環利用するかは、廃棄物政策のみならず経済政策としても喫緊の課題であることが共通の理解になりつつあるのだ。
 ここ最近、日本でも2017年には「産業廃棄物処理業の振興方策に関する提言」、2019年には「プラスチック資源循環戦略」、そして2020年には「循環経済ビジョン2020」と矢継ぎ早に新しい循環政策が打ち出されている。
 これらの背後にある資源の循環利用に関する共有された考え方を筆者なりに大胆にまとめると、次のようになる。すなわち、1)環境配慮設計など生産物連鎖の上流部分での発生回避措置、2)動脈経済と静脈経済の連携・協力による資源の高度な循環利用の促進、3)静脈ビジネスの活性化・成熟化の促進、などである。
 さらに言えば、日本ではハードローのみならずソフトローをうまく活用することによって資源の高度な循環利用を図るというEUにはあまりない発想があることに留意する必要がある。この点は、日本のマクロ的な資源循環政策の中でプラスチック資源循環法案を捉える時重要な論点となる。

プラスチック資源循環法案の特徴

 この法案の特徴を一言で言うならば、プラスチック資源に関する生産物連鎖制御の実現ということになろう。すなわち、動脈連鎖と静脈連鎖を繋げて、その連鎖上で廃プラスチックの発生回避、排出抑制、そして資源の高度な循環利用を図るというものである注2)。その手段の一つとして、ワンウエイのプラスチックを削減することも重要だが、これはこの法律の多々ある要素のうちの一つに過ぎない。
 本法案による生産物連鎖制御を見ると次のようになる。まず、生産物連鎖の最上流では、プラスチック廃棄物の発生回避および循環利用のための環境配慮設計が促される。これを実現するための制度的措置が「環境配慮設計に関する指針」の策定である。指針に適合した製品を国が認定し、認定製品については国が率先して調達することが求められている。認定製品はいわばグリーン調達の対象となるわけで、プラスチック資源循環の環が閉じるよう企図されている。
 次に連鎖の中間にある利用段階であるが、ワンウエイプラスチックを提供する事業者に対しては、ワンウエイプラスチックの削減に取り組むべき判断基準が国によって策定される。この判断基準には様々なものがあり得る。例えば、ワンウエイプラスチックの有料化もその一つの手段であり、この部分がマスコミによって大きく報道されているのである。
 最後に連鎖の最下流の排出段階では、プラスチック資源の高度な循環利用のルートに関して3つの要点が提示されている。第1は、市区町村については容器包装リサイクル法ルートを活用することによって再商品化を促す点である。加えて、再商品化事業者との連携の促進による再商品化という仕掛けも組み入れられている。
 第2は、製造・販売事業者による自主回収・再資源化の促進という点である。主務大臣によって認定された事業者には、廃棄物処理法上の業の許可が不要になる。つまり的確な回収・再資源化の計画を作成し実行する能力のある製造・販売事業者には規制緩和措置が適用され、ビジネスの力でプラスチック資源の高度な循環利用が可能になることが期待されているのである。
 第3は、排出事業者にも排出抑制・再資源化を促進することが求められている点である。彼らの取り組むべき判断基準が国によって策定され、それと同時に排出事業者などの再資源化計画が国によって認定されれば、廃棄物処理法上の業の許可が不要になるように配慮されている。ここでも、民間ビジネスによる自主的な力が発揮されるよう考えられている。

2つの留意点

 以上がプラスチック資源循環法案の概略であるが、ここで2つの点に注意しておきたい。第1は、多様化したプラスチック資源の高度な循環利用をどのように進めるかという点である。
 例えばペットボトルのような単一素材の場合、回収も容易でしかも高質なリサイクルが可能であり、現在ではボトルtoボトルのリサイクルも実現している。しかし、その他のプラスチック製品ではそのようなリサイクルは難しい。使い勝手の良さから、多層ラミネートのようなプラスチック製品も多く見かけられるが、これが高質なリサイクルを難しくしている。
 それではどのような対応が期待されているのだろうか。ここで意味を持ってくるのが環境配慮設計に関する指針である。この措置によって、リサイクルのより容易な、例えば単一素材を中心としたプラスチック製品、あるいは多層であっても分離が容易なプラスチック製品への代替が進めばプラスチックの循環利用が進む。加えて、再生プラスチックを需要するユーザの仕様に合わせた再資源化ができる再生事業者に廃プラスチックが集約的に集まれば、プラスチック資源の高度な循環利用が可能になる。同時に、ケミカルリサイクルなど新たな再資源化技術が実用可能になれば、複雑なプラスチック製品でも高質なリサイクルができるようになるだろう。
 第2の点は、既に触れたが、家庭系と事業系の廃プラスチックが一括回収され、分別・再商品化されるルートが用意されていることである。法律案からはいささか読み取りにくい嫌いがあるのだが、第31?36条を眼光紙背に徹して読めばこの可能性が理解できる注3)。事業系だろうが家庭系だろうが性状が同一の容器包装類があるわけで、そのようなプラスチック廃棄物については、市区町村が一括回収するのであれば、適正に分別したのちに容器包装リサイクル法のルートを利用して再商品化した方が効率的になるだろう。
 もとよりこれは一つの可能性なのであって、すべての市区町村がそのような対応をすべきであるというわけではない。実現可能な範囲において既存のルートを利用した効率的な回収・分別・再商品化が法的に許されることになるのであり、本法案はよりプラスチック資源の高度な循環利用の道を開いたということになるだろう。
 市区町村も、プラスチック資源に限らず、今後は資源の高度な循環利用という視点をより積極的に取り入れ、法律の許す範囲内で民間との協力を惜しむべきではない。どの主体にもこれまでにない柔軟な対応が求められている。プラスチック資源循環法案はその先駆けとなっていると考えて良いだろう。

おわりに:プラスチック資源循環法の課題

 以上見てきたことから、プラスチック資源循環法案は、プラスチックに関して生産物連鎖制御を実現することによって廃プラスチックの発生回避・排出抑制そして高度な循環利用を目指していることがわかる。製造・販売事業者にいわゆる狭い意味での拡大生産者責任(すなわち、使用済み製品・部品・素材の回収・リサイクル・処理・処分に関する財政的ないし物理的責任)は課せられていないが、認定制度を用いて廃棄物処理法上の業の許可を不要にするなど、促進法的要素の強い法律と言えるだろう。ビジネスの側の自主性を尊重し、柔軟な対応の促進を図っているのだ。
 しかしそうは言っても、狭い意味での拡大生産者責任などの強い制約が組み込まれていない以上、本法案だけで廃プラスチックの発生回避・排出抑制、高度な循環利用を実現するのは容易ではない注4)。そこで重要になるのが、本稿の最初に述べたマクロ資源循環政策的な視点である。プラスチック資源循環戦略で提示されているような定量的なマイルストーンを実現するためにも、本戦略の基本思想や『循環形成ビジョン2020』の内容を実施するための仕掛けが必要である。
 筆者は、それはソフトローに裏付けられたビジネスの側の自主的な取り組みであると考えている。日本では業界が色々な意味で機能していて、とりわけ資源の高度な循環利用では業界の役割および取り組みが重要になる。このソフトローがハードローを補完するとき、異種の主体の連携協力が進み、この法律の意図が極めて高いレベルで達成されると思われる注5)。実際、例えば現在、葛飾区と全国清涼飲料連合会との連携協力でのペットボトルリサイクルなども進んでおり、こうした自主的な取り組みを加速する意味でもこの法律の意味は大きい。
 もう一つの課題を挙げておこう。それは、資源循環の入り口と出口の結合に関する課題である。本法では、環境配慮設計を体現した認定製品をグリーン購入法の規定に沿って調達することが求められているが、その対象となるのは当然国である。確かに、民間主体も認定製品を購入する努力が求められているが、それは努力の要請なのであって強い縛りにはなっているとは言い難い注6)。再生プラスチックの出口(供給側)と入口(需要側)をつなげて循環利用を促進するためにはこれだけの措置では十分とは言えないのではないだろうか。循環の環を完成させるためには、認定製品を民間がより積極的に調達することが求められる。
 民間主体が率先して認定製品を調達した場合には、国がそうした行為を積極的に評価するような仕組みも必要ではないかと筆者は考える。そうすれば、ビジネスの側での認定製品の調達がソフトローによって促進されることにもつながり、ハードローである本法律の狙いも達成されやすくなる。こうして、プラスチック資源に関する高度な循環利用が促進されるであろう。
 ハードローとソフトローのカプリングはプラスチック資源のみならず、あらゆる資源の高度な循環利用に必要不可欠なものとなる。本法案の狙いが十分に理解され、その基本思想が他の循環資源にも適用されることが多いに期待される。

注1)
日本では1999年段階で既に「循環経済」の道筋を示していることは注目に値する(産業構造審議会地球環境部会、廃棄物・リサイクル部会合同基本問題小委員会(1999)『循環経済ビジョン』財団法人通商産業調査会)。
注2)
生産物連鎖制御については、細田衛士(2015)『資源の循環利用とはなにか ―バッズをグッズに変える新しいシステムー』(岩波書店)を参照。
注3)
産業構造審議会産業技術環境分科会廃棄物・リサイクル小委員会プラスチック資源循環戦略ワーキンググループ、中央環境審議会循環型社会部会プラスチック資源循環小委員会合同会議(第7回)の参考資料1がこのことの理解に役立つ。
注4)
但し、その場合でも、生産者には循環基本法第11条で規定されているような環境配慮設計、使用済み製品・部品・素材の回収・リサイクル・処理処分・循環利用などの責務があるわけであり、生産者には広い意味での拡大生産者責任が課せられていると解することもできる。
注5)
この点の論考については、細田(2021)「循環経済の新たなる展開」(『都市清掃』、Vol. 74 、No. 360、pp. 114-120参照。
注6)
本法案第10条2項を参照。